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第二十三話『遁世』

A「おー、元気か?」


B「まぁな。まだ少し痒くなる所はあるけど、


  1週間も経ったら流石に落ち着いてくるわ。

 

  暴飲暴食で内臓近辺には相当負担かけまくってるのに、

 

  自然治癒能力半端ねぇわ」


A「事故当日の容態を撮って見せたら、自分で大笑いしてたもんな」


B「ミイラ男になれるなんておいしいじゃん」


A「そう言うだろうからって撮ったけど、親御さんにめっちゃ怒られたよ」


B「それは納得するまで謝り通したろ?」


A「どやされるまでは半笑いだったよね?」


B「【他人の不幸は蜜の味】が顔にちょっと出ただけだって」


A「出すな。それが公開説教の引き金になったんだろうに」


B「10年ぶりに拳骨を食らったわ」


A「しかも、一番えぐい音を出したのが親御さんじゃなくて、


  杏奈(あんな)ちゃんの正拳突きだったって?」


B「奴は俺よりも、原付が大破した方が痛かったんだろ?


  大枚(はた)いて買ったけど

 

  1週間で俺が事故ってお釈迦にしちゃったから」


A「普段はぽややんなのに、あんなに豹変するとはね」


B「杏奈だけに?」


A「そこにギャグはいらん」


B「怪我人だってのに急所に打ち込んできて、本当に逝くかと思った」


A「更なる怪我がなくて何より」


B「おう」


A「あの一悶着の後、俺は帰ったけど示談交渉の結果は?」


B「最新の新車とメット込みで20万。しかも一括だとよ」


A「出せんのかよ?」


B「出せる出せないレベルじゃねぇの。出すの。


  拒否権はなし。覚書書かされて拇印まで捺されちゃ呑むしかねぇよ」


A「泣きっ面に蜂ってか。全治は?」


B「擦過傷(すりきず)の火傷は10日で治るっぽいけど、


  問題は軸足の開放骨折。リハビリ込みで3か月かかるってよ」


A「だったらどうすんだよ20万?杏奈ちゃんすぐ原付要るんだろ?」


B「仕方ないから立て替えてもらったよ。


  入院費も込み込みで半年はタダ働き確定で頭と脚が痛いよ」


A「マジかぁ……なら、週末も無理じゃん」


B「週末?どうした?」


A「【Wasp(ワスプ)】の2日目、しかも前列」


B「はぁ?どうしてこんな時に当たんだよ?」


A「前、テレビでやってただろ?


  懸賞で当たりやすくなるテクニックを教えますってヤツ。

 

  お前が「眉唾じゃん……」って疑ってたろ?

 

  試しにそれやったら当たっちまって…… ほれ」


B「すっげー、当選証明書だ……」


A「普段なら連れてこうと思ったけど」


B「行く!這ってでも抜け出してでも行く!」


A「来るな。半身ミイラ男なんて連れ回したら一発で職質になる」


B「なら、どうすんだよ?」


A「売るってのもありかなって考えたけど、


  後々に化けて取り憑かれても厄介だから……」


B「殺すな!まだ死んでねぇし!」


A「誰かWaspで喜びそうな人でも誘うかって思ってるんだけど、心当たりある?」


B「…………いるっちゃぁ……いるけど」


A「どした?歯切れ悪いな」


B「友達の友達は友達じゃないだろ?」


A「は?」


B「俺の友達なら喜ぶ奴は何人かいるけど、


  中学時代の同級生とかフォロワーさんだから、

 

  お前と面識ないんだよ。

 

  初対面で打ち解ける自信はある?」


A「はっはっはっはっ。無理だ」


B「ちょっと情けない事を胸を張って断言しなくともよい。


  当たってはみるけどあまり期待するなよ」


A「おねげぇしますだ」


B「頼ってばかりじゃなくて、自分でも何とかしようって思ってくれよ」


A「そう言われても、俺のアカウント、フォローもフォロワーも0だし」


B「じゃぁ、何のためやってんだよ?」


A「毒吐きと愚痴を吐き出すため。


  見返したら、恨み言のオンパレードで書いた自分が引くぐらい」


B「これは愚問だと思うけど、俺については書いてある?」


A「そんな事を聞く事が愚問だと思わないかい?」


B「薄笑いで返すな。それ、ちゃんと鍵かけとけよ。


  黒々としたモノを見せられて、暗くなりたくはないからな」


A「そのあたりはぬかりなく」


B「だったら普通のアカウントは持ってないのかよ?」


A「あぁ。管理するのが面倒だろ?


