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不死の女神  作者: 大麒麟
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第四十話 海入道

 どれだけ圧倒的な実力を見せられても、敵軍は全く怯まない。まるでゾンビのように、真っ直ぐに紺に突進していく。

 戦術のかけらもないやり方だが、死を恐れない兵隊ほど恐ろしいものはない。だが紺は、それすら跳ね返せるはずの力がある。


 敵は順調に数を減らし、そしてとうとう最後の数匹が、風の刃にまとめて斬り裂かれた。後方にいた軍勢も、ちょうど今浅葱達が全滅させたところだ。


「・・・・・・よし。残りはラスボス一匹」


 戦いは終わりではなかった。予想と違って、追加の軍勢は敵を全滅させるまで現れなかった。てっきり後から後から、無限に敵が湧いてくるものだと思っていたが、そうでもなかった。

 だからといって、何も出てこなかったわけではない。戦闘中に海の方から、とてつもなく巨大な気配が一つ、こっちに近づいてくることに紺は気付いていた。


 それは海に潜ったまま、じっとしており戦闘中に襲いかかってくることはなかった。

 そして海坊主達が全滅した直後、まるでそれを待っていたかのように、それは動き出す。


 ズォオオオオオオオォン!


 海面の一部が、突然山のように盛り上がる。そしてそこから水が流れ落ち、海面から出てきた巨大なものが姿を現した。


「クラーケンか?」

「いや、あれは海入道(うみにゅうどう)という」


 それは巨大な蛸だった。昭和の特撮によく登場するようなビッグサイズの蛸が、砂浜近くの海上に、その半身と複数の触手をこちらに見せつける。

 その大きさは、頭の高さだけで20メートルはある。


 巨大蛸=海入道は海面から出て、大量に転がっている海坊主の死体の山を踏み潰し、砂浜に上陸する。そして一本の触手を高く掲げ、紺に向かって振り下ろした。


「おりゃあ!」


 自らに迫ってくる触手を、紺は風の斬撃で応戦する。効果はあった。一閃で紺に直撃する直後の触手は、丸太のように斬られた。

 本体から切り離された部分の触手は、風に煽られて向こう側に吹き飛ばされた。


 海入道はそれだけでは怯まず、残りの触手を次々と振り下ろす。

 紺はそれを一撃目は最初と同じように斬り裂き、二撃目は横に走って逃げた。グチャッ!と紺の足下になった死体が、ミンチになる音が聞こえた。


「タイタンみたく、こんなのはどうだ?」


 紺の持っている刀の色が変わった。緑に発光していた刀身は、毒々しい彩色の赤紫色に変色していく。

 海入道の三撃目が来る。紺はそれを横に逸れて回避すると同時に、足下に転がっていた、海亀型海坊主の甲羅を蹴り上げ、盛大にジャンプした。


 二十メートルはある蛸の背丈を、軽々と飛び越える。そして空中で宙返りをして、刀の刃先を真下にいる、海入道の頭に向ける。

 紺の足の部分、履いていた通学靴の部分に、謎の風が発生した。風の魔法を足下から発動させたのだ。その足で空中を蹴ると、まるで地面を蹴ったかのように空中ジャンプをしてみせる。


 刀を突き出した紺の身体は、ミサイルのように海入道の頭に飛んでいった。


 ザクッ!


 紺の刀が、刀身全体が埋まるくらい、海入道の頭の肉に突き刺さった。

 だがそれは蛸の小さな脳にまでは届かない。この程度の攻撃では、本人にとっては針で刺された程度で、致命傷に至るはずがない。


 蛸はすぐさま反撃しようと、触手を紺が乗っている頭の上に向ける。だがその動きは途中で止まった。


「何だ?」

「死んだのか? あれで?」


 触手を構えた状態のまま、突然模型のように止まってしまった海入道に、ただの観客となり果てた鉄士達は不思議に思った。

 頭の上にいる紺は、いま刀を海入道から引き抜いた所だ。


「色が!?」


 変調は刀を引き抜いた数秒後に起こった。突き刺された傷の部分を中心にして、紙にインクを垂らすかのように、どんどん色が変わり始めた。

 変化はどんどん進み、大きな頭はあっとうまに地味な鼠色になっていく。その変色は触手の方にも浸透していき、やがて全身がそれ一色に染まってしまった。


 コンコン・・・・・・


 紺が足下の変色した蛸を、少し拳で叩くと、そんな柔らかい蛸の身体では絶対にあり得ない音が鳴る。蛸の身体は、元とは全く別の材質、一つの巨大な岩石に変わってしまったのだ。


