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不死の女神  作者: 大麒麟
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第三十八話 佐井村

『ええ~~佐井駅に到着しました~~降りる方はとっとと降りてください~~大間駅には行きませんので、行きたい奴は歩いて行けよ~~』


 気の抜けた口調の声が車内に鳴り、一行は大間町に近い位置にある駅・佐井駅に到着した。

 本当ならその先の便に、大間駅というのもあるのだが、例の魔物の件で列車はそこまで走ってくれない。


 肩を枕に寝ている黄を、叩き起こして駅に降りる。

 駅の風景は、日本の田舎の駅にそっくりだった。行きの時の、青龍京の駅も、日本の都会の駅に酷似していた。


(せっかく異世界に来たのに、新鮮味なさすぎだろ・・・・・・)


 駅は大間町から大分離れた位置にある。まず最初に、付近の佐井村に行くことにする。

 村に行くには、森の中の林道を歩いていかなければならない。一行はそこに進む。道中浅葱が口を開いた。


「恐らくもう鉄士の魔物狩りは行われているだろうな。もう終わっているかもしれないが」


 依頼が出された日から考えれば、紺は大分遅れてきた方だ。もしかしたらもうほとんど狩り尽くされているかもしれない。


「そうなったら、ゆるりと観光でも楽しみますか。ん・・・?」


 整備された林道の途中、休憩用と思われる椅子に人が1人座っていた。

 人種は龍人。鼠色の浴衣を着ている。顔を見ると60~70代はいってそうなご年配だ。背は高く190cmはありそうだ。体つきは老齢とは思えないほどがっしりしており、腰の隣の椅子の上には刀が置かれている。


 紺は、恐らく自分と同じ鉄士だろうと当たりをつけた。特に興味は示さず、そのまま通り過ぎようとする。


「お爺さんも、僕たちと同じ鉄士なんですか?」


 何故か黄がその老人に話しかける。判ってはいたが、この子供は誰にでも愛想がいい。


「いや、儂は鉄士ではない」

「じゃあ、地元の方?」

「いや、ここからずっと遠い、陸奥王国から来た」


 淡々と答える老人。その返答の内容に、無関心だった紺と浅葱が振り返った。


「鉄士じゃない? じゃああんた何者だ?」

「報道は聞いているはずだろう? 他国の者が、こんなところに好きで来たというのか?」


 老人はゆっくりと頷いた。そして値踏みするかのように、一行を見つめ続ける。何だか気持ち悪いものを感じて、紺はさっさと行ってしまおうかと思い始める。


「・・・・・・お前らから、強い魔力と生命力を感じ取れる。まだ若いが、相当な腕前の鉄士のようだな」

「まあ、そうだと思うぞ。俺とこいつは最近なったばかりの新人だし、1人は鉄士ですらないが」


 浅葱は今の自分は、黄金級鉄士に値する実力があると自負している。ちなみに紺についてきただけの黄は、鉄士試験を受けていない。


「・・・・・・ふむ。儂は強者を探して旅をしていてな。この近くに大勢の鉄士が集まっていると言うから、どれそいつらの実力を見定めてやろうと思って、ここに来たのだよ」

「ようするに武者修行か? ならここで私らと一戦やるか?」


 これは何かのイベントか?と、紺は少し構える動作をしてみる。

 もしかかってきたら本気でやるつもりだ。そして勝ったら何かアイテムとかを要求してみよう。老人だからといって弱いとは限らないが、今の自分なら誰だろうと返り討ちに出来る自信がある。


「やめろ紺。失礼だが、意味のない仕合をする気はない。あなたも本気で来る気はないのでしょう?」

「別に挑発した気はなかったんだがな。お前達は、あの海の奴らと戦いに来たのか? あれはかなり危険だぞ。儂は遠くから見たが、数も個の強さも相当な物だ。お前達、その若さで死にたくないだろう?」

