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不死の女神  作者: 大麒麟
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第四十八話 気剣

 ゴーストクリエートは前足を器用に動かし、カマキリのように振り回して敵を攻撃する。

 皆それらを上手くかわしていく。ただし一番身体能力が劣る躑躅だけは、浅葱に手に掴まってもらっている。


「あれに殺られたら、何か能力が手に入ったりしますか!?」


 浅葱の手の中で躑躅が問いかける。


「さあな! でもあんまり役立ちそうにないから、ここでこいつはぶっ壊す!」


 刀を振り風の刃を次々と発射した。装置は身体が大きい分鈍重なため、それらをよけることができずに、全刃命中した。


 ガガガガガン!


 金属に石をぶつけるような音が響く。攻撃を受けた装置は一瞬怯んだが、すぐに動き出して紺に突進してきた。その装甲には傷一つついていない。


(効かない!? だったら直接斬りつける!)


 突進をジャンプしてかわし、胴体上面の装甲に飛び乗った。そしてその場で足下の胴体向けて、風を纏った刀を振り下ろした。


 ガキン!


 だが装甲は斬れなかった。装甲は硬いだけでなく弾力性もあった。衝撃を受けた赤透明の装甲は一瞬へこんだが、すぐにスポンジのように戻って元の形状に戻る。


(嘘だろおい!?)


 ダイヤモンドは硬さはあるが、靱性が全くないため実は壊れやすい。鋼を超える硬さと同時に、靱性と弾性力を同時に兼ね備えた素材など、紺の故郷には普通はない。

 だがこっちの世界では、霊素材の強化によって、そういった品々がいくつかある。紺の刀だって、そういった特性でかなりの強度を誇っているのだ。


 だがこのゴーストクリエートはレイコが地脈改造する前に作られた品物である。

 当然そこには霊素材や魔法技術が一切使われていない。純粋な科学技術だけでこれほどの物を作るなど、当時のこの世界はどれほどの文明があったのか?


 装置の足が自身の胴体へと伸びる。紺は慌ててそこから飛び降りた。敵の攻撃が紺に集中している間に、浅葱は躑躅を近くの木々の合間に隠す。


「お前はここで隠れてろ」

「何言ってるんです!? 私だって・・・・・・」

「お前の毒花粉は、機械の敵にも効くのか?」

「あう・・・・・・」


 これでは何も言えない。ロボットや霊体には、毒や暗示の技など全く役に立たない。


 浅葱はそこから駆け出し、装置の横側・ライトのような目の死角部分に立ち、そこから火炎放射を放った。

 ここは既に焼け野原になった後、気をつけてやればまた火災を起こす必要もない。


 刀身から巨大な獄炎が竜巻のように放たれ、装置の全身を赤く覆い尽くす。キャンプファイヤーよりも大きな明かりが、林の中に発生した。

 鋼をも蒸発させる凄まじい熱が、地面を赤く焦がし溶岩化させていく。だが当の装置は無事だった。

 炎に包まれながら、浅葱の方に向き直り、今度はそっちに向かって突進する。その炎身タックルを、浅葱は大慌てで避ける。


「だったらこれだ! シュワッチ!」


 紺の姿が光に包まれ、あの黒竜の姿を変える。その大きさは装置と同じぐらいである。そして逃げる浅葱を追いかける装置の尻部分を、両手で抱え込むように掴んだ。


『ウォリャアアアアアアッ!』


 そのまま装置の全身を持ち上げ、バックドロップのように地面に叩きつけた。

 人間で言うならば、腹を上に向けて倒れ込む装置。露わになった胴体の下部分に、黒竜は思いっきり拳をぶつけた。


 それは一発ではなく、何発も撃ち続けた。このまま攻撃を繰り返し続ければ、あの洋竜のように、いずれは死ぬはずだ。

 だが今回は体勢が違う。敵は攻撃部位の足は、現在上にいる黒竜に向いているのだ。


 ザグッ!


