表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/134

10.先はまだまだ細長い

「まさか内陸海くんだりまで来てコイツを見るとは」

「いやぁ、やっぱり分かる人には分かるんだよ、このセンスが」


 答えをつかんだジャンヌたちは、次の鍵が眠るという鹿人間の元へ。

 それは廊下に置かれたサイドボードの上、他の骨董品に何気なく紛れていた。


「センス? この邪教の悪魔みたいなデザインのヤツが?」

「邪教で悪魔扱いならむしろ善玉じゃないか? 君の魂も早くこっちのステージへ来ればいいのに」

「鹿人間の世界とか森でしょう」


 ごちゃごちゃ言いつつ、ジャンヌは50センチほどの像を手に取ると


「どうぞ」


 後ろに控えるレオンへ渡す。

 あくまで彼女は導くだけに徹するのだろう。


「『鹿人間の中』か」


 子どもたち4人、額を合わせて確認するが

 どうやら一つの木材から削り出されたらしく、継ぎ目や隙間は見当たらない。


「中、中?」

「お手紙読まずに食べちゃったのかしら?」

「んなわけ」

「侮ってはいけない。そいつは人のナッツを食べます」

「正気かよ」

「ジャンヌさんって冗談言うんですね」

「……」


 忘れたい記憶はさておき。

 レオンが引き続き鹿人間をひっくり返したり、あれこれ検分していると


「あ」

「どうしたの?」

「鹿人間の中、っていうかさ」


 像が乗る台座の底面。

 触ってみるとカチャカチャ音を立て、わずかに動く。


「ここだけ別のパーツだ」

「ってことは、取り外せるってことかい?」


 マイロの言葉にレオンは小さく頷く。


「そうみたいだ。ちょっとやってみる」


 それから少し弄っていると、


「あ、スライド式か」


 底板を鹿人間の背中側へズラすと、



 中からポトリと何かが落ちる。



「何かしらこれ?」


 鹿人間を持っているレオンに代わりフェデリカが拾う。

 それは


「何これ、包帯?」

「にしちゃ細くないか?」

「私はプレゼント包むとき使う、大きめのリボンに見えるかな」


 アリシアの表現が適切か。

 スポーツをする人なら、ちょうどテーピングテープと言われて想起するくらいの


 細長い布のロール。


「鍵じゃないね」

「それは比喩なんだろうね」

「これで何しろっての?」


 使い道が分からないフェデリカ。

 なんとなく手癖でロールを展開していくと、


「あら?」

「どうした?