  毒吐きのアカウントに間違って流しても誰の目にも止まらないけど、

 

  複数にして真面(まとも)な方に毒なんて吐いたら

 

  軽く死ねる自信はある」


B「何書いてるんだよ?」


A「そりゃもう……(へき)とかフェチとか……知りたい?」


B「野郎のパンドラの箱には興味ないからいい」


A「それはそうと言われたの持ってきたぞ。


  四六判で良かったんだよな?」


B「あぁ」


A「コミック本なら1時間ぐらいで読めて物足りないし、


  ここでエロ本を広げるワケにもいかねぇし、

 

  3冊に1冊はエロゲのノベライズにしろって言われたから、

 

  バレないように、カバーまでかけ替えた力作揃い……」


B「…………」


A「何だよ。全然乗り気になってないじゃん、どうしたよ?」


B「いやさぁ……俺がICUから一般病棟へ移ってここに来た時な、


  隣に見た目には何で入院してるんだろうって思うぐらい

 

  元気な爺ちゃんがいてさぁ、

 

  「泣くな若いの、明日があるさ」って励ましてくれて

 

  そこから話し相手になって色々と教えてもらったんだけど、

 

  一昨昨日(さきおととい)に愚痴ってたら、

 

  ふと「ありがとう。そろそろかな……」って言った直後に倒れて、

 

  そのまま亡くなってさ」


A「……」


B「その数時間後には、もう別の患者さんが入院してきてさ……


  そりゃ、何人もの患者さんの命を預かる先生や看護師さんだから、

 

  感情的にならないようにするのは当然だけど、

 

  こっち側は「はい、そうですか」って受け入れられるほどの

 

  余裕なんてないっての……」


A「まぁなぁ」


B「それによぉ……久しくテレビなんて観てねぇから、


  ついつい観るんだけど、俺等世代の人が亡くなったって

 

  ニュースが妙に目立ってきてさ。

 

  もっと年食ってから感じるもんだと思ってたけど、

 

  此処は特に死と向かい合わせを強いてくる。

 

  患者さんが次々と変わっていく度に、

 

  俺が試されている気分になって、

 

  それに敗れた人が自分で死を選ぶんだろうなって」


A「…………」


B「…………」


A「…………」


B「…………何か言えよ」


A「…………なんか食いたいものはあるか?」


B「病院食が味が薄くて……家系のラーメンをガッツリいきたいね」


A「やりたい事はあるか?」


B「そりゃWaspの舞台は観たいし、


  来週の大型アップデートも出遅れ確定じゃん。

 

  順位戦でこの出遅れは痛すぎる」


A「エロ漫画、もっと増やした方が良かったか?」


B「はぁ?人が真面目に話をしてるってのに、喧嘩売ってんの?」


A「そうじゃなくて、ちゃんと欲持ってるじゃないか。


  やりたい事が幾つも出てくるんだから、まだ大丈夫だろ?

 

  邪悪であっても目的がある方がマシってね。

 

  特に今の俺等にとっては、やっぱり3番目だろう?

 

  でなきゃ、カモフラージュなんてしないもんな」


B「言うな」


A「それに……だ」


B「あだっ」


A「擦過と脚一本で病弱キャラになんなよ。


  事故った理由(ワケ)を聞いて呆れたわ」


B「あっ…………知ってた?」


A「杏奈ちゃんから聞いた」


B「言うなよ」


A「言うかよ」


B「ダブスタ用の返答も用意してただろ?」


A「欲のあるなしってヤツか?」


B「それ。もし「ない」なんて言ってらどう切り返した?」


A「そういうのはブラックボックスの中で溶かして消していくものだろう?」


B「いいだろ?コメントの魔術師たる所以の一角を見せてくれよ」


A「う~ん…………


  「とりあえず」でいいんじゃない?

 

  食って寝て、何かやる事があればあとはオプションだ。

 

  お前は骨をくっつける事があるじゃないか。

 

  生きていく事の基本がほどほどできてればそれでよしだ」


B「……相変わらず上手いよなぁ」


A「まぁ、カウンセラー希望なんでね……


  本はここに置いていいか?」


B「いや、読まれでもしたら気まずいから、


  其処の戸棚にでもしまってお……いたら、手が届かねぇでやんの……

 

  なら、枕の下にでも置くから」


B「おう。あとは……これ」


A「待ってました!愛しのジャンクフードたち!」


B「本当にいいのか?こんなの持ち込んで」


A「いいんだよ。お見舞いって大概はフルーツばっかりでさ。


  たまには悪いモノでも取り入れてバランス取んなきゃ」


B「それはバランスを取るとは言わないと思うけどな。


  俺が頼まれたのはこれぐらいだけど、足りないものは?」


A「充分充分。これ以上頼んだら、


  見返りに何を要求されるかわかんないし」


B「あぁ、それとだ……何時まで箝口令敷くんだよ?」


A「そんなもん、敷いた覚えがないぞ」


B「事故ったって知らせがあってから、続報が全くないから、


  やれ重体だ!やれ再起不能だって憶測が其処等(そこら)中に」


A「言いたい放題だよな、全く」


B「どうすんだよ?」


A「…………いいや、このまま雲隠れする」


B「マジか?」


A「おう、羽根も伸ばしたいし、


  リハビリで悶絶している姿は晒したくないし」


B「お前がそうしたいって言うなら好きにしな」


A「だからさ、ベッドの上から動けない間パシリやって」


B「それは見返りも相当要求するぞ」


A「なら、このゴミを処分するのを許すぞ」


B「何の恩賞だよそれ……嫌がらせも甚だしい」


A「新型よりもスペックの高い自作を10万ぐらいで組むよ。


  今使ってる2代目の自作もそろそろ7年だから、

 

  ソフトのアップデートにも対応しきれなくなってきたろ?」


B「まぁ、それなら呑もう」


A「Ok。念書でも書くか?拇印も捺すぞ」


B「まだ引っ掛かってる」

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