猟銃の安全装置が外された
「このド変態クソ野郎がぁああああああああああああああああ!」
猟銃の安全装置が外された。
「な、なんで怒るんですか? 俺が爆乳至上主義なのがいけないんですよね?」
「黙れ腐れロリコンペドフィリ野郎! いいか、麻弥たんと子作りするってことは身長140センチ未満のつるぺたぺったん小尻幼児体型相手に逸物をギンギンに滾らせて串刺して腰振って気持ちよくなって生ナカ出しキメるってことなんだぞ!」
桐葉と美稲の視線がお父さん、の隣で紅茶を飲んでいる麻弥たんのお母さんに集まった。
「合法ロリの幼女ボディにエロスを見出すなんてド変態じゃねぇか!」
桐葉と美稲の視線がお父さん、お母さん、麻弥たんを順番に移っていく。
「麻弥たんに欲情できるってことはそこらへんの本物の幼女にも欲情できるってことじゃねぇか! そんな犯罪者予備軍はとっとと警察に行けぇええええ!」
お父さんを見つめる桐葉と美稲の視線が氷点下まで下がっていた。
「あの、それ全部ブーメランだと思うんですけど?」
「オレはいいんだよ! ごちゃごちゃ言ってねぇで決闘だ! 表に出やがれ!」
お父さんは容赦なく猟銃の引き金を引いた。
耳をつんざく轟音と同時に、クマをも撃ち殺す凶弾がベランダ窓のカギをブチ抜いた。
お父さんは日本刀片手に風穴の空いたベランダ窓を蹴破り、庭に出ると日本刀から鞘を抜き、地面に捨てた。
――この人無茶苦茶だ。
俺は戦々恐々としながらも、庭に出た。
――まっ、テレポート使えば余裕だろ。
「待っててくれみんな、すぐに戻るから」
言って、俺は麻弥たんを美稲に手渡した。
「がんばれハニー! ワンパンでいいよー!」
「無茶しちゃだめだよハニー君、相手は一般人なんだから」
「ハニー、勝つのですー」
麻弥たんの応援に、お父さんの殺意の波動が高まり気が満ちていくのが分かる。
――俺を想うなら黙ってて。
でも実際、俺に負ける理由はない。
だって。
「ちぇすとぉおおおお!」
お父さんが日本刀を上段に構えると同時に、俺はテレポートで刀をワープさせた。
「ん? あん?」
日本刀は、庭の端に転がっている。
「ちっ、超能力か!」
「はい。だからもうやめませんか? 俺に武器は効かないですよ?」
あとはこの体格差だ。
お父さんをケガさせたくはないし、正直もうお流れにしたい。
「だからどうした?」
お父さんの体が加速した。
カカトで地面を踏み抜き、土砂を巻き上げ、弾丸のような加速度で俺との距離を貫いてきた。
「は?」
――ちょっ!
お父さんの真後ろにテレポート。
が、すでにお父さんは力強く腰をひねり、バックハンドを俺のわき腹に叩き込んできた。
「ぐふっ!」
「ちっ、浅かったか」
お父さんは舌打ちをするけどとんでもない。
茉美に殴られ慣れていなかったら今ので終わっていた。
この人、強い。
それも、とてつもなく。
「疾ッ!」
世界の色が変わった。
空気が、世界を満たす何かがお父さんの体に集約されるような感覚の刹那、衝撃が奔った。
みぞおち。
アゴ。
のど。
恥骨。
都合四か所を貫くような衝撃のつるべ打ち。
知っている。
これは前に茉美が見せてくれた空手の奥義、正中線四連突きだ。
左右の拳を交互に突き出すのとはわけが違う。
みぞおちに叩き込んだ右拳をそのまま上に跳ね上げ、アゴを打ち上げる。
続けて無防備に開いた喉に左拳を、最後に右拳を恥骨に叩き込む。
机上の空論ともいえるデザインされ尽くした動き。
演武の中でのみ扱えるソレを、お父さんは呼吸も同然に扱っていた。
――おいおい嘘だろ。こんなの茉美と早百合さんと桐葉以外にできる奴がいたのか……うちの嫁たちおかしくない?
などとツッコミを入れる暇もなく、お父さんの跳び膝蹴りが顔に直撃。
みぞおちと恥骨への一撃で体をくの字に曲げた相手の顔に跳び膝蹴り。
四連突きをさらに昇華させている。
――テレポートで緊急回避だ。
そう思ったのも束の間、みぞおちにさらなる鋭撃が突き刺さった。
「!?」
遅れて聞こえる破裂音。
視界の端には、戦闘機が音速を超えた時にまとう白い傘、ベイパーコーンを貫くお父さんの拳が見えた。
「音速拳……時速50キロで走る列車の中で時速20キロで走れば、乗客は地上を時速70キロで動いたことになる。正拳突きに使う全ての関節の同時加速が、時速1224キロ、超音速を実現する。そして」
――アポート!
俺とお父さんの間に、遠くの岩山からアポートした巨岩をアポートした。
俺の視界を覆う巨岩の壁に蜘蛛の巣上の亀裂が入り、粉々に砕け崩れた。
「金剛拳……インパクトの瞬間、全身の関節を固めオレがひとつの鉄塊となることで、拳に全体重を乗せることができる。オレの体重が35キロ。オレは、35キロの砲弾となれる」
――ヤバイヤバイヤバイ! この人ヤバイ!
瓦礫をすべてお父さんの頭上にテレポート。
無数の瓦礫が頭上に降り注ぐ中、しかし石礫はお父さんの体をすり抜けていく。
「水練拳……究極の脱力が至高の柔軟性と動きの融通性を実現する。脱力から力みに転換する落差が大きいほど筋肉の発揮する出力は高まる。ゼロパワーのさらに先、脱力を超えた脱力、マイナスの力みの果てに、人は人を超える」
瓦礫の雨をすり抜けてきた。
無駄と分かっていても、俺は苦し紛れに巨岩の盾を出すしかなかった。
タン
あまりに優しい、ささやかな打撃音。
不発か?
そう思った矢先、一拍遅れて俺の腹を衝撃が貫いた。
「がはっ!」
背中を草地に叩きつけ、もがく俺を、お父さんは絶対零度の殺意で見下ろしてきた。
「浸透勁……打撃の爆発点をズラす技だ。重ねた瓦の何枚目かだけど砕くアレだよ……こいつの前じゃ、戦車装甲すらも無に等しい……」
――おいおいこの人絵本作家じゃなかったのか?
「ところで娑婆僧くん……もしもこの四つを合わせたらどうなると思う?」
「!? まさか……」
「そうだ。水練拳から放った音速拳の速度でオレの全体重をかけた一撃を内臓に直接叩き込む。浜に打ち上げられ、余命いくばくもないクジラの介錯に成功したこの技を、オレはこう名付けたよ……【海王殺し】」
純然たる殺意を込めて告げられた名前に、俺は肝を冷やしながら背中に汗をかいた。
「それだけの強さがあって、なんで絵本作家になったんですか?」
「勘違いするなよ。オレは元から絵本作家だ。この技は、テメェを殺すためにここ一か月で身に着けたものだ」
「一か月!?」
「おかげで日本武術界四天王が山にこもっちまったよ」
――なんて迷惑な。
「そしてその技術を剣術に乗せ、光速の剣戟を生み出した。これも全てはテメェを殺す為、いや」
お父さんは庭に転がる日本刀を拾い上げると、再び上段に構えた。
「全ては、テメェのチンコを切り落とす為だぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
巨大ベイパーコーンを貫き、父さんの体が超加速。
テレポートの発動も間に合わない速度で迫ってきた。




