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算数で読み解く異世界魔法!  作者: 扇屋悠
魔法の国編・第1部
134/164

第133話:「ち、違うの!」と魔女が狼狽する。



~メモ~


●ティルさん

 種族:犬人族ドグア

 屋敷の使用人。クールビューティな女性。

 タカハが正騎士に任命された直後、敵対していた騎士によって送り込まれた密偵。……だったが、説得の末、味方につけることに成功した。

 使用人としての腕前は完璧の一言。やや変わった性格をしている。

 一応魔法使い。珍しい識属性の使い手だが、魔法に興味はないようだ。

(登場:第106話、第109話)



●メルチータさん

 種族:妖精種エルフ

 タカハが幼いころ、ゲルフのもとに魔法を学びにきていた魔女。

 ゲルフのもとを離れた後は、北西域で捨てられそうになった子どもたちを育てる孤児院を経営していた。タカハが従騎士の時代に再会。孤児院を巻き込む貴族の陰謀をともに解決した後は、魔法の道を極める1人の魔女としてタカハに協力している。

 金髪エルフでスタイル抜群の美女だが、孤児院にいた期間が長すぎたためか、全くモテなかった。タカハに挙動不審なのはたぶんそのあたりが理由だろう。たぶん。

 魔法の腕前と知識量はタカハに引けをとらない。

 使える魔法は、土、水、風、火、空の5系統。称号こそないが、国内で最優の魔法使いの1人。

(登場:第4話、第5話、騎士団編第2部)




「――――タカハ様」


 木漏れ日のような声に、僕は起こされた。


「………………?」


 視界はぼやけていて、まぶたがふたたび落ちてくる。


「タカハ様」

「……ん、起きるよ」


 目を開けてすぐにピントがあう。


 エプロンがよく似合う使用人が、ベッドのそばで静かに一礼をしていた。


 作法をキッチリと守り、それでいて肩肘に力の入っていない完ぺきな一礼を僕に向けたのは、犬人族ドグアの女の人だった。


 透き通るような肌は白。

 折れた耳は黒。

 スレンダーな身体を質素な黒いティーガと黒いスカートで包んで、その上に身につけたエプロンは白。

 無彩色のコントラストが屋敷の壁を背景に際立つ。


 表情を変えないが、はっきりと美人だ。無表情が似合う系の正統派といえる。

 そんな彼女の名前は――


「おはよう、ティルさん」

「おはようございます、タカハ様」


 そこで、無表情が売りのティルさんは珍しく、かすかに困ったように眉を寄せた。


「申し訳ありません。指示されていた時間よりも少し早いのですが、うなされていたのでお声をかけてしまいました」

「そう? 悪い夢は……見ていない気がするけど」


 でも、ベッドのシーツは少し汗に湿っていた。


「……」


 ティルさんはそんな僕の様子をまばたき2回分の間じっと見つめた後、「そうでしたか。重ねて、申し訳ありませんでした」といつもの無表情で言う。


 そして、優美な仕草でエプロンの胸元に手を当てた。


「今日の朝食ですが、木の実料理と麦料理のどちらにしましょうか」

「……!」


 まさに自分の屋敷に帰ってきたと実感できる瞬間だった。

 この問いかけは何度されても気分がいい。

 美人で犬耳のメイドさんに『おはようございます』『朝ごはんどうしますか』と問われてテンションが上がらない人が居たら是非とも会ってみたいものだ。


 昨夜は多忙な日々の合間に偶然できた空白の一夜だった。リュクスは領都の大通りにある酒場へ、大量の女の子を引き連れて飲みに行ったらしい。誘いを辞退して、僕は自分の屋敷でたっぷりと眠ることを選択した。


