第074話 助力のお願い
「えーと、何から話したものか・・・」
馬車の中でローラさんを前にして言葉に詰まる。
できごとが多すぎる上に、何から話すのがローラさんに伝わりやすいかを考えるが難しい。
ローラさんに相談したいと思って急いだものの、いざ状況説明となると困ってしまう。
首をひねって考えているとローラさんが助け船を出してくれた。
「では、私から気になること、それも軽そうなものから順番に質問しますのでそれに答えてください。」
「助かります。」
「まず1つ目、リッキーさんが同行しているようですが。」
「移動中に遭遇した山賊に囚われているのを救出しました。実家から勘当されたそうでローラさんにその解除の口利きをお願いしたいということで、一時的に男爵家で雇用してここまで連れて来てます。」
「そのまま雇用されるとよいでしょう。そそっかしくて思い込みは激しい人ですが、貴族のしきたりとかの知識は詳しかったと思いますよ。」
「実家に戻りたいそうなのですが・・・」
「お兄様のスペアでいいことなんかありませんよ。そもそも私はクレームを入れただけで勘当してくださいとは言っておりませんもの、ドリル家内の処遇にまで口出しできません。リッキーさんのことはいいですわ。次に質問に行きましょう。」
リッキーの勘当はなくならないらしい。
連れて来たのに申し訳ないな。と思う一方、ローラさんも迷惑がっていながらも家に縛り付けられるのは良くないとリッキーのことを考えているのもわかる。
アニストン姉弟のことといい、僕のことといい、なんだかんだ面倒見のいいひとなのかもしれない。
いや半面、しつこい男は虫よばわりするのだから、バランスは取れているのか。
「次の2つ目の質問です。タックさんは馬車2台で追ってこられるとのことでしたが今は1台でしたわね?後から来るのですか?」
「出発時は2台で来たのですが、1台は王都に戻してます。トッドがいないのはそれに乗って王都に帰っているからです。」
「トドロキさんがいないのはそれが理由ですか。いないと言えばアドリアーナさんには会わなかったのですか?私たちとは王国を出る直前にあなたと先に合流するから。と言われ別れましたが。」
「いえ、会いました。途中まで一緒に来ていたのですが、途中から司教領に戻ってもらってます。」
「王都や司教領に使いを出さないといけない事態になった・・・と。」
「はい。」
僕の首肯にローラさんは少し眉をひそめる。
「その理由も聞きたいですが、長くなりそうなので質問を変えましょう。
とりあえず姿が見えない人たちが無事そうならいいです。
次は3つ目ですね。あなたたちが乗ってきた馬車ですが、変わった馬がひいてましたね。あれは?」
「ユニコーンです。テムステイ山の近くで見つけて手懐けました。」
うん、間違ってないはずだ。従属魔法で配下にしましたという表現はよくない。
「手懐けた・・・ ユニコーンは人に懐くことはない魔獣と聞きましたけど。」
「手懐けました。」
「・・・そうですか。同行している方に獣人と龍人の方がおられましたけど。」
「テムステイ山で保護しました。」
「保護した・・・ 獣人はともかく龍人は人の保護など必要ないくらい強いと思いますが。」
「保護しました。」
「・・・そうですか。では次の質問にしましょうか。簡単な質問だとこれが最後です。」
とここでローラさんが言葉を切る。
最後の質問となると、あれか僕たちと合流する前に見た青龍のことだろう。
だがローラさんは質問をすることなく、僕の目をじっと見てくる。
美人さんだなぁ。まつ毛なっが。と思って見返しているとと困ったような顔をしてため息をついた。
「多少はひけめを感じて目をそらすかと思ったらマジマジと見返すんですもの。やりづらいです。」
「美人の顔を見るのは眼福ですから。」
と正直に言ったが、
「まわりにあれだけきれいな女性をはべらせておいて、よくもぬけぬけとそんなセリフを・・・」
と信じてもらえなかった。
