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不死の女神  作者: 大麒麟
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第六十九話 大鬼

 時間は少し遡り、六王国の深い森の中に、一軒の大型の日本屋敷がある。

 以前、紺が訪ねた魔導士・海松の屋敷だ。そこにまた久しぶりの客人が訪れた。林の中に、転移魔法と思われる力で、突然姿を現した一人の女性。それは西鬼町の霊素材屋・緑天店の店長である、緑天丸であった。


「海松~いるかあ?」


 扉を少し叩いて、在住を確かめる緑天丸。高い感覚能力から感じ取れる気配で、相手の在住はとっくに判ってるのだか、一応これは礼儀作法だ。

 まもなくして、館の主=海松が扉を開けて姿を現した。


「緑天丸……来た理由はもう判ってますよ。レイコさんが、戻ってきたんですよね。あの子と一緒に……」

「判ってんなら、話が早いよ。じゃあ、早速私たちもいこうぜ」


 海松は少し、不愉快そうな顔をする。


「何をしにですか? レイコさんは僕たちに声をかけなかった。つまり僕たちは必要とされていないんですよ?」

 彼はずっと、レイコが自分たちを頼ってくれる時を待っていた。出しゃばりすぎて、迷惑をかけるのも駄目だと思い、あの門の向こうへ自分たちも行こうとはしなかった。

 レイコは新しい緑人と共に、この世界に再訪したが、自分たちのことは見事にスルーしてしまった。


「必要でなくてもいいじゃん♪ それに現場に行けば、何かやることが見つかるかもよ?」


 緑天丸は半ば強引に海松を引っ張り出し、転移魔法でどこかへと消えた。

 林の中の、水辺の屋敷は、相変わらず静かである。






 猪神京への旅路は、転移魔法でわずか数秒で終わった。今までで一番短い旅だったのではないだろうか?

 ほんの少し前に来訪したばかりの都市、猪神京。ここから離れてから、僅か数日しか経っていないのだが、その景色は同じ場所とは思えないほど、一変していた。


「何だよこれ!? 隕石の嵐でも降ったか?」


 都市の領域外のギリギリの位置に飛行中の一行。そこから見える景観に、悪い意味で圧倒された。

 猪神京のあちこちに、直径数百メートルはありそうな巨大なクレーターが、無数に出来上がっている。クレーターの内部は、土が真っ黒に焦げており、まるで大きな釜の下のようだ。


 紺は以前、仕事でこれと似たようなクレーターを作り上げたことがあった。だが都内に多数形成されているこのクレーターは、紺が作ったものの比ではない。


 これが何かの爆発で形成されたのならば、クレーターの周囲にある建物なども、爆風で跡形もなく吹き飛んでいるはずである。

 だが実際には周囲の建物は、一応形が残っている。クレーターの境界線にあった建物は、切り分けられたケーキのように、そのクレーターの領域の部分だけ消滅している。

 そのクレーターは爆発ではなく、まるで御玉でくり抜いたかのように、綺麗な穴となっているのだ。


 尤もクレーターができていない場所も、全くの無傷ではない。多くの火が回っており、都内広域が大火災に見舞われている。


「ここって本当に猪神京なんですか!? レイコ様、間違えて移動してません!?」

「ううん、間違ってないよ。座標もここであってるはずだし……」


 これの原因は一体なんなのか? 答えは視界を大きく妨げる、黒煙の向こう側にいた。強化された視力で、一行が広い都内の中で動くものに気づき、目をこしらえて見てみる。


「あれは……鬼だ!」


 鬼のように怖い、という意味ではない。黒煙の向こうから姿を現したのは、日本の絵巻物に出てくるような鬼そっくりの、大巨人だった。

 鬼人(きじん)は鬼という字があてがわれているが、頭の角以外は完全に純人と同じ姿だった。だがあれは全く違う。


 角は比率的に鬼人より遥かに大きい。まるでバッフォローのような角だ。口は大きく裂けており、そこからサメのような歯が並び、獅子のような鋭い犬歯が上下二本ずつ生えているのが、外からでも見える。

 目は黄色くでかく、野獣のような獰猛さを感じさせる。筋肉隆々とした肢体に、胸もとが僅かに膨らんでいることから、メスだと思われる。


 体格はデカイなんてものじゃない。背丈は二十数メートルはある。確実に人間のレベルを超えている。そんなものが破壊された都市の中を、我が物顔で歩いているのだ。

 特撮怪獣映画の風景が、リアルに再現されているのだ。その光景に、一同は絶句している。


「何だあの魔物は!? どこから猪神京に入ってきた?」

「……あれは多分人妖だね」


 浅葱の言葉に、レイコがそう答える。人妖といえば、一行はあの海龍の石像を思い出していた。


「また銀朱みたいな馬鹿が出てきたってのか?」

「どうだろうね? あれは普通の人妖とは違うと思う」


 あのタイプの人妖は、レイコは大昔に見たことがある。あの大鬼の姿は、かつてレイコの故郷を滅ぼした大巨人と類似点が多いのだ。


 一行が注視する中、大鬼が何かの行動をとり始めた。大鬼の頭から上にまっすぐ伸びた巨大角が、青く光り始めた。

 すると角と角の先端の合間の空間に、電気エネルギーが収束し始めた。それはどんどん大きくなっていき、角の間を埋めるほどの大きさの球形になっていく。そ

 の様子は、大きなボールを、大鬼が上から角で掴みあげているように見える。


「あれってついさっき、お前が使っていた技と同じじゃないのか?」

「そうみたいだね……」


 大鬼が生み出した雷球から、とてつもなく巨大な電光が、ウルトラビームのように発射された。その電力は、雷球のエネルギー全てを消費するほど、高威力に放たれ、都市の一角に落雷する。


 ビガァ!


