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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第4章
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一緒の為の志

 私は言葉を失っていた。

 沈黙。しかしドクドクと早くなる心臓の鼓動が、私のなかではずっと響いていた。ようやく出せた言葉も、何を言っていいかわからず。


「ちょっ……ちょっと待ってよ……。そんなのおかしいわ」

「えぇ、ですから変だと」

「そうじゃなくって……っ!何よそれ……!」


 どうなっているんだ。発覚した事実がよくわからなかった。

 状況を整理しなくては。私は焦りで混乱する頭から必死に自我を引っ張りだし、あれやこれやと考える。


 ――優希ちゃんは人じゃない?もちろんそんな事は信じられないが、普通じゃ出来ない事をしたのも確かだ。それもセイヴァーの時ではなく、普通の状態で……。

 ならばいつからそうだった?ギョウマの存在を知らなかったのだから、最初からそうだったとは考えにくい。


 だとすれば――。


「……セイヴァーとして戦い続ければそうなる……?」


 私は右手に填めたグローブを見たあと、ましろちゃんに疑惑の視線を送った。しかし彼女は慌ててそれを否定する。


「違うです!そんな危なっかしい機能があれば使わせませんし、もしましろが鞘乃さんを陥れようと考えているなら、わざわざそれを鞘乃さんに教えるメリットはましろに無いはずです!」

「それもそうね……」


 ……少なくとも、ましろちゃんが私達の傍にいる間は信じて良いだろう。そんな事実を私に教えた以上、もし私の身体に異変が起こればその時点でましろちゃんはクロ確定だしね。


 それに……敵対するには親しくなりすぎた。私もましろちゃんの事は信じたい。


 じゃあ信じるというテイで話そう。もしセイヴァーシステムが原因で無いのならば、一体何が優希ちゃんにそんな力を与えたのか。

 答えは「わからない」だった。


「ですから変だと言う表現でしか伝える事が出来なかったのです。それに念のためにもう一度言っておきますが、あくまでもこれはましろの仮定……なんらかの偶然が作用して、優希さんを助けたという可能性もあるです」


 破壊者の力の件も、単に私達の勘違いだった。今回も結論を出すのはまだ早いと言うことだろう。


「ただましろが言いたいことはですね……もし優希さんが馬鹿なことを考えているのであれば、それを止めてほしいのです」

「……えぇ。ましろちゃんの推測は貴重な意見だった。大いに役立たせてもらうわ」




 ――元々、私のセイヴァーは優希ちゃんの存在によって成り立っている。彼女が危険だと言うのなら救うのは当然の事だ。

 問題は彼女が何か危険な事に首を突っ込んでいたとして、大人しくやめてくれるだろうかということだ。優希ちゃんは誰かのためになら危険をも受け入れてしまうだろう。


 セイヴァーである彼女を止められるのはたぶん同じセイヴァーである私しかいない。ましろちゃんが私に頼んだのはその事も考慮されているでしょうね。

 そしてつまりはそれは、優希ちゃんと戦うことになる可能性もあることを示している。

 憎しみを乗り越え、彼女と敵対せずにすんだというのに。ようやく同じ道を歩めるようになったと思ったのに。


 それを思うと私は酷い想像に襲われた。彼女が私に背を向け消えていくという内容だ。


 こんなのは被害妄想だ。ましろちゃんも言ってたはずだ、あくまでも仮定でしかないのだと。

 それでも一人でいると、悪い方向へしか物事を考えられなかった。私の悪い癖。ネガティブな自分が本当に嫌になる。


「待って……っ待って……優希ちゃん……っ!」


 暗闇のなかへ消えていく優希ちゃん。しかし私の呼び掛けに彼女は振り返る。


「なぁに?鞘乃ちゃん?」


 そこで私は目を覚ました。今のは想像ではなく、本物の彼女の声だったからだ。そして気づけば彼女が、私を覗きこむようにジッと見つめていた。


 ……なんだかデジャヴな光景。昨日病院で目覚めたときと同じね。


「おはよ、鞘乃ちゃん」

「おはよう……というか、私、寝ちゃってたのね……」

「うん、凄く疲れてたもんね。仕方ない仕方ない!」


 まぁ、確かに彼女の言うとおり、今回ばかりは不可抗力だ。私はほとんど限界だったのだから。あんな状態でもましろちゃんの話を全部聞いてあげる事が出来た自分を誉めてあげたい気分だ。

 それよりも、何故優希ちゃんがさも当然という風にここに居るのかと言うことが気になるところだ。

 尋ねると彼女は、葉月ちゃんと別れてからすぐに引き戻して来てくれたのだと言う。


「そしたらましろちゃんがちょうど家から出てきて、後の事を任されたんだ。ちょうど良かったよ。その……鞘乃ちゃんが心配で来たからね」

「そっか……」


 心配してくれたんだ……。ただそれだけなのに、なんでだろう。すっごく安心して、嬉しい。私はだらしなく乱れた髪をササッと整え、まだ少し気だるい身体を、平然を装って起き上がった。