うーん、最悪のケースでもローラさんに迷惑がかからないようにオブラートに包んで状況を話して、そのうえで相談に乗ってもらおうと思ったが、そもそも僕を信じてもらえていない。
手の内をさらそう。ローラさんに信じてもらえないと先に進めない。
そう考え、改めてローラさんを向く。
「ローラさん。」
と声をかけると、
「なんですか?」
と姿勢を正し、こちらを見てくる。ようやく本当のことをしゃべる気になりましたか。そんな顔だ。
「少し会ってない間にいろいろありまして。ローラさんに相談に乗ってほしいんです。」
「何があったかも話してくれない人の相談に乗るんですか?」
「聞くと後戻りできなくなるかもしれません。」
「なんで私なんですか?ベアトリクスさんとかアドリアーナさんとか相談できる人はいるでしょうか。」
「まあトリィとかアド姉とか相談できないことはないんですが、今回政治的な駆け引きも発生しそうでして、なるべく穏便にすませたいのです。そういうことで相談できそうな人って僕にはローラさんしかいないんです。」
僕がそう言うとローラさんは”クピッ”と喉元当たりから音を出した。
しゃっくりでも出てしまったのだろうか。顔が真っ赤だ。
だが今は真面目なお願いをしている状況だ。ここでからかったり笑ったりするなど愚策。
可能な限り真剣な顔をしてローラさんを見つめる。
「わ、私しかいないんですか。」
「いません。」
と目を見ながら断言する。
トリィ、アド姉、それにテムステイ山のメンバーは基本力こそパワーの発想だ(多分)。
最終的に力に頼ることになるかもしれないが、極力武力衝突は避けたい。
そのためには政治的な駆け引きができるローラさんの協力は不可欠。
ここはなんとしても相談相手になってもらう。
しばらく見つめあうこと数分。
何か言葉を出すべきかと思った時、ローラさんが
「ま、まあタックさんはイニレ家の寄子ですから。相談に乗ることに問題はありません。」
と折れてくれた。
「ありがとうございます。」
と言って、テーブルに置いてあったローラさんの手を握る。
思わず握ってしまったが失策に気付く。
商談が成立した時に相手と握手をしていたが、後で”貴族の人にはやっちゃだめだよ。”と会長や営業部長に怒られていたことを思い出した。
まあでも僕も今は貴族だし。ローラさんもまんざらでもないから大丈夫だろう。
しばらく手をつないでいたが、長すぎると思ったのか手をひっこめたローラさんが話を続ける。
「とはいっても、状況を正直に正確に教えていただかないと私の助言も無駄になります。」
「はい。」
「先ほど言いかけた最後の質問になりますが、タックさんと会う前に現れたドラゴンはなんですか?」
「あれは僕と同行していた龍人の変身した姿です。」
「変身・・・」
「ああ、ごめんなさい。正確にはあのドラゴンは青龍というテムステイ山の盟主だそうで、それが人化したのが僕と同行していた龍人です。」
「人化した龍・・・」
「はい。」
と断言し、ローラさんの反応を待つ。
「龍人と獣人の女性はメイド姿でしたがそれは・・・」
「ああ、それは僕の配下になったということを対外的に知らしめたいからと言って自主的に着たんです。決して僕が着させたわけではないですよ。」
そこは守らなければならない一線だ。
僕が配下の女性にメイド服を着させたがる男だと誤解されるのは困る。
「自主的に・・・ 龍が?」
「そうです。自主的です。」
僕の回答に対しローラさんは5秒ほど目をつむると僕を向きこう言った。
「目に見える物に関する質問でだいたいわかるかと思ったんですが・・・ごめんなさい。1つだけ追加で教えてください。」
「もちろんです。」
1つと言わず、いくつでも答えます。だから僕に的確なアドバイスをくださいローラさん!
そんな覚悟を決めた僕にローラさんは追加の質問を口にする。
「タックさんはテムステイ山で何をしたんですか?」
「テムステイ山を制圧しました。」
と正直に僕が告げると、ローラさんはそのぱっちりとした目をさらに大きく開き、絶句した。




