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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
最終章
100/100

絆の紡ぐ未来

 ――戦いが終わってから数日の時が流れた。ほんの二週間ほどだ。

 街の復興には、まだまだ時間がかかりそうだな。しかし共に生きる未来のため、人間はやり直せる。何度も、何度でも。

 新庄優希、そして剣崎鞘乃。いや、あやつらチームセイヴァーが、それを証明した。


「本当に大した奴らだ。……そなたも、少しはその意味が理解できるようになったか?」


 私は後ろに黙って突っ立っているそいつに尋ねた。しかし返事はない。相変わらず、つまらん奴だ。最初に会ったときからそうだった。


「……まぁよい。それよりも、そなたいい加減礼儀をわきまえんか。勝手に人の家に上がり込みおって。――おっと。鞘乃に同じ事しようとしてた私が言えた口ではないか」


 軽くおどけてみるも、リアクションは無い。……まぁ、そういうのを特別期待していたわけではなかったが。

 そうして結局沈黙に包まれた数秒後。奴の手が、私の方へと伸びていた。


「貴様、何をする――!?」



 ***



 アタシらの日常に平和が戻ってきた。まぁ街は滅茶苦茶だから、不便に感じることはまだまだ多いんだけどな。

 けど、平和ってのはありがたい。胸のつっかえが無くなったつーか、心置きなく暮らしていける。


 そんで、今日はそんな晴れ晴れした気分でパーティだ。祝勝会って奴だな。アタシと葉月、ましろの三人で買い出しを済ませたところだ。


「さっさといかねえとカレンの奴が待ってるかもな~」


 集合場所はカレンの家だ。

 ちなみにカレンの家ってのは、ホフドリムの地にある遺跡の事じゃない。ましろが『次元の扉』の技術を用いて、新しく家となる空間を造り出して、そこを家として使ってる。……まぁ、要するに鞘乃の家と似たようなもんだ。


 カレンが遺跡を離れたのは、みんなの頑張ってる所を見て、自分も過去に囚われてねえで前に進もうって言う覚悟の表れかもしんねーな。


「ましろちゃんもこっちに戻ってこればいいのに」

「うーん、それが意外とお仕事が忙しくてですね……。やっぱり研究とかに適してるのは操さんの家なので……」

「ハッ。戻ってこねえ方が喧しいのが減ってありがてえぜ」

「こんなこと言ってますけど、一番寂しがってたのは彩音ちゃんなんですよね」

「オイ!デタラメ吹き込むんじゃねえ!」


 にやけた葉月に思いきり掴みかかる。……そりゃ、いねえよりはいた方が良いに決まってるけどよ。

 ――やっぱりこんな事考えると気が狂う。ましろに触れないように話題をそらした。


「バーナの奴は元気にしてんの?」

「えぇ。しっかりやってもらってますよ」

「そか。しかし、アイツもようやるわ」


 葉月の親父さんは操さんのお陰で新しい就職先を得た。そこで代わりにバーナが『壁』の管理役を名乗り出たんだ。

 自分達の天敵であるエネルギーを守るために働いてるってアタシじゃ真似出来ねえや。たぶん、直接アイツは影響及ぼしたことねえと思うが――一応は王の配下として世界に牙を剥こうとしてたんだ。その罪滅ぼしみてえなもんなのかもな。アイツもアイツなりにかつての自分と向き合ってるって訳だ。