 石化刃(せきかじん)。刀に呪いの毒を纏わせ、それで傷つけた相手を石化させる、最近紺が編み出した必殺技だ。


 紺は、ただの彫刻と成り果てた海入道の頭の上から飛び降りる。下にある未だ死体だらけの砂浜には、既に戦闘を終えた浅葱達がそこに到着していた。

 海の向こうからは、再び援軍が現れる様子はない。


「これで依頼完了かな?」

「どうだろうな? これで本当に全滅したかは、もう少し様子を見なければな。依頼主に報告しよう。この死体の地面と石像が、敵を倒した確かな証拠だ」


 一行は事の報告をしに、佐井村に戻っていった。






 一時間後、大間町は少し騒ぎになっていた。


「何て数だよ 数千はいるんじゃね?」

「この蛸、本当にあの娘が? いったいどんな魔法を使ったんだ?」


 様子を見に来た二百人もの鉄士や町民達。そこにある無数の死骸の絨毯と、巨大な蛸の石像に唖然とさせられる。

 政府から送り込まれた役人が、現場の検証を行っている。本当にこれで魔物達は全滅したのか? それがはっきりするには、まだ数日の時間がかかるだろう。


 当の話題の本人は、何故か砂浜にある魔物達の死骸をあさっている。何をしているのか、と思いきや死体から何かを取り出して、仲間の元へと走ってくる。


「お~い。黄、これ使えないか?」

「紺さん? これって?」


 持ってきたのは刀だった。あの海坊主が使っていた武器の一本である。

 錆びたり折れたりしているものが多い中、これに関してはかなり痛みが少ない方だろう。それでも刃がぼろくて、ちゃんとした研磨が必要だろうが。


「考えてみればさ、お前って一個も武器持ってないじゃん。それでこれならどうだろうってな」


 村に帰るとき、黄が血みどろの手足を洗っているところを見て、気がついた。

 紺と浅葱は刀があり、躑躅には魔道杖(使っているところは見たことないが)がある。黄だけが素手で戦っていたのだ。


 武器の価格がどのくらいか判らないが、経済的に余裕は持たせておくべきだろう。

 何しろ前二回の依頼に報酬を得られなかったこともあって。それで敵の武器を剥いできたのだが。


「ええと、これは・・・・・・」

「恐らく無理だろう。こんな安物の刀ではな」


 武器の価値が判らず返答に悩む黄の前で、浅葱がばっさり否定の言葉をかける。


「黄の身体は、お前のおかげで過剰なまでに頑丈になっている。こんな武器を使うよりも、自前の硬い拳で殴ったほうが、攻撃力があるはずだ。そうでなくてもこの程度の刀の強度では、黄の筋力に耐えきれず、一振りで折れてしまうだろうな」

「やっぱり無理か・・・・・・。じゃあちゃんとしたのを武器屋から買うしかないか?」


 紺と浅葱が敵を一撃で葬っている中、黄が一匹一匹に何発も殴りつけて倒しているのを見て、新しい武器が必要だと思った。


「ちなみに黄に合いそうな武器って、どのくらいの値段がする?」

「相当な業物を選ぶ必要がある。最低でも、四十金はするな」


 初心者などが使う、安物の刀はおおよそ六十銀。お金の単位は、一金=百銀。決して安い買い物ではない。


「それって今回の依頼料で払えるか?」

「それは依頼主に交渉しないとな。一番活躍したのはお前だから、かなり金を請求してみてもいいと思うぞ」

「あっあの、僕は別に今のままでも・・・・・・紺さんにお金を払わせたりなんて・・・」


 話を進める二人に、当人が遠慮の言葉をかけるが。


「断れる立場だと思うのか? お前最初に言ったろ? 「足手まといにはならない」て、そうしたかったら、ちゃんと貰っておけ」

「は・・・はい・・・・・・」


 躑躅も話に加わって、今後の黄の武器に関して話が進む。


「そういえば黄君って、どんな武器が得意なんですか」


 この言葉に一行が、再び黄に振り向く。


「いえ、武器とかを使ったことはないです。小さい頃に空手を少しやっただけで」

「じゃあナックル系か? でもそれって空手に合うものかな?」

「できれば紺さんと同じもののほうが・・・・・・」


 話の最中、そこに割ってきた者が現れた。


「さすがですな。まさかこれほどの実力者であったとは。久しぶりに楽しめそうですわ」

「「!?」」

「あれ? さっきのおじいさん?」


 すぐ側で、今まで何の気配も出さずに近づいてきたそれに、黄以外の全員が驚き警戒をあらわにした。その人物は刀を持った龍人の老人=さっき紺達が駅の近くで会った人物である。


検索してみたところ、日本の海の妖怪って意外と少ない。海坊主と海入道は、地方で呼び名が違うだけで、実は同じものです。

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