永遠の若さ?
「せいっ!」
桐葉のつま先に顔面を抉られ、相手は両手を伸ばしたまま、硬い靴底を顔面に叩きこまれ、撃沈した。
「悪いけど、ボクの股下、90センチあるんだよね」
冷酷な声で、桐葉は醜いオークたちに吐き捨てた。
「つま先を伸ばせばリーチは一メートル越え。キミらじゃどうあがいても届かないよ」
今の桐葉は初めて会った頃のようにクールだった。
桐葉は他人の悪意を感じると、長年のいじめで生まれた性格が表に出てしまう。
二度とそんなことが起こらないように、この一年、俺は彼女を愛してきた。
ずっと、ずっと桐葉が無邪気でいたずらっぽく笑いながら俺に甘えられるようにしたい。
だけど……。
全てのモンスター婚活女子を駆逐した桐葉は死屍累々の戦場の中央に立ち、クールに髪をかき上げた。
「おつかれ桐葉。でもお前がこんなことしなくてもいいんだぞ?」
「何を言っているんだいハニー。ボクは志願してここにいるんだよ」
「それはそうだけど……」
彼女はクールな顔を捨てて、いたずらっぽく笑った。
「だって、ハニーにカッコよく戦うボクを見て欲しいからね」
「え?」
「ハニーって、クールに戦うボクも嫌いじゃないだろう?」
戦乙女のようでカッコイイと思っている気持ちを見透かされて、俺ははにかんだ。
ちなみに、一部始終が放送され、世間の桐葉人気がめちゃくちゃ上がった。
◆
夜。
家に帰った俺らはどっと疲れ気分だった。
「お帰りハニー君。どうしたの? 顔が不幸そうだよ?」
美稲に出迎えられて、俺は空元気で笑った。
「ありがとうな美稲。ただちょっとモンスター婚活女子がな」
「そっか、辛かったね」
俺が渋い顔をすると、美稲が頭をなでなでしてくれた。幸せを感じる。
「ハニーもハイスペ男子なんだから、気を付けてね」
桐葉がちょこんと肩を押し付けてきた。こっちも幸せを感じる。
「そういや全然自覚ないけど俺、億単位で稼いでいるんだよな」
――まぁ俺っていうか俺たちだけど。
「で、三人は何をしているんだ?」
リビングの窓際では、真理愛と舞恋が床に寝そべる麻弥たんをころころ転がしていた。
「はい。麻弥さんを転がすと楽しいことに気が付いたんです」
「転がされると楽しいことに気が付いたのです」
「麻弥は軽いからよく転がるね」
「そっかー」
――なんて安上がりな子たちだろう。
もっとも、贅沢三昧な舞恋たち、というのも想像がつかない。
「そういえば早百合さん。あいつら、年を取ると体のメンテナンスがどうとか言ってましたよね?」
「うむ」
「最近テレビで見たんですけど、老化って全身の細胞が劣化するんじゃなくて、ごく一部の劣化細胞が健康な細胞の足を引っ張ることで起きるらしいですね」
「その通りだ。貴君の言う通り、人は皆、生まれた瞬間は全ての細胞が健康だが、年々劣化細胞の数が増え、体を占める劣化細胞の比率が上がるにつれて機能不全を起こす。これが老化だ」
早百合さんの言葉に、詩冴が首をひねった。
「迷惑っすね。あれ? じゃあその劣化細胞がなくなればずっとピチピチっすか?」
「その通りだ。しかし、人体には細胞を生き永らえさせる機能がある。劣化細胞が死滅しないよう支えてしまう。いわば老化とは人間の自己防衛機能の副作用だ」
「へぇ、でも老化が止まるだけで流石に若返りはしないっすよね?」
その質問には、美稲が答えた。
「ううん。私もそのニュースを見たんだけどね、マウスの実験で劣化細胞を取り除いたら老齢由来の病気が全部治って若返ったんだって」
「え、じゃあ不老不死に!?」
「いや、細胞分裂限界があるからそれは無理だけど、将来的には120歳で老衰するまで若いままになるかもしれないみたい」
「無論、一般化するのは数十年後だろうがな。なにせ劣化細胞を死滅させる投薬を行ってから何十年も経った者がおらん。一時的に若返り、後で副作用が出ても困るからな」
「ですね」
実際、SF漫画では若返りの薬を飲んだ人がその後、化け物になったり反動で急激に老化したりするのはよくある展開だ。
「それで思ったんですけど、俺って今、がん患者のがん細胞をテレポートで取り出して、患部を茉美に治療させているじゃないですか?」
「ん?」
早百合さんの表情が鋭くなった。
むしろ、麻弥たんをのぞく女性陣全員の表情が固まった。
「もしかして、俺が劣化細胞をテレポートしてから茉美がヒーリングすれば、副作用なしで若返るんじゃないですか?」
「さぁやれ!」
早百合さんは両手両足を左右に開いて迫ってきた。
「即答ですか!? ていうか早百合さんはまだピチピチの二十代でしょう?」
「馬鹿者! 私は今年の誕生日が来たら25歳! 四捨五入しても貴君とおない年にならなくなってしまうのだぞ! 肉体だけでもおない年にしてくれ!」
「え~~」
早百合さんの裸を思い出し、割とムラムラしながら眉根を寄せた。
――絶対に必要ないと思うんだけどなぁ……。
「じゃあ茉美、ちょっと頼む」
「いいわよ」
俺と茉美が早百合さんに手をかざして、俺はイメージした。
劣化細胞の特徴はテレビで学習済みだ。
たんぱく質の分解酵素の袋が破けて垂れ流しで自分で自分を分解しようとしていて、それを止めるために酸性を中和するためのアルカリ性物質を出していて、そのアルカリ性物質が加齢臭の原因になっている。
そんな劣化細胞を、早百合さんの中から全てテレポートする。
「はい。いま早百合さんの全身にヒーリングかけているから、いつでもいいわよ」
「ああ。よっと!」
俺がテレポートを使うと、早百合さんのまぶたが上がった。
「むっ、なんだこの感覚は?」
「え、何かまずいですか!?」
俺は心臓が冷たくなるほど動揺するも、早百合さんは感動の声を漏らした。
「いや、凄いぞ。体が軽いのだが、こんなの中学時代でも、なんだ? なんなんだこの感覚は!?」
美稲が何かに気づいた。
★本作ではカクヨムでは495話まで先行配信しています。