 今朝の体調はきわめて良好。

 その一因がティルさんとのこの会話にあることは間違いない。

 それに、ティルさんの使用人としての仕事ぶりも大きい。

 屋敷に帰ってきたのはしばらくぶりだったけれど、部屋の中には埃一つ見当たらず、シーツや毛布は柔らかく整えられていた。昨夜僕が帰ってくることは予想できなかったはずだから、ティルさんが完ぺきに屋敷を管理していてくれたのは間違いない。本当によくデキるメイドさんだった。


 ティルさんとは正騎士に指名された直後からの付き合いになる。


 正騎士に指名されてから2ヶ月後に革命が勃発して、それから4月後の今。


 裏を返せば、まだ知り合ってから6月ほどしか経っていない。


 この屋敷を受領した後、僕に敵対していた騎士によってこの屋敷に送り込まれた密偵――それが、ティルさんだった。説得の末、僕は彼女を味方につけることに成功し、革命のあの戦いを逃げ延びてもらった。


 そういう立場だったから革命の後に一旦は解雇したのだけれど、


『これ以外の生き方が分かりませんから』


 と言われ、あらためて使用人として働いてもらっている。


 料理、洗濯、掃除だけじゃなくて、庭の手入れや屋根の修繕、家具の買い付けなど、この屋敷に関するありとあらゆる仕事をお願いしていて、その仕事ぶりは完ぺきの一言。今の3倍のお給料を払っても雇いたいくらいにデキる使用人だった。


 けど、まあ……完璧超人なんていないわけで。


 少しずれている・・・・・、という問題点もある。

 どうずれているのかというと――――


「そうでした、タカハ様。お食事の前にご提案することが1つあります」

「ん?」

「それでは、お耳を拝借して」


 メイドキャップ的な帽子をかぶったティルさんの顔が僕の耳に近づいてくる。つやつやとした黒髪が、かすかに僕の耳をくすぐる。


「メルチータ様は先ほどお休みになられたばかりです」

「うん」


 確信に満ちたささやき声で、ティルさんは言った。


「寝込みを襲うならば、今が好機かと」


「…………ティルさんがなにを勘違いしてるのか知らないけど、そもそも僕とメルチータさんはそういう関係じゃないから!」


「なるほど」


 ティルさんは僕の語気に打ちのめされたかのように一歩下がり、深く一礼をした。


「ご主人様の意向をくみ取ることができず、申し訳ありません。お許しください。タカハ様が今日お屋敷に戻られたのはメルチータ様にお会いするためだと勘違いしていまして――」

「もう6月も僕とメルチータさんを見てるんだからさ、いい加減どういう関係か分かるでしょ!」

「ともに高みに上り詰めるべく共同の作業をしている関係、ですよね?」

「言い方がやらしいんだよ! 僕たちは魔法の! 研究の! パートナーなの!」


 ……そう。


 ティルさんは基本、こんな感じだ。

 仕事ぶりが本当に完璧な分、こういう謎の言動がとても残念。


 とはいえ、今日の攻撃はなかなかに破壊力があった。

 目覚めてすぐのぼんやりした頭によろしくない想像をしそうになってしまって、僕は慌てて首を振る。

 そして――ティルさんは、そんな僕の仕草を見逃す使用人ではなかった。


「メルチータ様はお疲れの様子です。今日も寝相が悪く、その……やや扇情的な姿勢でお休みになっていますよ?」

「うわあああっ!」


 使用人の口車に乗せられた僕は、この真下の部屋を貸し出している居候の寝相とか服装とかを想像してしまった。

 僕と同じか、たぶんそれ以上に忙しくしてもらっているメルチータさんは、魔法以外のことは基本的にだらしがない。寝ぼけていると、ほとんど下着みたいな格好で屋敷をうろついていることもあるんだとか。

 いつもだったら理性で封殺できるようなそういう想像に、僕は勝手に赤面した。


 …………勝手に?

