表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今宵、図書館で逢いましょう。  作者: さきみやめぐ
第六夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/67

軽井沢で起きた奇跡 1

 珍しく早起きをした今朝。

理由は朝の新幹線に乗るためだった。

起きた直後は眠気がまだ残っていたが、東京駅に着くと、人の多さに圧倒されたおかげで目が覚める。


久々に乗る新幹線は嬉しいはずだが、1人分のチケットを持っている状況が、やはり切なく感じた。

それでも目的地で僕を待つ人はいたし、初めて行く場所だったので、意を決し車内へ乗り込んだ。


上野と大宮を越え、分岐点となる高崎で、見慣れた上越新幹線の路線を見送り、新幹線はどんどん進んでいった。

途中、真っ暗なトンネルを颯爽と走っていき、景色が真っ暗に……。

そして、自然豊かな高原が目の前に映ったのだった。


***


 軽井沢駅の改札を出ると、スポーツブランドのポロシャツを着た片瀬が僕を迎えに来てくれた。


「待ちくたびれたよ、相棒」

「相棒って……」


片瀬からふざけたことを言われるのは約2ヶ月ぶり。


「ごめん、結構待った?」

「そうでもないよ。 長旅お疲れ」


8月に片瀬から「軽井沢に来ないか」と誘われた僕。

言われたときは乗り気では無かったが、運よく連休でお休みを取らせてもらった。


「こっちはやっぱり涼しいね。 9月なのにこんな爽やかなんだ」


大学生のとき、香織とスノーボードをしに来たことがあったのはお隣の新潟。

こっちへ行く数日前、天気予報を入念に調べて、ざっと荷物をまとめてきた。

最高気温が22度と、すっかり秋の陽気だ。

都内なら問題なく半袖で過ごせるが、ここは一足早く季節が移り変わっている様子。


「そうだな。 湿気も落ち着いたから過ごしやすいよ」


そう言いながら僕の荷物をすんなり持ってくれる。


「あ、ありがと」


ぶっきらぼうな優しさは相変わらず。


「荷物、これだけ?」

「そう。 片瀬なら色々貸してくれるかと思って」


気遣い屋の僕がそう人に頼るなんてそんなに無い。

片瀬はちょっと驚きつつも「貸すよ全然」とすんなり返事をしてくれた。

片瀬と並んで歩くと、駐車場に止まっていた片瀬の車に乗り込んだ。


「片瀬の家ってここから近いの?」


スマートフォンをいじりながら、車内の音楽をかけようとしていた片瀬。


「いや、車だと10分、15分はかかるかな……それより腹減っていない? どっか食べに行かない? あ、食欲はどんな感じ?」


片瀬は僕を案じて、最後の質問だけ僕のほうを見て言ってきた。

変わりなく心配してくれるのはありがたいが、自分のことを話すときはどうも緊張する。


「あ、あるよ。 朝から何も食べていなくて……」


今日に関しては、食欲以前の問題だった。

家を出る支度でバタバタしていたため、食べる時間が無かったからだ。

こんなことを言ったら、また片瀬にとやかく言われるかもと思ったが……。


「ほんと? なら丁度よかった」


片瀬は持っていたスマートフォンを適当に置いて、シートベルトを着けて車を走らせた。


「え、丁度いいって?」


急なエンジンに慌てて僕もシートベルトを着ける。

片瀬が流した曲は、ロックバンドが歌うドライブに持ってこいのやつだった。


「ランチ前に来てくれたから間に合うと思う。 よし、行こう。 あ、お客さん。 ちゃんと背中つけて座ってくださいね」


真面目な顔しておふざけは言ってくるので、僕も一瞬笑ってしまう。


「あの、片瀬。 無理な運転はしないでね」

「大丈夫、法定速度は守るから」


白い歯を見せる笑顔が怪しい。

大学時代、片瀬の運転で車に乗ったことが何度かあったが……。

運転に慣れているが故なのか、車を走らせると飛ばし屋だった。

ブレーキは上手いのに、アクセルは全開。


当時を思い出し、片瀬にやんわり注意を促したが……知らない土地で、何処に行くかも分からない。

唯一頼れるのは、隣にいる飛ばし屋の親友だけ。

言われるがまま素直にシートに背中をつけて、じっと座っていることにした。


「今日乗ってきた新幹線は何だったの?」


大人しく座っている僕に、ドライバーはけろっと声を掛けてきた。


「えっとね、はくたかだった!」


北陸新幹線に乗ったのは、今回が初めてだった。

東京駅からわずか4駅。

1時間程度で軽井沢に行けることに感動した。


高崎駅までは香織との旅行で通ったので、景色を見ながら懐かしい思い出に馳せていた。

即答で元気よく答えた僕に、片瀬は面白そうに笑う。


「あぁ、それだったら早いやつだわ」

「うん。 だから帰りは各駅停車のやつにしようと思って。 あさまで帰る予定」

「ははっ! もう帰る新幹線のこと考えてんの?」


今日の片瀬は、いつもよりよく笑っているなと思った。

そんな片瀬の横顔を見ると、さっきは付けてなかったサングラスをかけていた。

ちなみに眩しいほど日差しは出てない……。


「野上って行ったことある? 埼玉にある鉄道博物館」

「行ったことないな……名前は聞いたことあるけど」

「そうなの? 好きそうだけどね、そういうところ」


マニアまでいかないが、鉄道はわりと好き。

「一度は行ってみたいな」と思っていた場所だ。


「いつか行ってみたいなとは思っているんだよね」

「今度一緒に行く?」

「え、本気で言っている?」

「本気だって。 嘘はつかないよ」

「ふふっ! 考えておく」


いいな……内容はくだらないのに、温かい雰囲気が伝わるこの会話。


笑いながら窓の外を見ると、のどかで広大な自然の景色が一面に映った。

東京のように高い建物たちに邪魔されることなく、車や電車も真っ直ぐに悠々と走っている。


マイナスイオンに囲まれた感覚を味わいたくて、そっと窓を開けてみた。

特に片瀬は何も咎めることなく、スイスイと運転してくれる。


どことなく僕が育った山形の景色にも近い感じ。

季節の移り変わりで、木々が緑色と黄色が混ざっているが、またそれも良かった。

僕が見ている景色、香織もきっと気に入るだろうな……。

そんなことを思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