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14.最後の一問

 結局タシュも仲間に加えて、一行は港の方へ。

 それなりに歩くとは言っても1時間も掛かるわけではない。


 彼女たちが目指す市場は、東西へ伸びる通りに店が集まり形成されている。

 ちょうど旅客メインと漁港メイン2つの埠頭のあいだを占める。

 ジャンヌがこの島に着いたとき見掛けたあの市場である。






「いやぁ、日曜日だけあって混んでるねぇ」


 タシュが両手を頭の後ろで組んでつぶやく。


 一行がたどり着いたのは通りの東側。

 旅客メインの埠頭と繋がっており、観光客を誘惑したいのだろう。


 だがそれ以上に。

 西側は漁師たちが獲った海産物の搬入でごった返している。


 よってお買い物に来た人々は自然と、東側から出入りしようとする。

 その結果、市場は朝からタシュが言ったとおりの混み具合となっている。


「この中で次のヒント探すのか」

「厳しくない?」

「上ばっか見て転んだりしたら、命が危ないくらいだよ」

「そもそもガー、なんだっけ、旗の紐に手が届くかなぁ」


 子どもたちも不安な様子である。

 確かに大人の上背で上は見づらいし、

 はぐれたら簡単には合流できないし、

 暗号を落としでもしたら二度と拾えないだろう。


「ミスターケンジントン。決して子どもたちから離れないように」

「僕が!?」


 大人たちにも緊張が走る。


「もし万が一子どもが行方不明、誘拐などあったら監督責任に問われますよ」

「引率者は君だろ!」

「あなたには所長として、部下に対する監督責任がある」

「そっちかよ」


 走っている、はず。






「レオ! エルシ! 手ぇ放さないでよね!」

「上どころか前もよく見えねぇ」


 さすがに市場に立ち入ることすらできない、とまではならなかったが。

 4人は半身で人の隙間をぬってなんとか進むので精いっぱい。

 バラバラにならないよう手を繋ぐのに必死。


 とても次の暗号書を探す余裕などない。


「ジャンヌ。僕たちも(はぐ)れないよう手を繋ごうか。そして二度と放さない」

「少し待ってください。手袋にカミソリを仕込むので」


 一方で、タシュがいつもの調子ならジャンヌも相変わらず。

 無価値な会話を振り、それを無視して子どもたちを見ている図。


「しかし、この分じゃ見つけたって回収難しいぞ。人波に阻まれて、そっちへ進めない可能性がある」

「そもそも大人が手を伸ばして届く高さまで垂れているガーランドが少ないです」

「まったく、テイムじいさんはどうやって子どもたちに取らせるつもりだったんだ」

「今の私たちみたいに同行して、自分が取ってあげるつもりだったのでは」

「あー、ねー」


 彼の相槌は前半と後半で色味が違った。

 途中から違うことを考えはじめたような。


「あのさぁジャンヌ」

「なんでしょう」

「それで言うとね? そもそもなんだけどさ」


 タシュが何か踏み込んだ話題を出そうとしたそのとき、



「あーっ! ジャンヌジャンヌジャンヌ!」



 前方からレオンの大声が聞こえてくる。


「どうしましたか」

「あ、ちょっとすいませんね」


 二人がやや強引に人の合間を突き抜けていくと、


「ほら、あそこあそこ!」


 フェデリカが上を指差してピョンピョン跳ねる。


「コケたら危ないですよ。どれどれ?」


 ジャンヌがしゃがんで目線の高さを合わせてから見上げると、



 ガーランドとは別の白い何かが、おみくじのように結び付けられている。



「絶対アレですよ!」

「ミスターケンジントン、取ってあげてください」

「しょうがないなぁ」


 高さは大人の目線くらい。

 子供でも届かないかは微妙なところだが、取れるかでいえば厳しいだろう。


 今回は紙に書いてあるらしい。

 タシュは破けないようにそっと外すと、


「ん」

「ありがとう」


 レオンへ手渡す。

 早速開いてみようとする4人だが、


「ここでは危ないし通行の邪魔ですから、落ち着けるところへ移動しましょう」

「「「「はーい」」」」


 一旦暗号をポケットにしまい、場所を移動することにした。






 モーニングは終わり、ランチタイムはまだ。

 ということでカフェはそこそこ()いている。


 4人とジャンヌタシュに分かれて2つの丸テーブルに座れた。


 タシュの奢りで子どもたちはオレンジジュース、大人はエスプレッソ。


 そんなすぐ出るメニューが来るより先に、4人は紙を広げてしまう。

 今回もレオンを中心に顔を寄せる。


 しかし、


「えー、どれどれ」

「んー?」

「なにこれ」

「また読めないのが来ちゃったぁ」


 また怪文書系かそもそも王国語か。

 むむむ、と眉根を寄せた4人だが、


「オレンジジュースでございます」


 一旦商品が運ばれ空気が崩れると、


「ほら、見てよぉ」


 紙をジャンヌの方へ向けてくる。


「どれどれ?」


 なぜかタシュの方が乗り気で紙を受け取る。

 暗号マニア界隈とか言っていたし、挑戦する気があるのかもしれない。

 ここまでずっと王国語でもあったことだし。


 今回の内容は



『Rmnhszktszqfmnb, rchj!


 H lz cdrrdqolh szgs tnx dczl sh rhgs qze.

 Jmzgs tnx qne qtnx cqzg jqnv.

 Rhgs rh dgs srzk.

 Dgs dqtrzdqs rh mn dgs ons qnnke en dgs drtngsgfhk.


 Sghv dunk lnqe mz ckn mzl.』



「なんだこりゃ。王国語ですらないな」


 また怪文書系のようである。

 そして相変わらず右下には



『Suov zeva sruojuot enu rueugnol ed ecnava rus tuot el ednom.』



 共和国語で今回のヒントが書かれている。


「これなんて書いてあるの?」

「『君はいつもみんなの一歩先を行く』くらいでしょうか」

「へぇ」


 彼女は運ばれてきたエスプレッソを受け取りながら答える。

 タシュは2秒もしないほどの間を置いて、


「これならヒントなくても分かるんじゃない?」

「そう思います。今までの案件でも、何回か遭遇したことがあるくらいポピュラーなものです」


 2人が王国語で会話している端から、


「これ、さすがにオレのことを指してるんだよな?」

「そうでしょ」

「『いつも一歩先を行く』って、オレそんなバカみたいに突っ走ってる?」

「そういうんじゃないと思うな」

「そうだよ。レオは僕らのリーダーってことさ」

「そうかな。あ! それよりさ!」

「どうしたのよ」

「この『一歩先を行く』ってさ!」


 もう答えにたどり着こうとしているらしい。

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