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魔力なし、愛嬌なし、親なし、友達なしの私。

かつて、世界は絶望の淵にあった。


三十年前。大陸を蹂躙した魔王の軍勢に対し、人々は持てるすべての魔導を投じ、かろうじて勝利を収めた。魔王は討たれ、空を覆っていた暗雲は晴れた。


だが、最強と謳われた勇者パーティは解散し、その多くが表舞台から姿を消した。残された人々が抱いたのは、安堵よりも「再来」への恐怖だった。

「万一の事態に備え、国全体を魔導の盾とする」

その理念のもと、ミスリル王国の中心部に設立されたのが『ミスリル魔法学校』である。

今や国中の若者が憧れ、そして競い合う階級社会の縮図となっていた。

しかし、その「教育の力」は、時として残酷な歪みを生む。






「……ふん、またこれよ」



魔法学校、放課後の教室。西日に照らされた教壇で、レム・ミスリルがひらひらと一枚の紙を弄んでいた。ミスリル王国の貴族の末裔であり、この学校でも上位の魔力を誇る彼女の視線の先には、一人の少女がいた。

「『魔法理論』『古式術式構成』、共に満点。アイナ、貴女の頭の中はどうなっているのかしら?」


アイナは俯き、桃色のツインテールで顔を隠した。


「……ただ、教科書の内容を覚えただけです」


「それが気に入らないのよ!」


レムが机を叩いた。隣では、黒髪眼鏡の優等生・サムが、自身の「98点」の答案を握りしめ、憎々しげにアイナを睨んでいる。


「アイナさん、貴方の魔力測定値は『3』。これは街の街灯を灯すのが精一杯の、家畜以下の数字だ。実技では基礎の『火球』すら出せないくせに、机上の空論で僕の上に立つな。不愉快だ」


サムの言葉に、周囲の生徒たちからクスクスと失笑が漏れる。

アイナは無言で、胸元に隠した銀のペンダントを握りしめた。亡き母の形見。触れると、いつも指先に冷たい拒絶のような感触が伝わってくる。


「魔法が使えないのに、何のために勉強しているの? 惨めだと思わない?」


レムの嘲笑が突き刺さる。


レムはアイナが座っている椅子を思いっ切り蹴飛ばした。

転げ落ちるアイナ。助ける者は誰もいない。

皆見て見ぬふりをするか、嘲笑うだけだ。


教室の隅では、金髪の野生児・リュウが窓の外を眺めながら、「くだらねえ」と短く吐き捨てた。彼にとって、この陰湿なやり取りは、魔法よりも退屈な代物だった。





そんな停滞した教室に新しい仲間が入った。

名前はジーク。

彼は学期の中途、王立の推薦状を携えて突如として現れた「中途入学生」だった。銀色の髪、中性的な美貌。

そして何より、彼が校門を潜った瞬間に、学校中の魔力感知結界が共鳴して鳴り止まなかったという噂が、一瞬で広まった。

実力主義のこの学校において、圧倒的な魔力を持つジークは、瞬く間に神格化された。レムも、サムも、彼に取り入ろうと必死だった。

2人だけでなく、彼の爽やかな中性的な顔立ちに、女子たちは皆虜になっているようだ。


だが、ジークの視線は常に、誰とも目を合わせようとしない桃色の髪の少女に向けられていた。






その日の授業は、学園地下に広がる「演習用ダンジョン」の攻略だった。

二人一組のペアを組むよう教師が告げる。いつものように、アイナの周りには誰も近寄らない。リュウは早々に一人で暗がりに消え、レムはジークに媚びるような笑みを向ける。


「ジーク様、私と組みましょう? 私なら、貴方の足を引っ張ることはありませんわ」


「お誘いは嬉しいけれど、先約があるんだ」


ジークは爽やかな微笑みを崩さぬまま、隅に立つアイナの手を引いた。


「行こう、アイナさん。君の『知識』が必要なんだ」


教室内が静まり返る。理解不能な選択。レムは顔を真っ赤にし、嫉妬を露わにした。


「ジーク様、正気ですか!? その子は魔力が無いんです。中で魔物に襲われても、自衛すらできないゴミなんですわよ!」


「構わないよ。僕が守るから」


短く、拒絶を許さないトーン。ジークはアイナを連れ、迷宮の奥へと足を踏み入れた。




地下三階。湿った冷気が肌を刺す。

目前に立ちふさがる守護者・アースゴーレムに対し、ジークは微塵も動じなかった。


「アイナさん、君は自分がなぜ魔法を使えないか考えたことはある?」


ジークは足を止め、アイナの胸元に揺れるペンダントをそっと指先で持ち上げた。


「……これ、見覚えがある。巧妙な術式だ。君の母親は、実はかつての魔王討伐パーティの一員であり、世界最強の魔女と謳われたアリスその人なんだよ」


アイナは息を呑んだ。――名前は一緒だ。だけど、歴史の教科書でしか見たことのない伝説の魔女が、自分の母だというのか。


「君は幼少期から、あまりに莫大で、あまりに暴力的すぎる魔力を保持していた。自分でも制御しきれないその力の暴走を懸念して、彼女は形見に擬態させたこのペンダントで、君の魔法を制限することにしたようだね。君の身を守るための、愛ゆえの檻だよ」


「そんな……お母様が……?」


「一時的に、僕が門を開けてあげる」


ジークの指がペンダントに触れた瞬間、パキィィィィン!!と世界を裂くような音が響いた。


その瞬間、アイナの身体を激震が襲った。


「っ……あ、あああああああ!!」



血管を溶岩が流れるような熱。

アイナの魔力測定値「3」という欺瞞が粉砕され、彼女の細い肢体から莫大な魔力が溢れ出した。アイナが掌をゴーレムに向けた瞬間、放たれた極大の魔力の塊は、巨体を分子レベルで消滅させ、迷宮の壁に巨大な風穴を開けた。

静まり返った迷宮で、アイナは自分の手を見つめて立ち尽くしていた。


「……これが、私の力……?」


「そうだよ。まだその百分の一も出ていないけれどね」


ジークは、崩落した壁の隙間から差し込む光を背に、アイナの耳元に口を寄せた。


「驚いたかい? でもね、君の母親はもっと驚くだろうな。――かつて僕を殺した『アリス』の娘を、魔王の生まれ変わりであるこの僕が導いているなんて知ったらね」


アイナは目を見開いた。ジークの瞳が、深紅の光を帯びて妖しく揺らめく。


「……ジーク、君……まさか……」


「皆には絶対内緒だよ。今の僕は、君の味方だ」



彼はアイナの頬を優しく撫で、いたずらっぽく微笑んだ。



「さあ、行こうか。一番乗りでダンジョンを攻略しよう。」




この瞬間、アイナとジーク。

2人の最強が奏でる壮大かつ、誰にも予測できない

運命の物語が、音をたてて動き出した。

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