使者マクマグ
子爵領、男爵領を失い、魔王国との戦でさらに多くの国土を失った王国は、国力を大幅に失っていた。
さらに、10万の兵士を失い、今や魔王国どころか、他の弱小国にさえ、いつ攻め滅ぼされてもおかしくなかった。
そんな時にやってきたのが、魔王国からの使者である。
使者を任されたのはマクマグである。一介の近衛兵団の部隊長でしかない彼になぜ、このような重大な任務が託されたのか彼には分らなかったが、これ以上戦を拡げたくないという魔王の言葉を受け彼は快く任務を引き受けた。
「私が魔王国使節団団長のマクマグです!」
マクマグはアストラ王の前に進み出て、片膝をついて敬意をもって謁見の挨拶を行った。
魔王国との戦いを経て、魔族への恨みを募らせていたアストラ王だったが、マクマグの人柄に好感を持った。
マクマグは魔王からの書状をアストラ王に手渡した。
アストラ王は静かに書状に目を通した。
「マクマグ殿、書状の内容を重臣たちと検討する時間が必要である。数日、我が国滞在して待ってはもらえないだろうか」
アストラ王は、あえて数日という期間をマクマグに提示した。それはマクマグという男を観察しようと考えたからである。
書状の内容は概ねアストラ王が想像していた通りであった。基本的には王国に魔王国の属国になれというものであったが、魔王国の法律に違反しない範囲で、王国の自治権を認めるということであったため、アストラ王は重臣たちとの協議を経るまでもなく、受け入れてもよいと考えていた。
今や他国の侵略を恐れる王国にとって、憎い魔王国とはいえ、その傘下に入ることはやぶさかではないのである。
ただ、あれだけの大虐殺を行った魔王国である、果たして信用してもよいものか、その点がアストラ王の唯一の不安材料であった。その魔王国というものを、このマクマグという全権大使によって、見極めようと考えたのだ。
それから数日間、アストラ王はできうる限りマクマグとの時間を持った。食事は当然のように毎食一緒に取り、王都の観光案内役を務めた。マクマグはいったいいつ重臣と協議しているのだろうと不思議に思ったくらいであった。
アストラ王はマクマグから魔王国について、魔族について、どんなことでも次々と質問した。人からこれまでも魔王国について多くの話は聞いていたが、実際に魔族である魔王国幹部と話をするのは初めてであった。
マクマグの方も、包み隠すことなくアストラ王の質問に答えた。魔王国はこれまで魔族と人族が共に歩んできた国であると・・・・
しかしマクマグは一つだけ、どうしても話をすることができなかった。これについては、まだアストラ王も知らないことであったため、質問されることはなかったため、隠したわけではなく、あえて話をすることが躊躇われたのである。
それは新しく魔王国に締結された、魔族を高等種族とし人族を最下層とする新法についてである!
アストラ王はマクマグと数日過ごして、すっかりマクマグのことが好きになった。その人柄に触れて、魔族を誤解していると自らの心が狭量であると反省さえしていた。
確かに戦争で多くの兵士を失った。しかし、そもそも攻め入ったのはアストラ王自身である。彼らはただ、自国を守り通しただけなのである。アストラ王は魔王国の属国になることを決心し、重臣たちに伝えた。
アストラ王は重臣たちにもマクマグ一行と出来る限り多くの時間を設けるように伝えていた。重臣たちもマクマグをはじめとした魔王国一行と多くの時間を触れ合ったことで、魔王国の属国になることを、心から受け入れていた。
「マクマグ殿、我が国は貴国の属国になることを受け入れる! これからは共に同じ道を同志として歩んでいこうではないか!」
アストラ王は、謁見の間で玉座から立ち上がり両手でマクマグと握手を交わした。こうしてトーケン王国は魔王国の属国となったのである。
魔王が使者としては大きく格が落ちるマクマグを選んだのには当然理由があった。マクマグはこれまで多くの人族とかかわり、人種の別なく良い関係を築いてきていた。さらに、どちらかという気性の荒いものが多い魔族の中では温厚で誠実で誰からも好かれるような男である。
そして彼とともに王国に向かった、一行もマクマグほどではないにしろ、全員が魔族の中では希少なくらいに、善良な人柄のもの達である。
魔王国、魔族のイメージをよいものにするには、彼らしかありえなかったのであった。
アストラ王を含む、王国重臣たちはまさに、魔王のこのイメージ戦略にはまったと言わざるをえなかった・・・・




