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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第1章
10/100

戦士達の休息

 ギョウマ・エレムは走っていた。足を引きずり、のたうち回るように――しかし無我夢中。普段は余裕溢れる態度の彼が、初めて味わった敗北感だった。

 彼は強い。並のギョウマなら数人同時に相手にしても余裕なほどの実力者なのだ。しかしその慢心がゆえに、ここまでの仕打ちを許してしまった。


『クソッ……コノ僕ガ……アンナ奴ラニ……ッ!』


 今回もいつも通り飄々とした態度で、奴らに敗北したルシフ、そして散っていったギョウマ達を嘲笑ってやるつもりだった。

 だが、結果は痛々しい傷の数々。まるで馬鹿にしようとした連中と同じ……。


『負ケタ……?違ウッ!奴モ只デハ済マヌハズ……ッ!!』


 ――そうだ。自分もやってやった。あのぬるいことをほざくクズに深傷を負わせてやった。

 言うなれば相討ち。負けたわけではない。エレムは自分に言い聞かせ、次第に足を止め始めた。必死になる必要はない。この傷の復讐は、次の機会にすればいい。


『次ハ確実ニ……消シテヤル……目障リナ……光ヲ……!』



 ***



「へっくしょいっ!痛った!!うぅ……傷に響くよぉ……」

「あぁ……大丈夫ですか優希ちゃん」

「ほっとけほっとけ。勝手に無茶した罰が当たったんだよこの馬鹿」


 あの金色の恐ろしいギョウマとの対決の末、倒れてしまった私が目覚めたその場所は、白い天井に、白い壁、白い布団に、白いベッド。白い包帯に巻かれ……ぬああああっ!まさかの入院!!


 と言っても、精々二週間程度で済むらしい。全身汲まなく傷だらけだったけど、安静にしていれば治る傷なんだとか。

 セイヴァーの状態は普段よりも身体能力が上昇している状態。怪我も多少マシで済んだんだ。救世主の加護様様だよ。


「それにしても、彩音ちゃんも葉月ちゃんも、お見舞いに来てくれてありがとう」

「全身包帯ですから初めは驚きましたが……大したことなくて本当に良かったです」


 葉月ちゃんはいつものようにニコニコと笑っていたが、目の下が少し腫れていた。そうとう心配してくれてたみたいだ。


「……本当にありがとうね、葉月ちゃん」

「当然の心配ですよ。優希ちゃんに何かあったら私……」


 またしても彼女の目からはそれが滲み出していた。こんなに心配してくれるなんて……嬉しいけど、勝手に危ない事をやってて、申し訳ないな。とりあえず心配をかけてはいけない。大丈夫だと彼女の手を握って笑った。


「ったく、葉月は大げさだなぁ。でも、何やったかしらねーけど優希も無茶しすぎ。わかってるな?」

「はーい……ごめんなさいアヤゴ」

「おい反省してねーだろお前」


 彩音ちゃんの方は腕を組んでまるで動じてないって風にしている。「どうせお前は殺しても死なないぐらい元気な馬鹿だから」って。でも私はそれも一種の信頼ゆえの態度だと思ってる。


 セイヴァーになってからというものの、友達の大切さが身に染みるな……。今日は怪我も身に染みるけどね。

 それに病人ってのも案外悪くないものだ。合法的に学校を休めるし、お見舞いの品は美味しい!怪我してもお腹は無事だもんね!


 そうしてみんなでワイワイやっていると、扉が開いてひょこっと鞘乃ちゃんが顔を出した。


(なんだよそれ、可愛いな)


 少しオチャメな一面を見せた後、彼女は部屋の中へ足を踏み入れた。そこで彩音ちゃんは彼女に尋ねる。


「よぉ鞘乃。お前ならこいつが何やったか知ってるだろ?」


 鞘乃ちゃんならキチンと合わせてくれるとは思うけど……。不安げに表情を曇らせている私に、彼女はウインクした。


「そうね。優希ちゃんは立派だったわ……。全身全霊を懸け、かなりの高さからダイブしたの。今にも岩場から落ちてしまいそうな猫を救うために」


 ま、まぁ妥当なとこかな。私ならやりかねないかもだし。

 ……そう言えば、鞘乃ちゃんが私を運んでくれたんだね。ありがとう。

 私がガッツポーズを作って笑うと、鞘乃ちゃんも笑ってくれた。本当に生きて戻ってこれて良かった!


「まぁ!もう仲直りしたんですね!」

「え?あ、ああ、そう言えば私たち喧嘩みたいな感じになってたんだっけ」

「え?そーなんだ。アタシが休んでる間にいろいろあったんだな」


 そう言えば葉月ちゃんにはちゃんと仲直りしたこと言ってなかったっけ。まぁ仲直りした後は戦いだったし、鞘乃ちゃんの笑顔を見たのは私自身久しぶりなんだけどね。


「もうすっかり仲良しだよ!ね、鞘乃ちゃん!」

「ふふ、そうだね」


 ニコニコ笑いあっていると、葉月ちゃんがそれに負けないくらいに、というかそれ以上に、ほっぺが落ちそうなほどに笑っていた。……やっぱり葉月ちゃんって、ちょっと変わってるんだな。