 いや、違う。

 この使用人がいけないのだ。


「重ねて、失礼をいたしました。ではタカハ様、朝食のメニューに関してですが」


 あっさりと話題を切り替えたティルさん。

 無表情と見せかけて、目元がかすかに笑っているような気がする。

 朝から完敗だった。完全にからかわれている。


「……」


 ティルさんとは知り合って6ヶ月。

 まだまだその性格は掴みきれない。


 ええと、朝食のメニューの話だった。

 少し考えて、今日は変化球を投げてみることにした。


「ティルさんは?」

「……?」


 白黒の使用人は、少しだけ目を開くことで驚きの感情を分かりやすく表現した。


「と、おっしゃいますと?」

「朝食のメニュー、ティルさんはどっちがいい? 僕はどっちでもいいんだけど」

「……困りました」


 ティルさんは白くて細長い指を頬に当てた。

 考えこむポーズだ。


「申し訳ありません。私は使用人ですので、決定する権利はありません」

「……」


 ふむ。


 権利。

 権利、ね。


「ティルさん」

「はい」

「ここはもうムーンホーク領じゃない。だから、ティルさんは奴隷じゃない。独立領に生きる人は例外なく領民だ。自由に生きることを許された、独立領の民なんだ」


 黒い犬耳がかすかに揺れた。


「だから『権利はない』っていう言葉を使うのは、違う」

「それは……ご命令でしょうか」


 ティルさんの口調はいつもの淡々とした感じではなかった。

 表に出かかっているなにかの感情が、波紋のように、その声を少しだけ震えさせている。


「もちろん命令でもないよ。でも、僕の屋敷の使用人なら今日の朝食のメニューを決める権利を当たり前に持ってる。僕が相談して、意見を求めても、間違いじゃないはずだ」

「はい。それは……分かります」

「うん。じゃあ改めて。ティルさんはどっちがいい?」

「では……私は……」


 瞬間、ティルさんは前髪に手を触れた。

 そのせいで、その一瞬の表情はよく分からなかった。


「…………申し訳ありません。決められません」

「どっちでもいい?」

「それが率直なお返事になってしまうかと思います。食材の材料費や腹持ちの度合い、食感や味わいのバリエーションといった実用的な点から選択することができますが……そうですね、タカハ様のおっしゃりたい点とは、違うのではないかと」

「……そっか」


 ティルさんは革命の前、使用人として領都の貴族たちに使えた過去をもつ。

 そんな使用人たちの中でも選ばれた者しか務めることができないムーンホーク城での仕事をやっていた時期もあるようだ。

 城に仕える奴隷は、信じられないことに9歳の頃から各地でスカウトされ、ここ領都に集められ、仕込まれるのだと言う。


 なら、簡単な推測が1つ。


 ティルさんは幼いころから自分の感情を押し殺してきたんじゃないか。


 厳しい城務めを作法を叩き込まれるのには相当な時間がかかったはずだし、以前のムーンホーク領の奴隷に対する扱いのひどさを考慮すれば――どういう幼少期を過ごしてきたのか、ある程度の見当がついてしまう。