 着弾地点に凄まじい稲光のフラッシュが放たれた。その光が収まると、着弾地点には何も残ってはいなかった。

 周りにあるのと同じ、あのクレーターができているのだ。電熱によって発生した熱波が、クレーターの周囲に撒き散らされ、多くの建物が発火しはじめる。

 たちまちその着弾地点付近も、大規模な火災に見舞われることになる。


「グォォオオオオオオオオオオッ!」


 何か敵を倒したわけではない。ただ物を破壊しただけなのに、大鬼は高揚の声を上げる。


「この街……住民の避難はちゃんとできてるよな?」


 紺は昔のことを思い出して、そう口にする。


 幼い頃よく見ていた怪獣映画では、怪獣が街で暴れるシーンを見て、ただただその怪獣の力強さに憧れていた。その街の、画面では見えない所で、多くの一般人が踏み潰されているかもしれないということは、当時考えもしなかった。

 少し成長して、それを意識して鑑賞するようになると、昔のような感じで怪獣のシーンを楽しめなくなっていた。もちろんその系統の作品が嫌いになったわけではないのだが……


「おそらく大丈夫だろう。あれだけの者が都市に近づけば、当然迅速な避難命令が出ているはずだ。問題は、あいつがどこから出てきたかだが……」

「取り敢えず、下に降りない? このままここで浮いていると、目線の位置的にあいつに気づかれるかも」


 状況が判らないのに、無理に挑んでも仕方がない。都市はほとんど崩壊していて、もう守りようもない。


 そもそも彼らがここに戻ってきたのは、鉄士協会への制裁であって、王都を救うことではない。だがこの様子だと、鉄士協会総本部も既に破壊されているだろう。

 ここに来た目的が、ついたとき既に消滅してしまっているのだから、今後の方針というものを再び作る必要がある。


 一行は空中から下降し、近くの山林に入っていった。大鬼はひたすらに、すでにボロボロの都市を、更に破壊し続けている。

 どこかに話を聞ける者はいないかと、山林の中を探っていった。これだけの事態が起こっているのだ。どこかに監視の兵がいるはずだ。それは実に簡単に見つかった。だがそれは兵だけではなかった。


 二十人ほどの王国兵達が、数百人もの一般人と思わる人々を、先導して林の中を前進しているのだ。見たところ集団登山という訳ではなさそうだ。

 この足場が悪そうな山道を進むには、客が多すぎる。もしかしたらあれは都市からの避難民だろうか? みな疲れきった表情で、足を進めている。


 だが林の中から出現した、巨大なイノシシと麒麟の姿を見ると、皆飛び上がるように驚いた。


「きっ麒麟!? 何故ここに!?」

「くそっ、都民をあっちに逃せ! どうにかして食い止めるぞ!」

「ちょっと待て!? あのイノシシに乗ってるの……レイコ様じゃないのか!?」

「「「!!??」」」


 林の中で出くわしてしまった巨大な魔物に、皆恐怖で逃げ出しかけたが、最後の兵士の言葉に反応し、皆足を止めた。

 イノシシの上に乗っているのは、一人の純人の子供。服装は変わっているが、その姿は確かに、女神レイコの容姿そのものだった。


 兵たちと違って、他の避難民たちは、最初このやりとりの意味が判らなかった。目の前の子供は、自分たちの知っている女神の姿とは違いすぎる。

 だが一人の避難民の言葉を聞いて大きく混乱した。


「ホントだ……前に図書館で見た写真にそっくりだ……」


 どうやら向こうの図書館にも、まともに歴史を書いた本があったらしい。


「やあ初めまして。私たちついさっき、ここに着いたばかりなんだけど……何があったか聞かせてくれない?」

「はっはい! ご用命のままに!」


 兵達はその場でレイコに跪く。そしてレイコの言葉を待った。


「まず最初に、あの人妖は何者ですか?」


 かけられた言葉に、兵達や避難民達は顔を曇らせた。


「あれは……桔梗女王陛下です。先日献上された新しい女神の血を飲まれたら、あの姿に……」


 国を破壊している最強の敵は、他ならぬこの国の王自身であった。


「軍が私を捕まえようとしたのは、やっぱり私の血が目的だったわけか?」


 あの大鬼の正体は、熊千代神社襲撃の主犯本人であった。兵達の話に出た、その新しい女神本人が、兵たちに女王の目的について問いかける。


「えっ! あっ、あなたが!? はっ、はいその通りでございます! ですがやはり陛下には、女神さまの力を制御できなかったようで、あのように人妖に成り果ててしまいました……」

「……そうすか」


 自分の血を飲んだだけで、あんな怪物が生まれてしまう。正直、血をやってしまった本人としても、あまり気分がいいものじゃない。

 狼や洋竜の時とは、比べものにならないぐらいの被害が出ているのだ。しかも見た目があそこまで醜いと特に・・・・・・


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