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新庄優希の救世物語  作者: 無印零
第1章
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来訪者の真意

 謎のギョウマに痛め付けられてから約一週間。奴らに動きはない。安心して治療に専念でき、傷も随分良くなってきていた。平和に時間が過ぎていくというのは良いものだ。


(退屈もしなくて済みそうだしね)


 というのも客が欠かさず来るのだ。……ここで鞘乃ちゃんを連想した人も少なくは無いと思う。――まぁ正解ではあるよ。でもいつも鞘乃ちゃんより早くあの子が私の病室にいる。


 今日だってそう。どこかもやっとしたような表情を浮かべ、鞘乃ちゃんはお見舞いにやって来てくれた。


「優希ちゃん……と、葉月ちゃん、こんにちわ」


 葉月ちゃんは相変わらずのニコニコ笑顔で手を振っている。

 どういうわけか、私の入院生活が始まってから葉月ちゃんのお見舞い生活も始まったのだ。

 てっきり、私と鞘乃ちゃんの仲を見て妙にニヤニヤしていたから、見るに足らず、自分も入ろうって魂胆かと思ったんだけど……。


「うふふ、ご心配なく、優希ちゃんを取ったりしませんから」

「~~っ!?」


 耳打ちで鞘乃ちゃんに伝えてるけどそれ、聞こえてるからね……。しかも鞘乃ちゃん顔真っ赤っかだよ。なにこれ修羅場……って言うのとはちょっと違うか。


 まぁ葉月ちゃんはあくまでもこれまで通りでいるそうだ。

 でもなーんか怪しいんだよなぁ。私も入院なんて初めての事だから葉月ちゃんがいつもこうなのかとか知らないし、単純に葉月ちゃんが友達想いなだけかもしれないし。


(でもどうもなにか引っ掛かるんだよなぁ)


 そう思いつつも、葉月ちゃんに追い詰められ顔を真っ赤に染める鞘乃ちゃんを暖かい目で見つめる私であった。

 ……いやそれで解決って訳じゃないんだけどね。何とかして葉月ちゃんの裏側を暴きたいんだけど……彼女、中々ボロ出してくれなさそうな感じじゃない?刑事ドラマならカツ丼出して甘く媚びられても、机をバンと叩いて脅されても絶対吐かなさそうな感じ……。まぁ犯人にはならないような良い子だけどね。


「さぁさ、私にご遠慮なくお二人の世界を後堪能くださいまし」

「……いやいや」


 でもこのモードの葉月ちゃんは厄介だとは思うね。うん、すっごく厄介だ。鞘乃ちゃんも耳まで紅く燃え上がっているもん。とりあえず話題を変えよう。


「……葉月ちゃん、毎日お菓子ありがとうね。さすが富豪は違うなぁ」

「ははは、そうでもありませんよ」


 何を言うか。もし仮にうちのお父さんが出世したってまるで及ばない程度には凄いって証拠は挙がってるんだぞ!

 ……それにも関わらずキチンと入院させてくれた親に私は頭が上がらないけどね。親の愛に咽び泣く女・新庄優希!って感じだよ。

 そして葉月ちゃんの家柄の話に目を尖らせる人物がもう一人。


「……私にももっと資金があれば、今頃沢山戦える兵器が……ッ!!」

(うわあ目がマジだよ怖いよ!お金の力って恐ろしい!)


 鞘乃ちゃんも苦労しているんだ。今はお父さんが遺してくれたお金でなんとか過ごせているとは聞いていたけれど、やはり生活するのが手一杯という感じらしい。もう少し余裕があれば戦いも有利になったんだろうな……。


 でも葉月ちゃんは葉月ちゃんで、苦労することもあったらしい。


「お金なんてあっても良いことなんて無いですよ」

「えぇ……?」

「そりゃあ、有るに越した事はありませんがね。有りすぎても困るというものです」


 ――贅沢だとか、嫌みに聞こえても仕方ないですがね。そう付け加えて葉月ちゃんは寂しげな笑みを浮かべていた。

 ……正直どういうことかわかんないなぁ。それってお金がありすぎて、部屋が埋もれちゃったー!……は無いよね。だったらなんの為の銀行だよってね。


 しかし事情なんて人それぞれだ。私達では想像できないものを葉月ちゃんも背負ってるんだろう。

 ……なんだか暗い雰囲気になっちゃったから、せっかくだし皆でお菓子食べようって提案をすると、すぐに葉月ちゃんはいつものニコニコ笑顔に戻っていた。


 葉月ちゃんはよく笑う。私みたいな馬鹿笑いとは違って、落ち着いていて、見守ってくれてるような優しい笑顔。

 何か背負っているようだけど、それでもすぐに笑顔でこの場を照らせる。彼女のその強さは、一体どこから溢れるものなんだろう。


「優希ちゃん、どうかしたの?」


 鞘乃ちゃんが心配してくれる。でもこれ以上話を広げるのも迷惑かもだし、私はなんでもないと言ってお菓子をモグモグ頬張った。




 しばらくして、鞘乃ちゃんは帰ると言った。まだまだ鞘乃ちゃんと話したいし、引き留めようとしたけど、ギョウマの動きに備えておくことも大切だし、楽しい時間もほどほどにしなくちゃね。