 定められたことを定められた通りにこなす。

 こなし続ける。

 決められたいくつもの動作、言葉を、ただひたすらに繰り返す日々。


 意思や感情なんてものは、その定められた枠組みからはみ出してしまうはずだ。

 だから、ティルさんは必死にそれを押し殺してきたに違いない。


 ティルさんはきっと知らない。

 あれを食べたいと言ったり、動揺したり、笑ってごまかしたり……そういう選択肢はティルさんには無かったのだ。


 最近は僕やメルチータさんをからかうということを覚えたみたいだけど、こういう些細な問いかけをティルさんはとても苦手としていた。

 それが、僕は少しだけ気になる。


「じゃあ、今朝は麦料理でよろしく」

「かしこまりました。ご用意します」


 完ぺきなおじぎの擬音は『ぺこり』ではない。

 当てはまる擬音が存在しないような鋭くて流麗りゅうれいな仕草になる。


 一礼をしたティルさんの背中は、いつもより少しだけ小さく見えた。



――



 深緑色のローブを羽織って、いつでも登城できる格好に着替えた僕は、広間に向かった。

 僕の書斎と寝室は2階にあって、そのいずれもほどよくコンパクトなのだけれど、家人が集まる広間はそこそこに広さがあった。


 真ん中には使い込まれた上等なテーブル。


「……すぅ…………すぅ……」


 それに突っ伏すようにして、1人の魔女が眠りについていた。


 窓から差し込む穏やかな朝の光が、金色の長髪を照らしている。

 自分の柔らかそうな腕に形のいい右頬を乗せ、まるで童話の世界を夢みる少女のように微笑みながら眠り続けている彼女の名前は、メルチータさん。


 とんがって後ろ向きに伸びた耳は、妖精種エルフの証。

 閉じ合わされたまつげは長く、唇から静かな吐息が繰り返される。

 ややぴっちりしたティーガが好みなのは相変わらずのようで、その上からローブを羽織っているけれど、テーブルに押し付けられている豊かな胸の膨らみがはっきりと分かって――


「……いかん」


 ティルさんの先ほどの言葉があったせいだろう、大切な魔法研究のパートナーにして居候の魔女のことを、僕はいつもより数倍じっくりと観察してしまった。


 テーブルの上には、開かれた魔法書が2冊。

 そのどちらにも大量の書き込みと付箋がほどこされている。


 大好きな魔法の世界の中で、魔女は無防備に眠っている。

 この屋敷が安心できる場所なら、それはとてもいいことだと思う。


 ……というわけで。

 いざ。


「…………ん……?」


 僕はメルチータさんの頬を指でつついた。ゆで卵のようなお肌は柔らかく、もちっと僕の指を跳ね返してくる。

 メルチータさんはその感触から逃げるように、もぞもぞと顔の角度を変えた。

 仕草が妙に子どもっぽくて、僕はかすかに笑う。


「メルチータさん」


 肩に手をかけて、そっと揺さぶる。

 数回。


「……んー……ティルさん……?」


 僕のことをティルさんだと勘違いしているようだ。

 相変わらずの寝ぼけっぷりに、僕は追撃することを決定。


「……もうちょっと寝かせて……」

「メルチータ様、もうすぐ出発のお時間となります。起きてください」

「やだよー……起きたくないー……」

「困りました。どうすればよろしいでしょうか」

「……刺激が足りない……。タカハくんに……起こしてほしいなー……。ぜんぜん会ってないから……」


 …………ん?


「メルチータさん、メルチータさん」


 やや強めに肩を揺らすと、メルチータさんは眩しさを嫌がるような表情をしながら、うっすらと翡翠色の瞳を開いた。


「さっきから、僕ですよ」


「……………………あ、れ?」


 ぱちり、ぱちり。

 大きな瞳がまばたきをすること数度。

 その視線が、ようやく僕に焦点を結ぶ。


「おはようございます、メルチータさん」

「う、うん。おはようございます、タカハくん。それで……聞き間違いかもしれないんだけど」

「はい」

「さっき、から?」

「はい」


 次の瞬間――メルチータさんは素早く身を起こした。


「ち、違うの!」

「……なにがでしょう?」

「さっきの発言は、ええとその、久しぶりにタカハくんの顔が見たいなーって思っただけだから! それだけだから!」


 うん。理解している。

 だから、何をそんなに慌てているんだろう?


