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不死の女神  作者: 大麒麟
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最終話

 戦いから翌日に、紺は元の世界で無事に家に帰り、更に翌日には復学した。

 市の者達が、あらかじめ手回ししてくれたおかげで、驚く程順調にあっさりと話がついた。ちなみに休学の理由は、事故で怪我をしていたということになっている。


 元々交友関係がほとんどなかったのが幸いして、休学中・復学後もそのことで深く追及されることはなかった。

 そんなことより教室では、同時期にやってきた転入生に興味を引かれていたようだ。


 ただし剣道部は退部した。元々意欲が欠けていた部活動だったし、それに今はもっとやりたいことがある。

 紺はいずれまた、あちらの世界に行くつもりだ。レイコから貰った数々の魔法の特訓は、とてもじゃないがこちらの世界ではできないからだ。


 レイコが行っている、向こうの世界の環境回復は、いずれは協力するつもりだ。ある程度成果が出たら、こっちの世界の異世界のことを、大々的に公表してやるつもりだ。

 その時に世界がどんな反応を返してくるか?紺はそれが楽しみでならなかった。


 異世界に来る前までは、自分の将来など考えてなかった紺。いや少しは考えたことはあったが、それは社会への大きな不安から、思考から逃げていた。

 だが今は、近い将来が楽しみでならない。正直、他人の指図で人生を決められてしまったことに、多少不満はあるが、元々未来など考えてなかったのだから、許すことにした。


 だけれどそれを行う前には、しばらくの間はこちらの世界で、人として生きていける残りの時間を過ごすつもりだ。

 ただその間の生活は、異世界行きする前とは、少し異なってきそうだ。何しろ以前はいなかった仲間がいるから……



 そして更に数日後。


「ただいま~」

「「「お邪魔します!」」」


 紺の自宅前で、学校から帰宅した紺の声と、紺に連れ立った三人分の声が家の中に届く。

 それは紺と同じ学校の制服を着た浅葱と躑躅。そして市内の中学校の制服を着た黄だった。これは別にコスプレではない。彼らはこの世界の学校に入学したのだ。


 彼らの日本人らしかぬ角や葉っぱ、髪や肌の色は、幻影を見せる魔法で誤魔化している。

 日本人的な黒髪黒目黄色肌の彼らの姿は、元の世界での本来の姿と見比べると、まるで別人のようである。


「おう、来たか! 上がってこい!」

「皆様お帰りなさいませ」


 その家の玄関の中で、我が物顔でレイコと鶯が出迎えてきた。居間の方では、紺の両親が引きつった顔で、こちらの様子を見ている。


「……お前ら何しに来た?」

「猪神王国の方での今朝の新聞でさ、何か面白いことになってるから伝えに来た」


 怒気を滲ませながら問いかける紺。だがその返答は、確かに興味を引くものである。あの後、向こうの世界がどうなったのか、紺達は全く知らないのだ。


 自宅の紺の部屋に上がる一行。子供の頃から使っていた個室に、六人もの人間が入ると、かなり窮屈な状態になる。

 その状態のまま一行は、新聞の一面を広げてそれを読む。


 猪神王国では、大層なことになっていた。国王が怪物になって王都を破壊したのもそうだが、百年以上に及ぶ鉄士協会の数々の不正が、三賢者の手によって丸ごと暴露されたのだ。


 魔物や盗賊の被害に対する、自作自演の大討伐。

 鉄士による暴行・殺人・詐欺行為などの犯罪、及びそれらの隠蔽工作。

 密輸・盗難・暗殺等の犯罪業を、鉄士への依頼として裏で取り扱っていたこと。

 各聖地の神職達への脅迫行為。および神託の捏造。


 調べれば調べるほど、ボロボロと出てくる悪行の数々。更には噂の新しい女神=紺に対して、協会自らの命で危害が加えられたことも公表されている。

 それに関することで、多勢の鉄士が、女神レイコから裁きを受けたとも報道された(これは真実と呼べるかどうか微妙だが……)。


 事件から数日感の間、新聞はこれに関する記事で、ほとんどの紙面が埋められていたという。


 それに伴って協会の情報操作に加担していた、多くの報道機関が憲兵隊に取り押さえられた。

 今まではどんな不正疑惑が出ても、協会という後ろ盾で追い返すことができたが、今回はそうはいかない。これによって国中の報道関係の会社が、半分近く倒産の危機に陥っているという。