 時間は五時間経ったくらい……たぶんましろちゃんは私が寝落ちた後すぐ出ていっただろうから……かなり優希ちゃんに退屈な思いをさせてしまった。


「ごめん……暇だったよね?」

「んーん。鞘乃ちゃんを見てれば退屈しないよ。……でも、これは冷めちゃった、かな?」


 優希ちゃんは背中に隠していた紙袋を取り出す。

『バーガーマッツ』。彼女達の行きつけのハンバーガー屋だ。お見舞いの品って感じかしら。優希ちゃんらしいと言えばらしい贈り物ね。


「ありがたく貰っても良いかしら」

「良いけど……」

「ふふ、大丈夫よ。優希ちゃんと食べるご飯はなんでも美味しいわ」

「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。じゃあ一緒に食べよ?……というか自分の分もちゃっかり買っちゃってるから……えへへ」


 そうやって照れ笑いを溢す優希ちゃんが可愛くて、より一層私は元気が出たのだった。

 ……それに、今はなんでも良いからお腹に入れたかった。何せ昨日の昼から何も口にしていないのだ。お腹は気を抜けばグゥウウウウウと大きな音を鳴らしていたに違いない。


 私がパクパクと勢いよく口に運んでいく様を見て、優希ちゃんは嬉しそうだった。きっと安心してくれたのだろう。さっきまではぐったりとしていたんだしね。


 ならば次は私の番だ。腹ごしらえも済ませたし、戦に励ませてもらおう。……私にも安心させてほしい。


「……優希ちゃん、何か危険な事、してない?」

「んえ?」


 優希ちゃんはハンバーガーを頬張りながら、なんのこっちゃと言わんばかりに首を傾げていた。


「うーん、セイヴァーは危険な事ではあるけど」

「そう言うのじゃなくって……その、なんて言えばいいかな……人を超えちゃうようなパワーを手に入れたりとか」

「セイヴァーがそうだけど」

「……それ以外には?」

「うーん……?そんな能力があったらエスパーにでもなりたいよね!ハンドパワー!!」


 そう言って彼女は手をグッぱグッぱと広げて閉じてを繰り返している。嘘を言っているって感じにも見えない。

 嘘は苦手な事も知っているし、隠し事をしているなら少なくとも動揺を見せるはず。


(……やっぱり、偶然だったって事かしら)


 ……一応は安心、か。最も、その確信も無いのだけれど。

 肩の荷が下りたって感じはしない。それゆえに笑顔になれるような心境ではなく、私はため息をついた。

 優希ちゃんは不思議そうにそれを見てくる。


「どうしたの鞘乃ちゃん。えと……私が何かしたなら謝るけど……」

「え?あっ……そう言うことじゃないの。ただその……優希ちゃんがね、居なくなる夢を見たものだから、ちょっと不安になっちゃって」


 ……私も嘘は言っていない。ただ、確証が無い以上、ましろちゃんの言った『仮定』は不用意に話す事でもないだろう。

 直接的な言葉で確かめるのが怖かった、って言うのも、正直あったけれど……。


「ほえー、そっかぁ。私も前に変な夢見たし、気持ちはわかるなぁ。でも行かないよ?どこにも。無茶ばかりしてる私が言っても説得力無いかもだけどね」


 自嘲気味に優希ちゃんは笑った。

 いつもならその無茶に関しても明るい笑いで吹っ飛ばすような勢いなのに、珍しく優希ちゃんは落ち込むように肩を竦めている。


「……鞘乃ちゃんが、さ……『優希ちゃんは一人じゃない』って言ってくれて……嬉しくて、でも情けない事にそれまで忘れてたよ。私、鞘乃ちゃんの傍にいるって言ったのに、いつの間にか鞘乃ちゃんのためなら犠牲になってもいいなんて考えてた。それってなんかちょっと違うって言うか……自分から鞘乃ちゃんと離れ離れになろうとしてたね」

「優希ちゃん……」

「だからもう一度約束。もう危ない無茶はしないよ」


 そこからはいつもの優希ちゃんだった。悲しみを砕くような元気な笑顔で、私を包み込んでくれる。


「でも鞘乃ちゃんの事も疎かにする気はないから安心して。これからも絶対に守るから!命に代えてもね」

「ふふっ……命懸けちゃ、危ない無茶になっちゃうよ?」

「えっ!?あっ!!……あー、えっと、これは、その……」

「ふふふ、あくまでも志では、よね?わかってるわよ。ありがとう」

「うぅ……なんか私、カッコ悪いね……」

「そんな事無いよ。よしよし……」


 私はようやく確信を持って笑えた。やっぱりましろちゃんの考えは勘違いに違いない。今の優希ちゃんは私を置いていこうとはしないだろうから。


 そしてもちろん私だって……優希ちゃんに置いていかれないようにこれからも頑張らなくちゃ。


 そんなわけで今度こそ、私は戦いへの決意を固め、この束の間の日常を堪能するのだった。


(……優希ちゃんと、一緒にね)




 彼女の温もりに満たされ、次の日には完全に復活を遂げることが出来た。セイヴァーとしても人としても、彼女の強さに支えてもらってばかりで――私も頑張らなくちゃね!


 ちなみに。


「四十五点……なんとか赤点回避出来たよ~!」

「おめでとうございます!優希ちゃん頑張りましたものね!ちなみに私は九十八点でした」

「ふふ、勉強に付き合った甲斐があったわね。私は……九十五点」


「うわあああああああああああっ!!格差が酷すぎるよ!!彩音ちゃん早く戻ってきてぇえええ!!」


 ……こっちでは立場が逆、ね。優希ちゃん、頑張って……。

第四章、完

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