「それはもちろん僕も同じ気持ちでしたよ。ここのところ、お互い忙しかったですもんね」

「そ、そう! そうなんだよ!」

「メルチータさんがお望みなら、僕は毎日起こしに来ますよ?」

「それはだめ! 部屋きれいじゃないし、私の寝相ってヤバいらしいから……! そもそも領主様に起こしてもらうわけには!」


 そこで、メルチータさんは、はっとなにかに気付いた様子で口元をぬぐった。よだれが垂れていたりということは……ない。


「ははっ。本当に、朝に弱いですよね」

「ち、違います!」


 メルチータさんは真っ赤な顔のまま言った。


「昨日『学舎』から帰ってきたのが夜明けくらいの時間だったから! 純粋に寝不足なだけだよ!」

「そういうことにしておきましょうか」

「うぅ……。タカハくんにからかわれてる……」


 こんな面白いリアクションをしてくれる人を、どうして茶化さずにいられようか。


「それにしても……お疲れみたいですね」


 よく見ると、メルチータさんの目の下にはひどいクマがあった。

 紅潮が引いた後の頬も心なしか青白い。

 エルフのとんがり耳もどこか元気がないように見えたし、金色の髪は少し乱れていた。

 笑顔も、擬音で例えるなら、ひょろん、って感じ。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫…………じゃ、ないかもしれない……」

「……」


 相当に追い込んでいるようだ。

 メルチータさんはたぶん、どこまでものめり込んでしまえる人だから、ちょっと心配になる。


 僕はメルチータさんのそばを離れ、テーブルの向かいに座った。

 同時に「どうぞ」とティルさんが紅茶を用意してくれる。食器にほとんど音をさせないその動作は芸術的だった。立ち上るいい香りに目を細めながら、僕はカップを手に取る。


 テーブルの向こうで、メルチータさんもまた紅茶のカップを持ち上げた。


「タカハくん、起こしてくれてありがとう。今日は本当に、起きられなかったかもしれなかった……。この2冊を取りに戻ってきただけだったんだけどね、やっぱりこのお屋敷、居心地がいいから」

「ほぼ徹夜ってっことですか? それは……お肌によくないですよ」

「お願いだからお肌の話はやめて~っ!」


 こんな感じだけれど――メルチータさんはとても優秀な魔女だ。


 魔法使いの実力はだいたい使いこなせる属性の数で決まり、メルチータさんはすでに7系統中5系統の発音をマスターしている。5つ以上の系統を使いこなせるのは、この独立領内16万人程度の魔法使いたちの中に、僕を含めて数人しかいない――といえば、そのすごさが伝わるだろうか。


 しかも、メルチータさんには魔女としてのブランクがあって、それだ。


 ブランクは十年弱。その間、メルチータさんはムーンホーク領の北西域で孤児院で子どもたちと暮らしていた。

 子どもっぽい仕草の原因は、たぶん、そういう部分にあるのだろう。


 そんなメルチータさんには、独立領が独立領となった後、ある大きな仕事をお願いしていた。


「研究の方は、順調ですか?」

「それが、全然順調じゃないんだよー。ごめんなさい。あんなにたくさんの研究者をつけてもらってるのに……」


 領内に残った旧特権階級への対処を『中の問題』。

 魔法の国本国や騎士団への対応を『外の問題』。

 とするなら、メルチータさんにお願いしている研究は『魔法の問題』とでもいうべき、独立領の課題の1つだった。


 ――革命の日。

 ――領都を攻略する戦いの直前。


 僕たちは未知の魔法によって妨害を受けた。


 『大魔法防護』。


 領都をすっぽりと覆い尽くすような巨大な防御魔法は、たしかに、数万発の魔法攻撃を受け止めていた。

 それはこの独立領に存在するすべての単位魔法ユニット修飾節モディファイを組み合わせたとしても理解することができない魔法で、領主としても、1人の魔法使いとしても、僕はそれを危険視している。

 単純に、あれを唱えながら攻め込まれたら、魔法使いたちは手も足も出せずにやられてしまう。

 戦争の形を変えるような魔法だったと思う。


 その研究を、僕はメルチータさんに依頼していたのだった。


「『学舎』を訪ねてきてくれたあの日からの進展は……1つくらいかな」


 メルチータさんはどこか気だるげに金色の前髪をかきあげた。

 透き通った翡翠色の瞳が僕をとらえる。


 あの日――――


 数日前、『学舎』を訪れたときのことを僕は思い出した。



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