森の動物達①
次の日、リリアは森の中にいた。
明日から始まる憂鬱な学園生活を前に、休暇の最後は大好きな森で過ごそうと決めていたのだ。
心地よい風に草の香り。森の先に広がるふかふかの芝生の上でゴロンと寝転がる。
「あぁ・・・最高の気分ね」
リリアの今日の服装は、動きやすいシンプルなワンピースだ。
汚れてもすぐに洗えるし、ごてごてした飾りも付いていないのでとても軽い。
ぐぅーとリリアのお腹が鳴った。もうすぐお昼の時間だ。
森へ出かけるときは、いつも料理長お手製のサンドウィッチを持参している。
塩気のあるたっぷりのハムと、ふかふかのパンの相性が抜群なのだ。
バスケットからサンドウィッチを取り出し食べようとしたとき、後ろの森でがさがさと音がした。
くるっと振り返ったリリアの視線の先には、こちらを伺うように見つめている鹿がいる。
「アーク!」
リリアはそう叫ぶと、満面の笑みを浮かべて鹿の近くまで駆け寄った。
アークと呼ばれたその鹿は、昔リリアが助けてあげた小鹿である。
森で過ごしていると、こうして近くに来て顔を見せてくれるのだ。
そっと手を差し伸べると、アークはいつものようにその手に額を擦り寄せる。
「また会いに来てくれたのね。嬉しいわ。」
リリアがそう言うと、まるで返事をするかのように鼻を小さく鳴らした。
この人懐っこい仕草が、リリアの胸を温かくしてくれる。
友達が少ないリリアにとって、森のお友達であるアークはかけがえのない存在なのだ。
ふと、アークはリリアのワンピースの裾をくわえて、森の方へと引き始めた。
「どうしたの?そんなに強く引っ張ると服が破れてしまうわ」
リリアはそう言って優しく諭したが、アークは聞く耳を持たず、彼女を森の奥へと誘おうとする。
その真剣な様子に何かを感じ取った。
「・・・もしかして、一緒に来てほしいの?」
リリアがそう尋ねると、アークはようやく裾から口を離し、またもや鼻を鳴らした。
「分かったわ。付いていくから案内してちょうだい」
そう告げると、リリアはアークの後に続いて、森の中へと足を踏み入れた。
葉を揺らす風の音と、鳥のさえずりだけが響いている森の中。
アークは時折振り返っては、リリアが付いて来ているか確認しているようだった。
小川を渡り、大きなブナの木の根元にたどり着いたとき、アークは立ち止まった。
アークの視線の先には、白い小さな塊が見える。
リリアはそっと近づくと、その正体が何なのかが分かった。
そこには片足を罠にとられ、身動きができなくなっている小さな白いうさぎがいた。
 