「それなら大丈夫だ。私は強い上に不死身だからな!」


 老人の警告に紺が自信満々で答える。


「ところであんた、今までの言いぐさからすると、やっぱり強いのか? 何か変わった能力とかあったりする?」

「・・・おい?」


 何かを期待しているような紺の言葉。その意図が読めて、浅葱が低い声で警告する。


「警告感謝する。だが俺たちは大丈夫だ。こいつの言う通り、何が出ても死なない程度の実力はある。それでは失礼」


 そこで話を強引に切り、浅葱はみんなを先導して林道を歩いていった。後には老人1人が椅子の上に取り残される。


「大層な自信だ。若いとはいいものだ。・・・・・・だがどんなに強くなれても、粋がれるのは若いうちだけだぞ・・・・・・愚者共が」






 佐井村に到着した一行。この農村は、魔物襲撃による封鎖地域から、ギリギリの距離の位置にある集落だ。


 現在この村では、大間町や付近の集落からの避難民の一部を受け入れている。

 そして最近になって各地から来た鉄士達の、宿泊拠点にもなっている。依頼主である大間町町長も、現在ここにいる。


 紺達は、村で最も大きな建物である集会所に向かった。聞けば依頼主はここにいるそうだ。


「青龍京から来てくださるとは、ご足労感謝します。町の平和のために、どうか頑張ってください」


 依頼主は、甚五郎のせいで身体がまだ少し臭う一行を、顔をしかめながらも迎え入れた。


「ああ、でもこの様子だと、討伐は順調じゃないんだな?」

「ええ、そうなんです」


 依頼主の言葉の後、浅葱はさっき見た集会所の中を思い出す。畳が広く敷かれた集会所の中は、今や野戦病院のような状態だった。

 大勢の負傷した鉄士が、村の病院に入りきらず集会所の中で、並んで寝かされていた。この依頼を受けて魔物討伐に向かい、逃げ帰ってきた者達だ。


「凄かったなあれ。出てきた魔物ってのは、そんなに強いのか?」

「強い者もいたそうですが、数が半端ではなかったそうで・・・・・・」


 生還した鉄士から話を聞くと、魔物達は大間町を縄張りにして、そこから出ようとする様子はなかったという。

 何百匹もの魔物が町の家や道を、我が物顔で歩き回り、住民の置いていった食糧を漁ったりしていたという。


 集まった百人近い鉄士が、一斉に殲滅にかかった。最初は優勢だった。激しい戦闘で、魔物達はどんどん数を減らしていった。その余波で、町が大分壊れてしまったが、これは致し方ない。

 だが残り数十匹といったところで、いきなり数が増えたのだ。港の方の海から、大量の魔物が援軍のようにこちらに泳いできて、次々と町に上陸し鉄士達に襲いかかった。


 鉄士達は当然そいつらにも対処した。それ以降、魔物は全く減らなかった。

 ある程度殺されると、まるで順番待ちしていたかのように、海から新しいのがどんどん湧き出てくる。


 長期戦になり、負傷者が大量に出てきて、もはや殲滅は無理と判断した鉄士達は、この佐井村に引き返さざるを得なくなる。

 この状態は数日間続き、依頼を受けて到着した鉄士の数も増えていった。だが何故か鉄士の増加に合わせるかのように、魔物の一度の出没数も増えていって、全く戦況が変わらない。ただ戦闘の規模が拡大するだけだ。


 逃走しても敵は追ってくる様子はないため、退却は簡単だった。そのため今のところ死者は出ていない。

 だが負傷者は大幅に増えていく。そして病院に彼ら全員を、この佐井村に受け入れた結果、先程のような光景が出来上がったのだ。


「いくら倒しても減らないって・・・・・・海の中で増殖しているんじゃないのか? 海の中にでかい親がいるとか?」

「そうなのですか? 私は魔物には詳しくないのですが・・・・・・」


 紺の言葉に、依頼主の町長が首を傾げる。即座に浅葱が説明を始めた。


「それはない。いくら増殖力のある魔物でも、赤ん坊から始まって、一日で成長しきるなどありえない。それに依頼の情報にあった“海坊主うみぼうず”の写真は、どれも成体だったしな」


 有名な米映画の宇宙生物のように、生まれてすぐ生体になって、人を襲ったりはしないらしい。


「じゃあやっぱり召喚魔法か?」

「どうだろうな? 異世界にも海坊主と同種の魔物がいるかどうかはわからないが……」


 以前甚五郎が言った、似たような世界がいくつもある、という言葉を考えると安易に否定できない。


「・・・・・・ともかく今は、出来るだけ大勢の鉄士の力も必要なんです。今は政府にも事を頼もうという話もありますし。次の攻撃の時は、戦力がもっと集まってからの予定で・・・」

「ああ、いい。私ら今から行くわ」

「え!?」


 紺の言葉に唖然とする町長。そのまま外へ出て行こうとする。本当にそのつもりのようで、皆それに反対せずについていく。


「待ってください! 今から行くと町に向かう鉄士は皆さんだけですよ! 私の話聞いてましたよね!?」

「駄目だったら逃げ帰るさ。まあやるだけやってみるよ」

「身体は大丈夫か? 一昨日悪臭地獄を見たばかりだろ?」


 言うとおり、一昨日に大滝村のほうで倒れたばかりだ。


「全然大丈夫。展開はずっとスピーディーでいくほうが好みだ」


 そう言って外に出た紺は、集会所の前の道の真ん中で、自らの能力の一つを使った。


「「ええええっ!?」」


 竜変化。町長や、近くにいた村民・鉄士達の目の前で、紺はあの黒い洋竜に変身して見せたのだ。

 突然全身が光り、巨大化・変形した紺の姿に、彼女の仲間以外の全員が唖然とする。


「では、しばらく待ってください。俺たちもできる限り魔物は減らして見せますので」


 浅葱達三人が、変身した紺の背中に乗り込む。そして紺は翼を羽ばたかせ舞い上がり、大間町の方へと飛んでいった。


「あれって四王国を襲撃したという黒竜に似てないか?」

「まさか、別者だろう? しかし近頃の若者はすごいな・・・・・・」


 空の彼方へと消えていく一行を見上げながら、鉄士達がそう感嘆して喋った。


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