第四話
「ねぇ、魔王様。降伏しちゃいませんか?」
今日も進まぬ作戦会議。勇者を撃退する打開策も見いだせないまま、勇者の剣の洞窟攻略が後4日に迫っていた。結局、幼い魔王の息子を洞窟に派遣する事がきまった。涙をこらえながら、か細い声で頼む息子よと言った魔王の姿に全魔物が号泣した。因に私が行こうと提案しら全員に即却下された。
「降伏はできない」
「でも、このままじゃ全滅ですよ」
「降伏しても、食料が無く我が国は緩やかに滅亡するだろう。ならば戦って死ぬが潔し」
キリっとした顔で決め台詞をいう魔王。でもねぇ、勇者に頭を下げたり世間話に付き合ったりしてる時点で【潔し】は消え失せてる気がするんですが。渋い顔を続けている魔王にツッコミを入れようかと思ったけど、この魔王、魔力は強いがメンタルがへなちょこなので、下手に突っ込むと大変めんどくさい。とりあえずツッコミは止めておく。
「食料危機……そんなに深刻なんですか」
「うむ、東の土地は痩せ果てて食物が育たない、西は涼し過ぎて食物がそだたないのだ」
あれ、なんか聞いた事があるぞ、その状況。
「あ、日本史」
「にほんし?」
魔王がキョトンを私を見返すが、頭に浮かんだ名案を熟考するのに忙しく答える余裕は無い。しばらく私を見つめてた魔王は、反応を返してもらえず拗ねたらしく、椅子を部屋の隅に持っていき壁に向かって話しだした。絵に描いたように構ってほしいサインをだす魔王。でもごめん、今は構ってあげる余裕無し。放置します。
痩せ果てた土地、涼しすぎる土地……この前日本史だか地理だか忘れたけど勉強した気がする。サツマイモとジャガイモの歴史。痩せた土地でも育って、たしか飢饉を乗り越えたとか何とかいってた気がする(うろ覚え)
「お願いがあるんだけど、お兄ちゃん」
「ん、どうしたアーたん」
滅多に言わない【お兄ちゃん】発言に誘われて、突然姿を現す愚兄。兄のチート能力は無限大で、このようにどんなに遠くても私の声は聞こえるらしいし、どんなに遠くても一瞬で私の前に現れる事が出来る。ストーカーには絶対与えたくない能力だ。そのうえ、日本(世界中?)にあるもの何でもこちらに持ち込めるようだ。
「サツマイモとジャガイモが大量にほしいんだけど……駄目かな」
「駄目なわけないよ。アーたんが欲しいものなら何でも手に入れてあげるよ」
私が世界を手に入れたいといったら、この世界が手に入る気がする。この世界の神様の手抜きなのか、兄の能力どれをとってもこの世界で最強である。そして私に甘い兄、この世界だと私の願いはほぼ全て叶うと言えよう。しかし、その代償はあまりにも大きい。兄との結婚は避けたい、どうしても避けたい、16年間培われた常識はそうやすやすと飛び越えられない。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「どういたしまして、アーたん」
「あ、勇者さん。いらっしゃい。どうですか、珍しいお茶が手に入ったのですが」
「え、いいんですか。魔王さんがお持ちのお茶はどれもおいしいですからね」
4日後、息子をボコボコにするであろう相手とよくお茶が飲めるな、魔王。そして、数日後には勇者の剣で切り刻む相手のお茶をよくのんきに飲めるな兄。先ほど無視したお詫びにツッコミを入れたあげようとも一瞬思ったが、既に天然ズの絶対フィールドが展開されていたので私はツッコミをせずにその場を後にした。
先ずは魔王の部下の中で一番賢い魔物に、サツマイモとジャガイモの説明をしてすぐにそれぞれ適した土地に植えるように指示する。そして現在、魔王よりも実権を握っているであろう魔王妻に私の計画を話した。彼女はその話を聞くとすぐにGOサインを出してくれた。
私の計画、それは隣国国王に和平を求める事だ。魔国は人間の国を侵略しない、そのかわりに人間の国に1年間の物資支援を求める。物資支援の見返りに、もし他国に攻められたら援軍を速やかに送ると約束する。つまりギブアンドテイクだ。1年もあればサツマイモとジャガイモが根付いて食料危機は緩和されるだろ……多分。
魔物の魔力を使い隣国の城に飛び、国王へと謁見を求めた。勇者の妹と言う肩書きが全てをスムーズにしてくれて、あっという間に和平を結ぶ話を取り付ける事ができた。
勇者が剣の洞窟を攻略する予定だったその日。魔国と、とある人間の国が歴史的な合意文書に調印したのだった。魔国と人間の国との和平協定、それはこの世界始まって以来の出来事であった。後にこの日の事は、世界平和の一歩として人々に語り継がれ、この世界で歴史を学ぶ子どもに先ず一番始めに教えられる事柄となる。
調印を終わらせ、ファンファーレと共に手をつなぎながら城下を凱旋する魔王と国王。そんな2人を見ながら、見事に兄との結婚を回避し心から安堵する私。私との結婚が流れて落ち込むかと思った兄は、さすがは俺のアーたんとこの現状を私以上に喜んでいた。
「意外、結婚できなくて凹んだかと思った」
「え、そんな事ないよ。アーたんの素晴らしさが皆に知ってもらえてすごく嬉しいよ……それに」
それに、機会はいくらでもあるからね、と行った兄の言葉は聞かなかった事にしたい。
兄のチート能力はとても有能で、私たちは日本とこの世界を自由に行き来する事ができた。兄は人間の国の騎士として、私は魔国の農業アドバイザーとしてたまにこの世界を訪れるきわめて平和な生活を送っている。
兄はこの世界がよほど気に入ったのか、大学卒業後はこちらを主流に生活するつもりでいるようだ。そして兄に強制的に連れてこられたら帰るすべも無い私は、まぁ将来的に無理やりこちらに住む事になるだろうと予想している。私もこの世界が気に入っているので、そこまで抵抗が無いのが救いだ。
ある晴れた日、突然あの煌びやかな王の間に呼び出された。そして王座にふんぞり返った王様がいう、現在この国は龍の国からの侵略を受けているそうだ。魔国と協力して応戦するも龍族の強靭の肉体は魔力も跳ね返し、状況は思わしくないそうだ。このままだとこの国は滅ぶかもしれないそうだ。なので、勇者の力で竜王を倒して欲しい……デジャヴ、デジャヴである。
「龍王を倒したなら、お前の望みをなんでも叶えよう」
「わかりました」
「勇者よ、何が望みだ」
「もうご存知でしょうが……妹との婚姻を認めていだだきたい」
「もちろん叶えよう!」
「もちろん、じゃなぁい!!」
神様これは何の試練でしょうか。とりあえず私は、人間の身でありながら、自分の貞操を守るため……龍王サイドにつかせて頂きます。
後にこの私が、全世界に平和をもたらした【平和の巫女】として後世に語り継がれる人物になるとは、この時は誰も…そう兄ですら想像すらしていなかったのでした。
ヤマナシ・タニナシ・オチ微妙のお話を最後まで読んで下さってありがとうございました。
そして、4話(4日)に分けた意味があるのか・・・書いた本人も不明な所ですが、お付き合いくださって本当にありがとうございました。