『グアッ!』

 上部に向いた八本の足が、自身の腹の上に乗っかっている黒竜を、一斉に刺突した。

 胸・横腹・腰に、鋭い金属の足の先端が、それぞれ突き刺さる。黒竜はトラバサミの罠にかかったかのように、装置に捕らえられてしまった。


 黒竜の頑強な肉体と鱗のおかげで、それほど深くは刺さっていない。それでも八カ所同時攻撃というのは、かなり堪える。

 一方の装置も、足で刺す以外の攻撃方法はないようで、黒竜を捕らえた後は、あまり動かない。ただ全ての足に力を込めて、身体に刺さった刃をさらに食い込ませようとする。


『くそがぁあああっ!』


 黒竜は殴るのをやめ、身体に刺さった足につかみ、何とか引き抜こうとする。一本一本の力は、黒竜の腕力よりも劣るようで、身体から引き抜くのはそれほど難しくなかった。

 二本が腕で無理やり引き抜かれる。二本が付け根の部分を、黒竜の足で踏まれ、力が弱まる。これによって拘束力が半減し、黒竜は一気に装置の身体から離れた。

 その拍子に、まだ刺さっていた所が、身体の移動と共に皮膚を引っ掻くように斬りつけたが、まあこれは些細な負傷だ。


 黒竜は大慌てで、装置から距離を取る。装置は倒れたままバク転ジャンプをして、元の形に立ち上がった。

 さっきの殴打でそれなりにダメージはあるようだが、まだ倒れるには至っていない。すぐに片付くと思ったのにこの結果。紺は憤りで叫び声を上げた。


『動く機能はただの予備だろ!? なのに何であんなに強いんだよ!?』

『いやあ・・・・・・誰かに盗まれそうになった時に、自律して本体を守るように戦闘能力がついたのですが・・・・・・ご覧の通り所持者にすら手に負えないレベルになってしまいまして』


 パイパーが申し訳なさそうに、その叫びに答える。紺は少しキレて、この女を踏み潰してやろうとも思った。


『余計すぎるわ。こんなの』

『面目ございません・・・・・・』


 装置は再び黒竜に接近してきた。黒竜もそれに身構え、再度怪獣決闘を行おうとする。だがそこに意外な闖入者が現れた。

 浅葱が創り上げた赤い光が残っている夜の闇の中。装置の背後から太陽のように光り輝く何かを持った者が、装置に襲いかかったのだ。


「てやぁああああああっ!」


 その光る何かは、光を纏った一本の刀だった。その人物は、不意をついて装置の足に斬りつける。


 ザキン!


 すると装置の後ろ側の一本が、見事に斬り落とされた。それによって装置は、一瞬立ち上がった身体のバランスを崩す。そして斬り落とした張本人は、背後に数歩後退して刀を構え直す。


『黄!?』


 その人物は意外なことに黄だった。彼の持っている銀朱から奪った刀は、フォースと共にある騎士の剣のように光り輝いている。


「これ以上の行いは、絶対に許しません!」


 紺を傷つけられたことで相当怒っているようだ。一方の装置は足を機敏に動かし、後方百八十度回転して、黄と対峙する。

 装置は今までと同じように、その巨大な鎌のような足で攻撃を繰り出す。それらのいくつもの巨大な刺突を、黄は軽快にかわしていく。鬼人種の特性である飛び抜けた身体能力をいかし、装置を翻弄していった。

 そうしている間に、黄の刀の光が徐々に強くなっていく。力を溜め込んでいるのだ。


 やがて装置の攻撃に隙が出来たのを見切り、前足の一本に斬りつけた。

 狙ったのはクモのような足の関節部分、頑丈な金属製の足の中で、最も脆い部分だ。


 ザギン!