「ほら、ここに『T』って」

「本当だ!」

「待て! 他にもまだ何か書いてあるぞ!」


 何やら文字の羅列がある。


「これ、次の暗号か!?」

「また!?」

「なんて書いてあるの?」

「えーと、待って、縦書きだわ。いや、ちょっと斜め?」


 フェデリカは布をぶら下げるように持つ。


「『E』『t』『n』」

「それだけ?」

「うーん、あ、違うわ。『h』『a』『i』」

「なんか、ずいぶんスペースが空いてるね」


 アリシアの言うとおり、『Etn』から次の『hai』までに妙な空白がある。


「ううーん、『t』『空白』『a』、『e』『t』……。ダメ、意味分かんないわ」


 フェデリカが匙を投げてしまったので、マイロが布を受け取る。

 そのまま謎の文字の塊の羅列を眺めていくと、


「あ、急に横書きだ」

「マジかよ」

「なになに!? なんて書いてあるの!? 読める!?」

「共和国語っぽい?」

「そうだね。えーと」


 彼は布を横向きに持ち変えると、書いてある文章を読み上げる。



「『Ut sa’m(君はいつも) sruojuot(私を支えて) unetuos.(くれたね。)』」



「「「「……んー?」」」」


 4人はシンクロして頭を傾げる。


「これ、たぶんヒントよね?」

「前回を考えるとね」

「また『ut()』だ」

「ってことはさっきのエルシみたいに、また誰かを指してるってことか?」

「じゃあこれ、もしかしたら人数分あるのかもね」

「じゃあまだ2つ問題が残ってるってことか!?」


 話が目の前の暗号から逸れつつあるが、


 せっかく本人たちが取り組んでいるのだ。

 ジャンヌは特に口を挟まない。


「いやぁ、何言ってるかさっぱりだけど、がんばってるねぇ」


 そもそも介入できないとはいえ、いらんことしぃのタシュもこの態度。


「『子どもを見守る』っていうのも、悪くないね」

「小児性愛者ですか?」

「違うよ。ただ、


 僕とジャンヌに子どもができたら、こんな感じになるんだろうな、って☆」


「気持ち悪い王国に帰れ。いや、むしろ私が王国に帰ってもおまえはここに住み続けろ」

「ひどいや、僕を『いつまでも待ってるわ』系ヒロインにする気かい?」

「マジで気持ち悪いな」


 子どもたちに伝わらないと安心して罵倒が繰り出される。

 しかしタシュのスルースキルとてたいしたもの。


「それよりさ、ジャンヌ」

「なんでしょう」

「この暗号ってアレだよね」

「何かご存知なんですか」


 本当に本当にめずらしく、ジャンヌは彼に『見直した』という視線を向ける。


「まぁね。暗号マニア界隈じゃ、初歩も初歩の有名なヤツだよ」

「なんだその界隈」

「あれはね」


 それで調子づいたか、説明を始めようとしたタシュを彼女は手で制する。

 身振り手振りを交えようとしていたからだろう。


 しかし彼女は言葉だけでの説明を求めるでもなく、子どもたちの方へ。


「さて、いかがでしょう。何か答えにたどり着けそうですか?」


 彼女が膝に手をつき目線の高さを合わせると、


「やっぱり最後のこれがヒントなのよ!」

「で、また『ut()』なので、僕らのうちの誰かと掛かってるはずなんです」

「私はもう出たから、たぶん他の3人で」

「でもさ、『君はいつも私を支えてくれた』ってのがさ」

「たぶん足を悪くしてからの話だとは思うんです」

「でも『誰が一番』ってこともないわ! みんなでがんばったんだもの!」

「おじいさんも、そこに順番をつけるような人じゃないです」

「ってなるとまた、さっぱりなんだよな」


 リレーで口々に、前のめりで進捗を教えてくれる。

 タシュが後方でジャンヌをして、『学校の先生かな?』などとつぶやいている。


 なんなら彼からは見えないが、ジャンヌもにっこり頷く。


「そうですか。ではまた私が残留思念を読んでおきましょう」


 彼女は手袋を外し、マイロから布を受け取る。


 しかし今回はブツが長い。

 ジャンヌが端を握る一方、彼らは別の部分の解読に掛かる。


 だがやはり、早いのは彼女の方。


「なるほど?」


 すぐに読み取り、閉じていた目を開く。

 テイム氏がこれを作成したときの記憶しかないのだから当然である。

 鹿人間の記憶などありはしない。


「分かったの?」

「えぇ、そりゃね」


 フェデリカの問いにジャンヌは頷くと、


「さ、一旦手を離してください」


 そう子どもたちに支持し、


「あ」

「ちょっと」


 布をクルクルと巻き取っていく。


「今日はもう終わりです」

「なんでだよ!」

「晩ご飯までに帰らないと、また謹慎処分ですよ。余裕を持って帰りましょう」

「それはそうだけどさ」

「これは渡しておきますから、自分たちで一晩考えてみましょう」


 ジャンヌはウインクを決めると、ロールになった暗号をマイロに握らせる。


「ヒント! ヒントは!?」


 ならばせめてとフェデリカが食い付くと、


「そうですねぇ」


 ジャンヌはあごに人差し指を添える。

 数秒経って離すと、それはそのまま『では1つ』のポーズになる。



「1つ目の謎も、名前が大事でしたね」



「「「「名前……」」」」


 その場でむむむと考え込んでしまった4人を、


「ではまた明日、ごきげんよう」


 ジャンヌは背中を押して書斎から出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