ボリス
ボリスはもう三週間も干し草の山の上に横たわっていた。三週間のあいだ、彼がしたことはただ一つ、シラミとの格闘だった。そして、その途方もない退屈のなかで、それさえも一種の愉しみとなっていた。
シラミは尽きることがないようで、いくら潰しても次から次へと湧いてきた。彼の爪のあいだには、分厚い血の汚れがこびりついていた。それはみな、シラミが彼のからだから盗んでいった血だった。
しかし、干し草の上に横たわるほかに、どこへ行けようか。床の石畳は湿っていて、氷のように冷たい。まわりには大小さまざまな甕が置かれ、その口の泥も凍って石のように固くなっている。彼に残されたのは、戸口のそばのほんのわずかな空き地だけ、それが彼の自由世界のすべてだった。
彼は寝ても座っても伸びをしても、足を蹴ってもよかった。何をしてもよかったが、そこを離れることだけはできなかった。背後の木の扉には鍵がかかり、外では人が交代で見張っていた。一日に二度、その扉が開き、一食分の食事が運ばれてくる。
やつらは、このまま俺を病死させるつもりなんだな、と彼は思った。
笑わせる。と彼は考えた。人を殺すにはもっと素早く、もっと手際のいいやり方がある。刃で首を切り落とす、縄で喉を締めあげる、水さえ与えなければいい。だが、そんふうな死に方は、どうやら「ある者」の意にそぐわないらしい。そう、それは「自然ならざる死」だ。人びとは彼の死体の前でこう言えるだろう、「彼は殺されたのだ!」と。
その「ある者」はあまりに臆病で、あまりに弱く、それを敢えてできないでいる。やつは病に望みを託している。「見えざる死神よ、はやくボリスを連れ去ってくれ!」と。
だが、ボリスはあまりに若く、あまりに頑健だった。地下蔵に三週間閉じ込められたところで、命を奪われるほどではない。チーズや肉、果物をいまのように食べ続けられるなら、彼はまだ長く生きられると自分でも信じていた。
彼がすべきことはただ待つことだけだった。
いずれ来る定めの瞬間までのあいだ、このシラミどもは手慣らしだ――暗闇のなかで、自分に逆らうものを見つけだし、それを潰す稽古として。
四週目の初日、扉の開く物音が彼を眠りから引きはがした。これは食事の時刻ではない、なぜなら彼はまだ眠っていて、腹も空いていなかったからだ。彼はとっさに悟った、何かが起こったのだと。
蝶番の軋む音とともに、木の扉がゆっくりと開いた。松明の光が射し込み、彼はまぶしくて目を開けていられなかった。
「目を覚ませ、ボリス!」長く遠ざかっていた声が言った。「起きろ!」
ボリスの眠気はまだ去っていなかった。痰のからんだ声で答える。「松明をどけろ、イーゴリ!おれの目をつぶす気か!」
イーゴリは大笑いした。その笑い声は石壁のあいだに谺し、まるで野獣の声のようだった。
「いますぐ明るさに慣れたほうがいいぜ」彼は言った。「もうじき陽が昇る!」
「手を貸してくれ」ボリスは言った。
イーゴリの掌は火のように熱かった。その熱が、ボリスのからだから寒気を追いはらってゆく。
「じじいは死んだのか?」彼は訊いた。
「たったいま息を引き取った!」イーゴリが言った。
「確かなんだな?」
「まちがいない!この目で死ぬのを見た」
ボリスはうなずいた。「あの女は、すぐさまおまえをやって俺を処刑させようとしたな?」
「そのとおりだ!」堪えきれぬ笑いがイーゴリの顔を歪めた。「やつは前もってこっそり使者をヴラドのところへやったんだが、伝令は俺たちが途中でとっつかまえた」
「ヴラド……あとでどうにか始末をつけねばならんな」ボリスの唇がかすかに動いた。「いま、おまえの手勢は何人だ?」
「二十人だ」イーゴリは言った。「みな絶対に信のおける者たちだ」
二十人の私兵。相手は女がひとり、その子ども、おまけに女中が何人かいるかもしれない。それで十分だ。
「やろう!」ボリスは言った。
「やろう!」イーゴリは昂奮して言った。「陽が昇れば、あんたは大公だ!」
「それまでにひと風呂浴びたいな」ボリスは笑った。
「それから魔法使いを探して、その疥癬も治してもらわなきゃな!」イーゴリは言った。
魔法使い……
その言葉がボリスの頭のなかでいくつかの谺を呼び起こした。血なまぐさい企ては王座への第一歩にすぎない。彼が正式に大公の位に就くには、魔術師塔の認可を得なければならなかった。慣例に従えば、魔法使いたちは認可を与えるはずだった。彼らはふだん王公たちの争いに介入することはないからだ。だが、あいにくまずいことに、最近魔法使いたちのあいだに一人の招かれざる客が加わった。もしその者が妨害しようものなら、状況は予測しがたいものになる……
だが、いずれにせよ、矢はすでにつがえられている。
ボリスは地下蔵から外に出ると、夜の空気を深く吸い込んだ。晴れ渡った夜で、三日月が天穹の西に逆さに懸かり、星の河が夜空を二つに裂いていた。魔法使いたちは、星の運行から運命を読み取ることができるらしい。彼らは、いま起きようとしていることに気づいているのだろうか?
二人の私兵がボリスに鎖帷子を着せ、イーゴリが剣を差し出した。
「あんたのだ」彼は言った。「いま、もちぬしの手に戻った」
ボリスは剣を抜いた。見慣れた感触が甦る。それはまるで自分の手足の一部のようだった。剣を手にしてこそ、彼は完全な自分になれる。刀身が月光のもとでほのかに光った。まもなく、この刀身は血に染まる。肉親の血に。
私兵たちが集まってくる。次々と影のなかからその姿を現した。彼らの甲冑は松明の火に照らされて冷たい光を帯び、さながら氷で象られた人のように見えた。
「行くぞ!」ボリスは言った。「さっさと、この件を片づけてしまおう」