 ――彩音ちゃんと葉月ちゃんが帰ってからも鞘乃ちゃんは残っていた。たぶん話したい事があるんだろう。でも都合良かった。私も聞きたいことあったし。


「ね、鞘乃ちゃん。私迂闊に動けなさそうだけど、その間ギョウマが出たらどうするの?」

「……出ないことを祈りたいけど、最悪私一人でもやるわ」

「でもそれは危険だよ!」


 険しく表情を強ばらせる鞘乃ちゃんが心配で私は飛び起きた。瞬間、激痛が走る。鞘乃ちゃんはそんな私を心配そうに見つめ……次第に表情を笑みへと変えた。


「大丈夫、今まではずっとそうだったし、守りに徹すればなんとかなると思うから」


 安心してほしいと、力強い笑みを見せてくれた。

 確かに、彼女はこれまでそうしてきたんだ。あの世界のことは私よりも先輩だし、私の身体はこんな状態。私が参戦したところで足手まといにしかならないだろう。少し長いけど、しばらくは彼女に頑張ってもらうしかない。




 ――話は彼女の方へと移った。なんでも、私に渡したいものがあるのだと言う。


「セイヴァーの新兵器よ」

「え!?本当!?」

「と言うよりは、以前からあったんだけどね。でもそれを使うには少しコツがいるみたいだから、まだ早いって思ってたんだけど……」


 それどころでは無くなった、か。確かにあんなに強いギョウマ、鞘乃ちゃんも予想外って顔してた。……だったら尚更私が必要なんじゃ……。


「鞘乃ちゃん、困ったら本当に連絡してね。いつでもすぐに行くからさ」


 そう言うと彼女は「心配症ね」なんて笑っていた。が、私は本当に心配で、彼女の冗談を笑い飛ばす事が出来ずにいた。

 心配症ならそれでもいい。物事を適当に済ませて後悔するよりも百倍マシだ。

 鞘乃ちゃんは私の真剣な表情を読み取ってくれたのか、次第に笑みを取っ払い、コクリと頷いた。以前の鞘乃ちゃんなら首を横に振ってただろうけど、きっと今は私の気持ちをわかってくれているだろうから、ちゃんと連絡くれるだろう。


 ――鞘乃ちゃんが渡してくれたのは、グローブに装着する拡張パーツと、そこに装填する事で効果を発揮するらしい鍵みたいな形のアイテムだった。


「鍵によって発動する効果は違うわ。四つあるけど……この黒の鍵だけはダメ。調整不足だから」


 そんなわけで私に託された三本の鍵。どんな効果を発揮するんだろう。というか、私に使いこなせるかな……。

 不安はあるけど、今後の戦いには恐らく必須。それにいつまでも初心者気取りでいたって、敵さんは手加減してくれるはずもない。

 私も頑張らなくちゃ……鍵を大切に握って彼女にお礼を言った。


「ありがとう、鞘乃ちゃん。これも、お父さんが?」

「えぇ。私の家……あの空間に遺されていたわ。優希ちゃんと出逢うほんの数日前の事ね」

「へぇ。ってことは、あの空間があるから鞘乃ちゃんはこの街に来たの?」

「そうよ。父の遺言、そこに研究成果を遺しておいたって」


 ――よくよく考えると、父が私と優希ちゃんを会わせてくれたのかもしれない。彼女はそう言って、私の手をしっかり握った。そして寂しく笑みを溢した。

 悲しい過去を背負っているからこそ、彼女は私の事を人一倍大切に想ってくれている。私も、あの時勇気を出して鞘乃ちゃんの手を掴めて本当に良かったって思うよ。

 もし、本当にこの出逢いがお父さんのお陰なら、感謝感謝、だね……。




 鞘乃ちゃんは全部説明しきると、少しため息をついていた。ちゃんと言えた事の安堵と、毎度毎度の非日常に少し疲れを感じているのか。

 実際、凄く大変だろう。私は――もちろん大変な事だしこうして怪我もしちゃってるわけだけど――セイヴァーとして戦うことに集中しておけば良いけど、彼女は違う。

 セイヴァーという凄い力が使えない分努力してるし、武器の手入れや、ビヨンドくんという次元を越えるマシーンのデリケートな扱いにも、気を付けて整備している。


「お疲れ様」


 私は馬鹿だから、元気付ける事しか出来ないんだけど……彼女の頭を撫でる。恥ずかしそうだったけど、嬉しそうでもあった。


「……ホントは、私が優希ちゃんを元気付けないといけないのに」

「私はずっと元気だから大丈夫だよ?それに鞘乃ちゃんと一緒にいると落ち着くし、ずっとこうしていたいな」

「……ずっと撫でられるとハゲちゃう、かも」

「そりゃ大変だ、あはは!」

「ふふふ」


 そうして二人で束の間の幸せを噛み締めていた。

 幸せな日常。必死に戦うことになって、ようやくその有りがたさがひしひしと感じられるようになった。

 それはきっと当たり前じゃないんだ。守らなきゃ、簡単に壊れてしまう。だからこそ私がやらなきゃ。それを改めて決意して、これからも支えあって生きていこう、そう思った。


 そしてセイヴァーの新たなる力が、戦いを次のステージへと導こうとしていた――。

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