 同時に葉月ちゃんも立ち上がる。用事があるそうだ。いろんなお稽古があるだろうし、葉月ちゃんも大変なんだろうな。


(でも何も二人いっぺんに出ていくこともないのに……)


 一人になると退屈だ。と言うか、ちょっぴり寂しい。……そうだ、少しちょっかいかけてみようか。私は病室前のベンチへと移動してからケータイを使った。


「もしもーし、優希です。彩音ちゃん元気?」


 この場にいなかった一人に向けて。


『もしもしー、あぁ優希か。すまんなー、最近行ってやれなくてよ』

「ううん、彩音ちゃんにも事情があるだろうし」

『……まあな。でも元気にはやってるよ。学校に戻ったらこの埋め合わせはするからさ、堪忍な!』

「うん!楽しみにしてるよ!」


 彩音ちゃんはいつもテンション高めで話していて楽しい。頼りにもなる。さすがはアヤゴって感じだね。

 でも電話の先の声は少し無理してるようにも聞こえるけど、気のせいだろうか……。どんな問題抱えてるのかわかんないけど、退院したら、意地でも話を聞いてあげないと。

 そう考えていると、いつの間にか私の口は止まっていた。それに気づいたのは、彼女の大きな声だった。私の沈黙を気に食わなく思ったのだろう。


『おい優希、聞いてんのか!?』

「っ……ああごめん、ボーッとしてた!」

『ったく、お前がそういうときって、なんか考えてるときだよな。……やっぱ変なことしてんじゃ』

「それは大丈夫、違うから!」


 変に勘ぐられる前に揉み消さないと。彩音ちゃんは私が何か良からぬ事をやってるんだと疑っていた。なんとか誤魔化したのに、また怪しまれたら今度は言い訳が思い付かないよ!

 しかし否定した瞬間に、通信アリ。セイヴァーグローブに鞘乃ちゃんからの救援要請だ。


「ごめん彩音ちゃん、急だけど切るね」

『えっ!?おい優希!お前やっぱり――』


 心は痛むが、彼女の言葉を遮るように通話を切った。

 鞘乃ちゃんが病院前にビヨンドくんと来るって言うから、私はベッドから立ち上がる。

 もう傷も大分良くなったし、普通に歩くことは可能だし許可もされている。……もちろん勝手な外出はダメだし無茶はしない前提だけど。




 ビヨンドくんが彼方より颯爽と現れた。……やっぱり現実世界で見ると違和感が凄い。

 そもそもこういうのって法律とかではどうなんだろ。改造車扱いとか、未成年のみの搭乗とか……いや基本的に自動操縦だけど。


「ごめんね、私一人じゃ厳しい事態になってしまって」


 鞘乃ちゃんは頭を下げ、申し訳なさそうにしていた。しかし頼ってほしいと言ったのは私だし、一人で無茶をしないでおこうと思ってくれたのは、素直に嬉しい。


「気にしないで。身体の調子は良いし、なんとかしてみせるから!」


 鞘乃ちゃんが私を頼ったのは、ギョウマが二体同時に出現してしまったからだそうだ。今までこんな事無かったのに、こんなときに限って……。


 だけどこれまででも普通に起こってもおかしくない状況だとは思う。それが今まで起きなかったのは運が良かったと言うべきだろうか。

 その理由を考えている暇は無さそうだ。とりあえず異世界へ急ごう。……ああ、そういえばそうか、次元越えられるし、法律がどうこう言う前に簡単に逃げられるんだね、これ。




 異世界――もう随分と見慣れた景色ではあるが、やっぱり奇妙な雰囲気だ。たぶん、この世界に充満してる謎のエネルギーが関係してるんだろうけど。とにかく、居ても気分がいい場所じゃない。ギョウマがこの世界を嫌がる気持ちもわからなくはないかな。