 鉄士を英雄だと思っていた民衆・下位の鉄士達は、これに相当な衝撃を受けたようだ。


 また六王国の方でも、例の石化病の件で協会を訴えている。何しろこの件の被害者には、龍王・海松も含まれているのだ。この件に関して、人々の関心は高い。

 ちなみにあの召喚魔法の使い手・臙脂はまだ生きていた。現在病院で治療中だが、回復は可能だという。


「海松に緑天丸か……そういえばそんな奴いたなあ~」


 昔を懐かしむように、レイコがそう口ずさむ。


「いや、そりゃ酷いだろ……。あいつ、ずっとお前のことを待っていたっぽいぞ?」

「うん? まっ、まあそうだよね……! 後から二人にも、こっちに来ないか声をかけてみるよ!」


 慌てた様子で答えるレイコ。どうやら冗談ではなく、本気で忘れていたらしい。だが問題とするのは、それだけではないはずだ。


「それでこれからどうするつもりなんだ?」

「どうするって?」


 問いかけた浅葱の言葉は、紺だけでなく、近くにいるレイコにも向けられていたようだ。


「王室と鉄士協会、猪神王国にあった双方の勢力が、大きく力を失った。そして三賢者も、協会の不正を暴いたと同時に、姿をくらましている。もうあの国をまともに支えられる者はほとんどいないんだぞ? あの国をこれからどうするんだ?」

「「別にどうもしないけど?」」


 紺とレイコ、二人の言葉が重なった。


 元々レイコの最終目標は、あの世界の環境の完全回復である。人のいる国家は、最初から視野に入れていないのだ。

 新しい緑人の保護の誓約を破られた以上、あの国にはもう何の用もない。


 紺に至っては、あの国の内情に付き合ってやる筋合いは元から無い。

 ちなみに失踪した国王・桔梗は、現在こちらの世界の市立病院に入院中だ。意識はすでに戻っており、現在正常な受け答えも出来るという。


 だが性格は180度変わっていた。紺が前に会ってみたが、妙に恭しく、こちらに頭を下げて謝罪してきた。何も知らなければ、彼女は誠実で純情な少女にしか見えない。

 これは洗脳が解けたからということと、もう一つ原因があるとのこと。彼女は再生前に、体外離脱という臨死体験をしていた。ザルソバに自分の身体を乗せる姿も、意識体の状態で、彼らの頭上から見ていたという。

 よく判らない話だが、性格の悪かった人が、臨死体験を経て性格が変わるのはよくある話とのこと。


 また桔梗の姿が変化していたことだが、これは紺の血の影響を強く受けすぎたのが原因らしい。レイコが知る限りでは、一度人妖になった者が、元に戻った事例は初めてである。

 紺が初めて緑光石を継承した時と、同じ種族・年齢に遺伝レベルで変異したのだろう。もしこれが男性や動物だった場合、そいつは性転換したり、人間になっていたかもしれない。


 ちなみに直前まで事情を知らなった医師達は、いきなりの人外の者(鶯)が病院を出入りしていることに、戸惑いまくっていたという。桔梗の今後のことに関しては・・・これも実は何も考えていない。

 ・・・・・・というか紺にとっては、敵に情けをかけるなんてのは、生まれて初めての経験である。この後、どうするかなど考えるのもめんどくさい。


「まあ、何とかなるんじゃないの? まだあそこには土地神達もいるし、それにあの国の奴らも、一度ちゃんと自分で国作りができるようにしたほうがいいと思うし」

「私も同じ意見。あの国って色々と情けなかったしね。国を見限って権力者を非難しまくったかと思えば、鉄士協会っていう別の権力に頼りきり。それがダメになったら、今度は女神にすがりつくって、正直馬鹿ばっかりだし」


