全権大使ビュッテ
ディアが教会をあとにしたころ、トーケン王国には魔王国からの全権大使が到着していた。
「私が魔王国全権大使のビュッテです!」
ビュッテはネズミのような顔の魔族である。手にはいつも扇子を持ち、その高い声は人を馬鹿にしているように聞こえる。
王宮の歓待の間には、アストラ王以下、主だった王国の貴族が集まっている。
「ようこそビュッテ殿!」
アストラ王は代表してビュッテに挨拶した。
ビュッテは眉をしかめて、あたりを見渡した。
「王国は、わが魔王国の属国になったはずですが・・・・おかしいですな・・・・」
「その通りでございます!」
アストラ王は、内心で苦々しく思いながらも、ビュッテを上座に招いた。
「そなたたちは、人族ではないのか?」
ビュッテはそのネズミのような顔をしゃくってみせた。
「その通りでございますが・・・・」
アストラ王はビュッテが何を言いたいのかわからなかった・・・・
「これ、アレを!」
ビュッテは扇子をつかって秘書に指示を出した。
秘書は魔王国の新法について、簡単に説明した。主な内容は魔族が最高種族で、人族が最低種族というものである。
「な、ちょっとお待ちください! 我々はそのような新法など聞いておりません!」
アストラ王は、新法の内容を聞いて、慌てて口をはさんだ! そんなものを認めれば、王国は属国どころか魔王国の奴隷になりかねなかった。
「属国協定の後に作られた差別法等、我々は受け入れることができるはずがありません!」
アストラ王は協定の後に作られた事後法は協定の対象にならないと主張した。
ビュッテは悪い笑みを浮かべてアストラ王の顎を扇子で持ち上げた。
「まさに、あなたのおっしゃる通りですな! 事後法は協定の枠外でしょうな!」
「は、ははは・・・・」
ビュッテの言葉で、アストラ王はほっとしたのか、乾いた笑いを浮かべた。
「しかし、この新法は協定の前に施行されたものです!」
ビュッテはニヤケが止まらなかった
「ど、どういうことだ!」
アストラ王はビュッテの秘書が持つ新法の制定、施行日が書かれた書類を凝視した。
「こ、これは・・・・」
アストラ王は、膝から崩れ落ちた。そして魔王国に騙されたと気づいた!
「マクマグめ!」
アストラ王はマクマグに恨み節をはいたが、マクマグはまさか、この新法がトーケン王国に適用されるとは思ってもみなかった。
「諸君、というわけだ! 理解できたかね!」
ビュッテは貴族たちに扇で指示をした。
しかし、貴族たちは、何を言われているのか理解できなかった。
「下等種族共が! 最上位種族である私に対し、図が高い!」
ビュッテは突然金切り声をあげた!
「はっ! ははあ・・・・」
王国の貴族達は皆、ビュッテに平伏した。アストラ王は、その姿をみて涙が止まらなかった!
「おい、お前もだよ!」
仁王立ちのアストラ王に対しビュッテは冷たい声で命令した!
「・・・・」
アストラ王はゆっくりと膝をついて、両手を床につき頭を下げた。
その姿を見た貴族達からは嗚咽が止まらなかった。




