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12/24

ダンス

始業式が終わり、午後の必修科目である礼儀作法の授業が始まった。

この日の課題は、ダンスである。


ほとんどの貴族は、幼い頃から自宅に講師を呼び寄せて、徹底的にレッスンを受けている。

そのため、大半の生徒は何の問題も無くダンスを踊ることができた。


だが、リリアはダンスが大の苦手である。


運動神経は悪くないのだが、どうにも相手とステップを合わせて踊れないのだ。

それに加えてダンス中に繰り広げられる、言葉の駆け引きもリリアを憂鬱にさせた。

ダンスは単なる技術の披露ではなく、優雅な笑顔の裏で互いの地位や状況を探り合う戦場のようなものだったからだ。

そしてダンスが苦手な一番の理由は、デビュタントでの出来事のせいである。



デビュタント当日、リリアは父エドモンドと最初のダンスを踊った。

緊張はしていたものの父のリードは完璧で、リリアは一度もステップを乱すことなく楽しく踊りきることができた。


だが問題は、そのあとに踊ることになった伯爵子息とのダンスだ。


彼は伯爵家の長男という立場で、リリアに恭しく一礼してパートナーになったにもかかわらず、その態度は下品極まりなかった。

リリアの体を品定めするかのようにニヤニヤと口元を歪め、人の体を舐めまわすような視線を送りつけてくるのだ。


ダンスのリズムに合わせて彼がリリアを引き寄せた瞬間、その男の吐息がリリアの耳元にかかる。


「アステル嬢、噂では変わった田舎娘だと聞いていたが・・・。だが身体はまるで森の秘宝のようだね」


リリアは全身の毛が逆立つような嫌悪感に襲われ、咄嗟に身体を突き飛ばすように離した。

しかし、慣れないヒールと急な動作によってバランスが崩れ、床に転んでしまう。

伯爵子息は拒絶された悔しさと、リリアがみっともなく転倒したことに対する苛立ちで顔を歪めた。


「おいおい、何をするんだ。まるで野良うさぎだな。せっかくこの俺が踊ってやっているのに、そんなみっともない真似をするとは。やはり所詮は田舎娘だな」


彼はリリアに手を差し伸べるどころか、冷たい視線を投げつけわざと大げさに肩をすくめた。

その声は会場に響き、周囲の注目を一気に集める。

リリアは恥ずかしと怒りで頭がいっぱいになり、その場から走って逃げだした。



それ以来、お茶会や舞踏会では後ろ指を指されている。

伯爵子息が周囲に何を吹き込んだか分からないが、男性からダンスを誘われることも無くなった。


(あーあ、また嫌なことを思い出してしまったわ)

ふとデビュタントの出来事を思い出したリリアは、小さく息を吐いた。

顔には出さないように努めたが、身体が強張るのを感じた。


「リリィ?」


隣に座るアリアが、心配そうにリリアの顔を覗き込む。


「大丈夫よ、アーリィ。少し今日の課題のことを考えただけ。ほら、ペアを組んでダンスの練習でしょう?苦手だわ」

リリアは平静を装って微笑んだ。

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