「ぐーたら寝てそうなイメージしかねえけどな」

「ふふ。確かに」


 みんな前を見て歩き出している。戦いは終わったけど、本番はこれからなんだ。


「……アタシらも負けてられねえな!」

「と、言うと?彩音さんは何か目標でもあるですか?」

「あーっと……とりあえず毎日楽しく馬鹿笑い出来るように努力するわ!」

「それ遊んでるだけじゃないですか」


 そうして三人で笑いあっていた。


 そしてそれが治まってから、ましろがふと、こんな事を尋ねてきた。


「そういえば、優希さんと鞘乃さんはまだ来ないんですかね?」


 優希達とは、適当に合流するはずだったんだが。もう先にカレンの家に着いたか。それとも――。


 それを考えて、アタシと葉月は顔を見合わせてケラケラと笑っていた。その後、それを不思議そうに見てくるましろにアタシはこう言った。


「アイツらがどうしてるかなんて容易に想像がつくぜ。特に……あの馬鹿大将の事ならよォ~」


 言った後にまたその光景が脳に浮かんで、アタシは静かに笑みを溢していた。



 ***



 ――空がオレンジ色に染まって、少しづつ街の人影が少なくなっていた。私は冷たいジュースに癒されながら、みんなのもとを目指して歩く。ゆっくり、だけどしっかりと足を動かして。


「……よっし。今日もよく頑張った!」


 セイヴァーとしての役目を終えてから、私はボランティアとかに励んでいた。と言っても、普通の新庄優希(今の私)じゃ、清掃とか、怪我をした人の行動を手伝ったりとか――どっかーん!って、ド派手に街のために行動することは出来ないんだけどね。


 けど、セイヴァーの力は使わない。これはきっと、救世主の力に頼らなきゃ出来ないことじゃない。何でもかんでも、この力に頼ってちゃいけないって思うんだ。


(今でも大切な、宝物だけどね……)


 グッと左手に填まったグローブを握りしめて微笑んだ。


 これまでの事を思い返して少し、立ち止まっていた。すると後ろから視線を感じて振り返る。


 私の大好きな彼女が立っていた。


「やぁ。鞘乃ちゃんもこれから?」

「えぇ。せっかくだから先生に何かプレゼントでも……って考えてたら、出遅れちゃって」

「そか。きっとカレンちゃん喜ぶよ。感動して泣いちゃうかもね」

「ふふ。だったら良いんだけど。――それで、優希ちゃんはここに止まって何をしてたの?」

「あぁ。ちょっと思い出してたんだ。いろんな事」


 そう言うと、鞘乃ちゃんは目を閉じて嬉しそうにしていた。


「いろんな事……そうね。貴女と出逢ってから、いろんな事があった」


 そして目を開いて、私を真っ直ぐに見つめた。ゆっくり、口を開いた。


「あの日も、こんな綺麗な夕焼けの空だったね」

「うん。覚えてるよ。それはそれは、鮮明にね」

「私もよ。ただただ優希ちゃんの事を羨ましいと思ってたわね」


 そして、彼女はどこか哀しげに苦笑を溢した。


「今でも時々不安になる。……夢じゃ、無いんだよね。ちゃんと平和が戻っていて、優希ちゃんはそこにいてくれてるんだよね?」


 そう言って俯く鞘乃ちゃんの頬を私はギュッとつねった。驚いて彼女がこちらに視線を移す。そしてまた驚く。私がもう片方の手で、自分自身の頬をつねっているのを見て。


「夢じゃ無いよ。これは鞘乃ちゃんの夢でも、私の夢でもない。だから今、私がつねってる鞘乃ちゃんはここにいるし!鞘乃ちゃんの事が大好きな私は、これからも、ずっと、ずーーーーっと!傍にいるよ!」