 場合によっては、あの心変わりした国王を国に戻してやるのも、一つの手だとレイコは今考えた。その場合、桔梗に対してある程度の教育を施してやる必要があるが。


「でも向こうは諦めてくれないと思いますよ。それにお二人の血を狙う人も、また出てくるかもしれませんし……」


 躑躅がある意味まっとうな問題を口にする。そもそも三賢者が国を見限り、女神との誓約が破れられた原因はそこにある。

 だがレイコは、それに関して特に問題とは考えていないようだ。


「前の三賢者の時みたいなことも、もう起こらないと思うよ。何せ女神の血を飲んで自滅した人が、あれだけ派手に世間に見せつけてくれたから。そんなことより、お前らはどうするの? ずっとこっちの世界にいるの?」


 レイコの質問が、浅葱達三人に向けられる。向こうの世界には、しばらくいない方がいいと、こちらの世界の保護を受けたのだが、それ以降のことは何も聞いていない。


 浅葱が先に質問に答えた。


「悪いが、何も考えていない。王国の威信を取り戻すのが、俺たちの家の目標だったが……ここまで話が大きくなると、どれが正しい判断なのか……? とりあえず、しばらく様子見だな。国に戻れなければ、お前らがしようとしている環境修復に出るのも、さほど悪くはないが」


 それが決まるまでの間は、紺と一緒にいる意向だと、浅葱は言った。

 次に答えたのは黄だった。


「僕はこれからも紺さんと一緒に行きますよ。環境回復ってのも、僕にできることなら頑張ります!」

「お前な……」


 彼の言葉に、紺がだいぶ呆れ返った様子。


「お前、ずっとそういうこと言ってるけどさ……。私についていく以外に、何かやりたいこととかないのか? ちゃんと自分の意思で人生決めてるか?」

「え? ちゃんと決めてるよ? だって僕、紺さんのこと好きだもん」

「……そっ、そうか……」


 どういう意味での“好き”なのか、あえて聞かないことにした。なんとなく判ってはいたが、こういうことへの対応は困る。


 最後に躑躅が答える。


「私も黄君と同じ意見。紺さんと一緒に行きますよ。この世界もすごく面白いし、紺さんと一緒に行ったら、もっと面白いのが見れそうな気がするし」

「こっちの世界が? そんなに面白いか?」

「うん♪」


 どこを見てそう思ったのか、紺は理解できなかった。まあ、あの化物だらけの世界よりは良いという意見もあるかもしれないが……


 三人とも満場一致で、これからもこの面子で付き合い続けることが決定する。しかもその付き合いは、永遠に近い時間になるのは確実だ。

 元々人付き合いが大嫌いだった紺。あの神社に来る前までは、こんなことになる日が来るとは、全く考えもしなかった。


(まあ、永遠に一人で生きていくよりは、マシかもしれないな……)


 レイコは、最初は一人で生きていくのを望んだが、最終的には孤独に耐えられなくなり、牡丹鍋という相棒を作った。

 自分も若いうちは、一人でも大丈夫だと考えられるかもしれないが、そのうち考えが変わるかもしれない。なら最初から一人にならないほうが、ずっといいはずだ。


 一応こちらからも頼むことになるので、紺自身もこちらに自分の意思を口にすることにした。


「……それじゃあ皆、これからもよろしくお願いします!」


 彼らはこの先どうなっていくのか? どこまでの時間、生きていくことができるのか? そして彼らは、これから先、二つの世界にどのような影響を与えるのか?


 今はまだ誰にも判らない。それを知ることができるのは、不老の存在である彼ら自身と、未来に生きる後世の者たちだけだ。


 彼らの存在が、良い結果を与えることを、今は祈り続けよう。遥か未来の先のことを……



鶯とか、生かし切れなかったキャラクターもいて、ちょっとぱっとしない終わり方でしたが、何とか最後まで書き上げられました。

ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!



現在、本作とちょっとだけ話が繋がった新作を執筆中でして、紺達と岩木地がその後どうなったかも触れようと思っています。

いつ公開できるかは未定ですが。

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