 また一本、装置の足が斬り落とされた。足を失ったことで装置の身体のバランスがまた少し崩れた。

 その隙に、黄は再び刀に力を溜め込み始めた。


 体勢を立て直した装置が、再度攻撃を加える。だが身体のバランスを取る足が減ったせいで、攻撃の精度は悪くなっており、標的に簡単に避けられてしまう。

 そのせいでさっきより簡単に、三本目の足が斬り落とされた。鬼人である黄の身体能力・使っている業物の斬れ味・纏っているエネルギーの威力増幅率によって、装置の硬い足がどんどん減っていく。


 この光景に黒竜=紺は首を傾げた。あの少年とは大分付き合いが長くなってきたが、あの光る刀は初めて見る物だ。

 まあ最近依頼を選ぶようになってから、一度も戦っている所を見てないし、彼の稽古の様子を見に行ったこともなかったが。


『あいつ、いつのまにあんな魔法を身につけたんだ?』


 黄に稽古をつけていたのは浅葱だ。彼女に問いただしてみる。


「あれは魔法じゃない。“気”の力だ」

『気? ああなるほど、この世界にはそういう属性もあるのな』


 鬼人は三人種の中で、最も強靱な肉体を持った人種だ。当然その身に宿る生命力も、かなり強い。黄の使っている技は、その生命エネルギーの一部を放出し、拳や武器に注ぎ込む技だ。

 あっというまに装置は全ての足を切断された。タイヤを外された自動車のように、装置にはもう攻撃はおろか、動くことさえ出来ない。


「紺さん! これでもう大丈夫です。やれます!」

『うん? おお、そうか』


 黒竜は何も出来なくなった装置に近づき、その胴体を上から思い切り殴りつけた。


 ガン! ガン! ガン! ガン!


 巨大な拳が、装置の身体を何度も打ち付ける。最初はその硬さと弾性力で耐えていた装甲も、何度も衝撃を受ける度に限界を迎えた。

 凹んだ部分は戻らなくなり、内部の精密機械にも衝撃が伝わってく。そして最後には赤透明の装甲板は破れ、拳が内部の機械にまでめり込んだ。


「ギギギギギギギギッ! バカナ!? オレハ・・・・・・」


 バチバチと漏電を起こしながら、装置は機能を完全に失い停止した。そして装置からは、機械の故障から起きた煙とは異なる、霊力を含んだ妙な白い煙が湧き出てきた。


『これは・・・・・・エクトプラズムってやつか?』


 白い煙は空気中に拡散し消えていく。やがて装置からは全ての力が抜け落ち、ただのガラクタと化した。


『どうやらあの方も、ようやく行くべき所に逝けたようですね』


 パイパーが心底安堵した表情で、その煙の行先を見守った。それと同時に彼女自身の姿に変化が生じてきた。元々半透明な身体が、エクトプラズムを放出しながら、さらに薄くなっているのだ。


『私もどうやらここまでのようですね。皆さん本当にありがとうございました。霊界がどのようなところか判りませんが、私もそこで皆様の人生が良き結果になることを願ってます』


 やがて彼女の姿が完全に掻き消え、その場には四人と機械の残骸しか残らなくなる。

 いきなり夜の部屋に侵入してきてから二時間程度、瞬く間に色々なものを見せてくれた人物は、あまりにあっさりとこの世から消えていった。


「六百年か、これは大往生といえるだろうな。もっとも霊になった後の人生に、どれほどの意味があったのか判らないが・・・・・・」


 浅葱がそう言葉を呟く。あんな変な存在になってまで、彼女はそんなに生きたかったのだろうか? 紺の方は別のことで、思いふけっていた。


(もし私がこの世界で死んだら、今度はどこで生まれ変わるんだろうな?)


 できることならば元の地球で生まれ変わりたい。来世でまた更に進化したアニメやゲームを見たいものだ。


(そもそも私が死ねるのかどうかも、色々と謎だけどな)


 自ら望んで往生していったパイパーを見て、紺は己の未来に対して、僅かな不安を抱き始めた。





 全てが終わった後、一行はゴーストクリエートの残骸から、高そうな部品をいくつか抜いた。

 そして残りの本体を、原型が留めないくらい徹底的に破壊した。こんなやばそうなも下手に人に触れない方がいいと、全員が考えたからだ。



 一行が去ったすぐ後で、一人の謎の人物がその場所にやってきた。なにやらおかしな布で身を包んだ、妙に小柄なやつだ。もしかしたら子供かもしれない。


「こんなに早く片付いちゃうなんてね。やっぱり女神ってのは強いんだな・・・・・・」


 声からして女と思われるそいつは、残骸をしばらく見つめた後、どこへともなく消えていった。


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