コントロール
あれから数日経ち、学園へ戻る日が明後日へと迫っていた。
母の実家の伝手を頼りに、隣国から魔法に関する書物を借りることができたが、始業式にまでは間に合わなかったようだ。
母は申し訳なさそうに眉を下げていたが、リリアは微笑んで「お母様、大丈夫よ」と優しく言った。
「貴重な本を貸していただけるだけでも、奇跡のようなことだもの」
隣国であるグランツェ帝国は大陸一の大国だ。
アステル領からどんなに早く馬を走らせても、往復だけで1週間はかかってしまう。
むしろそんな遠い国から、この期間で返事をもらえただけでも驚きなのだ。
学院へ戻ると、寮生活である。
そのため本が届き次第、使用人に届けてもらう手はずを整えた。
この数日間、父エドモンドが温室に誰も近づけないよう厳重に守ってくれたおかげで、リリアは朝から晩まで魔法の研究と練習に没頭することができた。
はじめは、なかなか上手くいかなかった。
まずは前回と同じようにやってみようと思い、枯れている花を見つめたがなんの変化も無い。
手をかざしてみたり、「きれいに咲け!」と言ってみたりしたがどれもダメであった。
(どうして何も起こらないの)
なんの変化も無い花を見ながら、リリアは落ち込んでいた。
「・・・そういえば、あの時は声が聞こえた気がするわ」
リリアは深呼吸をして、余計な考えを持たないように心を無にした。
それから目を閉じて五感に全てを集中させたのだ。
暖かい陽の光、遠くで聞こえる鳥のさえずり、花のいい香り
そのすべてを全身で感じて受け入れるようにすると、また頭の中に声が聞こえた。
『わたしをもどして』
「聞こえた」
リリアは目を開けて、枯れている花をじっと見つめる。
花の茎部分に生命力が巡っていないように感じた。よく見ると小さな傷があった。
(これかな?またきれいに花が咲きますように・・・)
リリアはただただ花の回復を願うことに集中した。
すると不思議なことに、茎の傷が治りみるみるうちに花が咲いたのだ。
「・・・できた」
リリアは魔法を使えた喜びと同時に、今すぐベッドで眠りたいほどの強い疲労感も感じた。
練習を繰り返す中で、ひとつ分かったことがある。
植物の声だけではなく、強い想いが込められたものに宿る”声”も聴くことができるのだ。
リリアは、ずいぶん前に壊れてしまった、祖母からもらったオルゴールを目の前に置いた。
試しに魔法をかけてみると、再び懐かしいメロディが流れ始めたのだ。
他の物でも試してみたが、誰かの強い想いがかけられている物以外は、声すら聞くことができなかった。
リリアの魔法は、枯れた植物に再び生命力与えたり、強い愛情や特別な記憶を持っている物を戻したりする力、復元の魔法だった。
夕食後、父と母にその能力を伝えたとき、父は心底驚いた顔をした。
「まさか・・・詠唱なしに魔法を使えるとは」
父の言葉に、リリアは首を傾げた。
詠唱がなければ魔法を使えないという常識を、彼女は知らなかったのだ。
「昔はそういった魔法使いもいたと聞いたことがあるけれど、相当魔力が強くないと不可能だと言われている。あの王太子殿下でさえ、詠唱をしているのだよ」
その言葉にリリアは驚きながらも、どこか誇らしい気持ちになった。
(さすが1000年に一度の魔法のしずくね、私の魔力は相当強いようだわ)