 そう言って、私は思いきり笑った。

 鞘乃ちゃんは驚いた表情を次第に崩し、幸せそうに笑った。


「……ありがとう。私も大好きだよ」


 そして頬に伸びた私の手を優しく包んで頬を染めていた。照れくさくも、嬉しい気持ちを胸に、私と鞘乃ちゃんはそのまま手を繋いで歩き始めた。



 ***



 ――奴の手が私の元へ伸びていた。咄嗟に身構えたが、そいつの手は私の手前で止まっていた。


「……な、何……?」

『……お前には色々と迷惑をかけた。間違いは『消去』ではなく『正さ』ねばならない。それが、お前達人間のやり方なのだろう?』


 その驚愕の言葉を聞き、私の動きは止まっていた。そして直後、思わず吹き出してしまった。


 その後、私は奴から背を向けた。


「そなたを許す事は正直難しき事だな。故に、その手を取るには相当な勇気がいりそうだ。しかし敢えて私はそれに乗ってみるとしよう」


 そして再び奴の方を向き、手を差し出した。が、奴の方がそれに戸惑ったように立ち尽くしている。今更自分のやったことに責任を感じておるのか。情けない。


 そうして沈黙に包まれた。しばらくして奴は私に尋ねた。


『……何故だ。何故そう出来る?お前も、新庄優希も……何故……』

「……何故何故何故何故。知りたがりだなぁそなたは。少しは自分で考えてみればどうだ」


 私は奴を引っ張り、外へ出した。新しい私の家――次元の扉の向こうは、少々標高が高き場所。街を見渡せるお気に入りの場所だ。


 丁度、下に優希達の姿が見えた。それを見て思わず笑みを溢れる。


 私は拳を握りしめ、それを見つめながら言った。


「……優希は言っておった。力でねじ伏せるやり方など、誰にでも出来ることだと。正しく、そなたが好き放題やっていたようにな。……私も、そう思う。そなたに対して、こいつを奮い、亡くした復讐を遂げたいと考えたこともあった。だが、その苦しみを、あやつらは一緒に背負ってくれた」


 私は手を広げ、もう片方の手を握る動作を取って続けた。


「力と言うのは繋ぐ(こうする)為に使うものなのだと、思い出させてくれたよ。だからこそ、復讐を止めた。そしてもう争いを生まぬために、共存を目指すことにした」

『……理解不能』

「そなたにも理解できる日が来るさ。そなたにとっての大切なモノが見つかった時にはな。……そうだ。そなたと手を繋ぐのは、そうなった日まで預けておこう」


 そう言って私はニッと歯を見せた。そして再び背を向け、恐る恐るこんな提案を出した。


「……これから優希達とぱーてぃなるものを行う。良かったらそなたも――」


 再び見るとそこに奴の姿はなかった。せっかく人が誘ってやっとるのに。照れ屋め。

 ……まぁ良いか。きっと、あやつはあやつの絆を探しに行ったのだろう。私は私の大切な者達との時間を過ごすことにしよう。


「おーい!カレンちゃーん!!」

「先生!お待たせしました!」

「そんなとこに突っ立ってねえで早く始めようぜー!」


 みんなの声が聞こえる。

 私は心の中で奴に言葉を送ってから、そこへ走った。


(さらばだ、神よ。また会う時まで――)



 ***



 パーティは大盛り上がりだった。でも、なんだか少しだけ寂しい気持ちにもなる。戦いが終わったって事は、チームセイヴァーもこれで解散。それで何か変わるかって言われたら別にそうでもないかもだけど、でも……なんと言うかちょっぴり名残惜しいと言うか……。


「部活動とかの引退ってこういう気分なのかもね」

「でも……活動こそお仕舞いですけど、これからも私達の心でチームセイヴァーは不滅!でしょう?」

「その通りだぜ。別にアタシらはいつでも会えんだ。明日からもよろしく。そんでみんな、頑張っていこうぜ!」


 私は頷いた。と、納得して話題が終わりかけたそこで鞘乃ちゃんが言った。


「写真。写真取ろう!みんなで」


 それに対してみんなは満場一致で、笑顔を見せた。




 ――新しい朝が来た。


 時計の時刻は十一時四十五分。でも安心。まだ今日は夏休み……。


「あっ!!今日は鞘乃ちゃんと遊ぶ約束してたんだった!」


 待ち合わせ時間の十二時まであと僅か。私は急いで着替えて部屋を後にする。


 ――引き返して私は写真を数秒見つめていた。チームセイヴァーみんなの満面の笑顔が、私達が走り続けて掴んだ笑顔が、そこに刻まれていた。


「……これからも、頑張ろうね。……頑張ろう、私!」


 こうして私は、これから先への未来に向けて走り出した。


 ギョウマ達との戦いの日々は終わったけど、まだ私達の戦いは終わらない。一生懸命生きて、大切なみんなと笑顔で生きていく。その為に、今日も私は走る。自分達の可能性を、信じて――!


「さぁ、これからが本当の戦いだよ!」

新庄優希の救世物語、完。

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