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第48話「触れてはいけないもの」


止まったのは足だけじゃなかった。

思考も、一拍遅れて止まる。


さっきの一瞬。


確かに何かが起きたはずなのに、

そこだけ綺麗に抜け落ちている。


違和感だけが残っていて、中身がない。


頭の中に、空白がある。

そこを覗こうとすると、

何もないのに気持ち悪くなる。


「……は?」


やっと声が出る。遅い。

自分でも分かるくらい遅れてる。


隣を見ると、リシアも止まっていた。

完全に。


あいつがここまで動きを止めるのは初めて見る。いつもなら状況を切り分けて、先に答えを出す側なのに、今は違う。


視線だけが、こっち――

いや、俺の手元をじっと見ている。


まるで、“そこに何かが残っている”みたいに。


「……おい」


 声をかけると、反応が一瞬遅れた。


「……今の、何したの」


問い方が変わってる。


確認じゃない。

試しでもない。

分かってない側の聞き方だ。


「……知らねえよ」


即答する。

本当に分からない。


分かるのは一つだけだ。


――切れた。


あの瞬間、確かに“繋がりが消えた”。

でも、それをどうやってやったのかが分からない。


「……嘘」

「ついてねえ」

「……じゃあ、何」

「だから知らねえって言ってんだろ」


少し強く言う。

自分でも分かるくらい苛立っている。


さっきのあれ。

あれは普通じゃない。


でも、普通じゃないことを“やった感覚”もない。


ただ、結果だけが残っている。

それが気持ち悪い。


「……ログ、出して」


リシアの声が少しだけ低くなる。


「……ああ」


意識を向ける。

すぐに表示される。



【ログ】

状態:不明

補足:記録不可能


挿絵(By みてみん)


それだけだった。


短すぎる。

あれだけのことをして、この一行で終わり。


「……は?」


思わず声が漏れる。

おかしい。


接続も、干渉も、エラーも。

何も残っていない。


“やった痕跡”が、一つもない。


「……普通、残る」


リシアが呟く。


「……何が」

「……全部」


短い。

でも、重い。


普通なら、ああいう干渉は全部ログに残るはずなんだろう。それがない。


つまり――“起きていないことになっている”。


背筋が冷える。


「……おい」


リシアが一歩下がる。


「……なんで下がる」


答えない。

ただ見ている。


俺じゃない。

“さっきの何か”を見ている。


「……それ」


一瞬、言葉が詰まる。


「……触った?」

「……だから何をだよ」

「……分かってない顔してる」

「……分かってねえよ」


イラつきが強くなる。


こっちだって知りたい。

何をやったのか。

どうやってやったのか。

なんで出来たのか。

全部。


「……あれ」


 リシアが小さく言う。


「……触っちゃダメなやつ」


軽い言い方なのに、妙に引っかかる。


「……は?」

「……昔、聞いたことある」


そこまで言って、止まる。

それ以上は言わない。


でも、分かる。


顔に出てる。

怖がってる。

あのリシアが。


「……おい」


少しだけ声が低くなる。


「……なんなんだよ、それ」

「……分からない」


即答。

でも、嘘じゃない。

本当に分かってない。


なのに、知ってる顔をしている。

そのズレが、余計に気持ち悪い。


その時、視界の端にノイズが走る。

一瞬だけ、何かが映る。



【不明ログ】

状態:追跡中



「……っ」


息が止まる。

今のは、確実に見えた。


「……今、見えた?」


 リシアが聞く。


「……ああ」


短く答える。

嫌な感じがする。


終わっていない。

むしろ、こっちを見つけた感じがする。


「……離れる」

「……ああ」


今度は迷わない。

ここにいる理由がない。


むしろ、いると危ない。


歩き出す。

早歩き。

そのまま速度を上げる。


自然と、逃げる形になる。


背後を意識する。

何も来ない。

でも、安心できない。


あれは消えたんじゃない。

“残ってる”。


見えてないだけで、

確実にこっちを追ってる。


その確信だけが、残る。

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