後編
僕は、彼女と遊園地デートをしていた。彼女の名前は「アカリ」という。モデルみたいにスタイルが良くて、メガネがとても似合う優しい雰囲気に包まれた女性である。交際してからもう半年が過ぎていた。
そんな彼女との馴れ初めを説明すると……う~ん、少々話しが長くなりそうなので今回はやめておくことにしよう。だって、アカリを紹介してもらったのは、僕が前に交際していた元カノだったからだ。まぁこのへんが少し複雑なので、この説明は省いている。その点は、読者の皆様にはご了承願いたい。
そうして僕はアカリと付き合っていたわけだけれど、楽しいと思えたのは結局、最初の頃だけだった。
アカリは、容姿も内面も申し分ないくらい素敵で、大好きな女性だったのだけれど、ただ一点だけ、僕がどうしても許せないことがあったのだ。
それは、彼女の浮気だった。
僕たちが交際して五ヶ月が過ぎた頃、彼女はやけに新しい指輪やペンダントを身につけるようになった。僕がそれに着目すると、アカリは「自分で買ったの」と答えたけれど、のちに判明したそれらの金額は、何十万もするものばかりだった。学生の身分で、実家もそれほど裕福ではなさそうだった彼女が、そんな高価なものを次々と自分で購入するなんて、僕には思えなかった。
僕はそのことを素直に、アカリに伝えてみた。すると彼女は、簡単に浮気していたことを認めた。
「彼が、私に似合うからってどんどんプレゼントしてくれたのよ」
アカリの話を聞いていると、どうやら浮気相手はどこかの有名な若い社長らしいということがわかった。その社長とは数週間前に知り合ったばかりだそうで、アカリは、「裏切ってごめんね。もうその人とは絶対会わないから」と僕に約束してくれた。
だけど僕は結局、その一ヶ月後くらいに、アカリに別れを告げていた。
彼女との遊園地デートが終わった後に、僕から別れの言葉を切り出したのだ。もう何をやっていてもアカリのことを信用できなくなってしまった自分がいたのだった。
◇
僕は落ち込んだときにはよく、自宅近くにある河川敷へ散歩をしに行っていた。
太陽の光が川面に反射しているのを見ながら一人で歩いていると、向こうから知っている顔が現れた。その人物は、モデルみたいにスタイルが良くて、笑うと両頬に可愛らしい笑窪ができる女性だった。どこかへ向かう途中なのか、両手で大きめのバッグを持ち、こちらの方に向かって歩いてくる。
僕はその光景を見て、思わず立ち止まった。だって、その女性は、僕が「アカリ」という女性と付き合う前に、交際していた元カノだったからだ。ついでに言うと、「アカリ」を僕に紹介してくれたのも、この元カノだった。
「偶然だね、久しぶり」
僕は思い切って、こちらに近づいてきた元カノに声をかけてみた。
向こうも僕に気づいたみたいだ。僕の目の前に立ち止まって、微笑みかけてくれる。その両頬にできた笑窪を見て、僕は急に懐かしさを覚えた。
最初は当たり障りのない会話だけだったけれど、いつのまにか僕たちは緊張が解けて、お互いの口数が増えていた。
こうして喋っていると、僕はさっきまで落ち込んでいたことも忘れて自然と笑顔が出ていた。彼女の落ち着いた話し方は僕の心を癒してくれる。まるで付き合っていた当時みたいに、僕は楽しくなった。
「なぁ……俺たちやり直さないか?」
僕は元カノの顔色を窺うようにして言ってみた。突然のことだったから断られるかなと心配したけれど、彼女は僕と同じ気持ちだったようで、首を縦に振ってくれた。
僕はそれで安心して、口から大きな溜め息が漏れた。彼女も、そんな僕を見て優しく微笑んでくれる。そして、彼女はこう言った。
「あ、そうだ♪ こんなこともあろうかと、私ね、今日はお弁当を二つ作ってきたんだ。もうすぐお昼でしょ? 一緒に食べましょうよ。これ、あなたの大好きな唐揚げが入ったお弁当よ。あ、そういえば昔、あなたとピクニックに行き損ねたことがあったわね。ちょうどいいわ。今日は青空だから、あの公園に行って、二人で食べましょう。もちろん、二人分のレジャーシートと水筒も持ってきているわよ」
彼女は昔と変わらない笑顔で、そう僕に話していた。
相変わらず気が利くようで、今日、僕と偶然河川敷で再会することも、復縁することも予知して、わざわざ早起きをして二人分のお弁当を用意してくれたらしい。
それを知った僕は、小さく溜め息を吐いた。すると彼女は、僕の顔色を窺いながら、こう言った。
「あ。今、ちょっとだけ、私と復縁したことを後悔したでしょ? でもね、大丈夫。そんな気持ちは数時間後には徐々に忘れていくから。あなたがまた私の気遣いを鬱陶しく思いはじめるのは……う~ん、そうね……私の計算によると、あと半年後くらいからかな。だから、それまでは私たちの愛はもつわよ♪」
彼女は自信満々にそう言って、にっこりと微笑んだ。
僕はその顔を見て少しとまどったけれど、その数時間後には、彼女の言った通り、過去を気にすることはなくなっていた。何だかもう、どうでもいい気分になってきて、僕は開き直ったのだ。
所詮、彼女も人間だ。彼女のその計算が間違うことだってあるだろう。次こそは、僕がその彼女の計算を狂わせてやればいいだけのことさ。きっと僕は一生、彼女と共に人生を生きるんだ。
そう思うことにした僕は、彼女の手をしっかりと繋いで、ピクニックデートへ向かったのだった。
短い連載ですがf(^_^;
最後まで読んでくださり、ありがとうございました<(_ _*)>