 レーダーを頼りに、出現ポイントへとビヨンドくんを走らせた。敵は動きを見せない。どうやら誘われているようだね。

 そして何事もなくそこへ到着。そこには一体のギョウマがポツンと立っている。


「あ、ルシフさんだ」


 咄嗟に出た言葉がそれだった。今回の相手は最初に私が撃退した相手だ。ルシフは何故俺の名を!?って驚いてる。まぁそれはゴウテツとの戦いを参照してほしい。


『ヘェ、ルシフ有名人ジャン』


 そして岩場からヌっと顔を現したもう一体は――ヤバ、ちょっとトラウマかも。……この前のあいつだ。


『僕ノ事モ覚エテオイテヨ。僕、エレム。コナイダノ借リハ返サセテモラウヨ』


 エレム。……一応覚えておくよ。

 鞘乃ちゃんはエレムの飄々とした態度をスルーしてルシフに質問する。


「どうして今まで一人で来ていたのに、突然二人で?」

『知ルカ。『王』ノ命令ダカラ仕方無クダ』


 ルシフだけじゃ頼りないからね、とエレムは爆笑し、ルシフを憐れむように肩をポンポン叩いていた。

 ……ギョウマ達は仲が良くないみたいだね。エレムは以前の戦いで幸せとかを憎んでたし、かつて戦ったゴウテツも、仲間を駒のようにして嘲笑っていた。

 元々、世界を支配しようだなんて企む奴らなんだから、不思議ではないけど……。やっぱりわかりあえるような存在では無いのかも。


 それに今ルシフは言った。王。ギョウマ達にとっての王がいるという事実を明らかにした。その王がいるから、なんとか仲間割れは阻止できてるって感じかな?

 考え込んでいると、せっかちな奴が一人、退屈そうにため息をついていた。


『ネエ、モウ良イダロ?コナイダノ続キ、早クヤロウッテ!』


 エレムが爪を鋭く光らせた。やっぱりか。やっぱり戦わないといけないのか。まだ完治してないんだけどな……でも、ほっておいたら世界が消されるだけ。やるしかない。




 私も覚悟を決めた。セイヴァーとなり、セイヴァーソードを構える。

 怪我は治りかけとはいえ、下手に動くと傷に響いて早く消耗してしまいそうだ。だから防戦一方になってしまうが、エレムの動きは早い。剣と、鞘をも盾に使い、二刀流の要領でエレムの爪を防いでいたが、埒が開かない。……結局体力を消耗するだけだ。


『チッ……真面目ニヤレヨ』


 状況を変えたのはエレムだった。頭部の角に雷光をチャージして放つ雷撃の槍で一気に吹っ飛ばすつもりだ。

 イラつくとすぐに必殺のワンパターンなギョウマだが、実際、威力は凄まじい。食らえば今度は確実に再起不能だ。


「だったらこっちも秘密兵器を使うしかないね!」


 ピタリ。エレムの動きが止まった。


『ヘェ、ソンナノ有ルンダ?イイネ、見セテヨ』


 エレムは怯むことなく挑発する。この前の戦いでなんとなくわかったけど戦闘狂みたいだからね、戦いに関することは大歓迎って感じだろう。だったらお望み通り見せてあげようじゃない。新たなるセイヴァーの力を!


 ……本当に現段階ではこれしか手はないだろう。どんな力を秘めているのかわからない……謂わば賭けではあるけどね。


 三本の鍵を取りだし、そこから適当に一本を見繕う。……とりあえずこの緑色の鍵にしよう。

 それをグローブに新たに装着されたスロットに装填する。


(さぁ特とご覧あれ!これが、セイヴァーの新たなる力だ!)


 自信満々に、拳を握りしめた。




『――30秒ハ待ッタンダケド』


 何も、起きない。


「……鞘乃ちゃん?どゆこと?」


「……言ったでしょう?簡単には使いこなせないって。ぶっつけ本番で使うようなものじゃないのよ」

「でもこれ以外に方法がさ……!」


 直後、一筋の小さな雷撃が私のすぐそばに落とされる。威嚇射撃のようなものか。そしてすぐに視線をエレムに戻すと……。


『フザケテルナラ、トットト潰サセテモラウヨ?』


 ……ご乱心の様子。ヤバい、これは本気でやられる。


(もうっ!セイヴァーにはもっと隠された力とかそういうの無いわけ!?)


 万事休すか……。エレムが爪を構える。……なんか恐怖で傷が痛んできた。

 今回はこの前のように鞘乃ちゃんとの連携で翻弄することも出来そうにない。ルシフと、彼が率いるザコギョウマが目を光らせている。


 沈黙が辺りを包む。ギョウマ側の勝利への確信と、私達の絶望によるものだ。

 しかしそれを破ったのは、どちら側でもなかった。それはこの戦いにまるで無縁のはずの存在であった。


 ギョウマという怪物を初めて目撃したであろうその目は、瞬時に恐怖に染まり、腰が抜けたのか、その場に倒れた。

 彼女はいつもニコニコ笑っているから、あんな表情は見たことがない。……いや、笑顔が輝いているからこそ、こんな場所にはいるべき存在じゃない。


(なのにどうして……どうしてここに?)


 私の目は確かに彼女を捉えていた。数分前、私達と一緒に笑ってた、大切な友達……葉月ちゃんの姿を……。

 それに気づいたエレムは、ニヤリと顔を歪ませた。


『ン……?ナンダアイツ。目障リダナ。先ニ消シトクカ』


 エレムの爪の矛先は葉月ちゃんに向けられる。

 どうして、どうしてこっち側にいるのか、見当もつかない。でもそんなことどうでもいい。逃げて。


「葉月ちゃん逃げてっ!」

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