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アステル家への伝令

穏やかなアステル男爵領の朝。

しかし、届けられた一通の手紙がその静寂を鋭く切り裂いた。


黄金の封蝋には、アルカディア王家の紋章。

男爵は指先を微かに震わせながら、嫌な予感とともにその封を切った。


「・・・ついに、この時が来てしまったか」


手紙を読み進める男爵の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。

そこに記されていたのは、夫婦揃っての王宮への即時出頭命令。

アステル家のような地方の小貴族が王家に直接呼び出されるなど、平時ではまずあり得ないことだ。


理由は書かれていない。

だが、考えるまでもないだろう。

リリアの、あの女神の力が王家の知るところとなったのだ。


「リリアの力がバレることを一番に恐れていたが・・・。やはり、あの子を王都へ送り出したのは失敗だったのかもしれん」


男爵は深く椅子に沈み込み、執務机の上に広げられた領地の地図を見つめた。

実は今、アステル家は別の、より不穏な問題にも直面していた。


始業式の前、リリアが熱心に訴えていた密猟者のこと。

当初は取り締まりを強化すればいいと考えていたが、事態は想像以上に深刻化していた。

森に現れる動物の血痕。

ここ最近は動物を見かける回数が減ったとまで感じる。


騎士団を動かしても一向に尻尾を掴めないばかりか、最近ではついに、領民が数名行方不明になるという異常事態まで起きている。


(・・・密猟どころではない。これは、何者かが組織的に動いているのではないか?)


森の奥深くで何が起きているのか。

リリアの言っていた予感は正しかったのだ。

領主として、今すぐにでも現場へ向かい、自ら陣頭指揮を執るべき状況。

だが、手元にあるのは無情な王宮からの招待状だ。


「はぁ・・・、今はまずこちらが優先だな」


男爵は苦渋の決断を下し、震える声で呟いた。

王家の呼び出しを拒むことは、反逆を意味する。

ましてや娘の身に何が起きているか分からない今、親として、そして貴族として、逃げるわけにはいかない。


「すぐに支度を。妻にも伝えてくれ。・・・リリアの元へ向かうぞ」


男爵は、未解決の領地の報告書を握りしめ、重い足取りで王都へ向かう準備へ取り掛かる。

執務室を出る男爵の背中は、いつになく小さく、そして悲壮なまでの決意を滲ませていた。

愛娘リリアを王家という名の嵐の中に放り込まねばならない父親の葛藤が、その背中に重くのしかかっているようだった。


ふと窓の外を仰げば、先ほどまで穏やかだった領地の空に、どんよりとした灰色の雲が広がり始めている。

急激に色を失っていくその景色は、これからアステル家を待ち受ける波乱の未来を、予感させているかのようだった。

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