第075話 帝国到着
「テムステイ山を制圧した?」
「はい。」
「数十匹の魔獣が棲んでいる山ですよ。」
「はい。」
「その中の1,2匹が外に出てくるだけで国が軍隊派遣するところですよ。」
「はい。」
「どうやったんですか?」
とジト目で聞かれる。うーん従属魔法のことまで話した方が良いのかしら。
でもそこ話し始めると長くなるしなぁ。
「そこは話すと長くなるので、帝国に移動しながら話ませんか。」
「そこを詳しく確認せずに魔獣引き連れて帝国に入れるわけないでしょう!!!」
とテーブルをたたいて怒られた。
確かに、仮にローラさんは僕を信じてくれたとしてだ。
いきなり王国の人間が魔獣連れてきたらそりゃ帝国には入れないだろう。
誰だって入れさせない。僕が逆の立場でも入れさせない。
テムステイ山を制圧しましたと通達する前にまずは足止めくらうだろう。
するとローラさんが立ち上がり、馬車の扉を開け、周囲の人間にいろいろ指示を出し始めた。
馬のひづめの音がいくつか発生し、周りの人間が動き出したことがわかる。
少し時間ができたので念話で情報収集することにする。
『ガブリエラ。』
『はい。』
『僕は馬車の中から出れてないんだけど、そっちからは何が見えてる。』
『・・・休憩が終わったようでみな動き出しました。馬が1頭先行するようです。あと先ほど私たちのところに来た男性がまたこちらに向かって来てます。』
『わかった。トリィに、ベアトリクスに何かあったらガブリエラ経由で教えてくれ。って伝えてくれる?』
エヴァは念話を知ってるから言わなくてもそうするだろう。
『了解しました・・・こちらに来た男性から伝言です。出立するので後からついてくるように。と。』
ん? 帝国に入れないと言ったばかりなのに出立する?
『どうしましょう?』
『意図はまだわからないけど、出発してくれるなら問題ない。後からついて来てくれ。』
『了解しました。みなさまに伝えます。』
ガブリエラとの念話を終えるのと同じくしてローラさんも配下への指示を終えて席に戻ってきた。
「ここから帝国の入管門まではあと2,3時間ほどだそうです。」
と座りながら僕に告げる。
「この距離で野宿という選択肢はみなに負担を強いることになるのであまり取りたくありません。」
と言われ、僕もうなづく。
僕は少しだけベッドで寝たが、トリィやミアはそうではないだろう。
一般の宿でも良いので普通に寝かせてあげたいところだ。
「なので、あと2時間の間にできる限り私にタックさんの状況を教えてください。」
「ありがとうございます。」
「お礼を言うのは早いです。魔獣を連れて帝国に入れる理由がなければイニレ家だけで帝国に入ります。」
「・・・はい。」
やっぱりそうなるか。ローラさんでも理由付けは難しいか。
「なので・・・私の質問にはすべて正直に答えてくださいね。嘘や内緒はなしです。」
「・・・了解しました。」
「それでは・・・」
とここから時間いっぱいの質問タイムが始まった。
◇◇◇◇◇
御者席との小窓が叩かれたのでローラさんの許可をもらい、近くにいた僕が小窓を開ける。
「入管門が見えてまいりました。」
ローラさんにも聞こえる声で話したので、言い直すこともなくローラさんの方に向きなおる。
ローラさんはうなづくと、一旦馬車を止めさせ隊列の変更を指示した。
この馬車の後ろに、離れて同行していたタッキナルディ家の馬車を組みこむ形だ。
「同行して良いってことですか。」
とローラさんに念のために聞くと、
「そうですね。多分大丈夫ですよ。ちょっと騒がしくなるでしょうけど。」
「なるべく穏便にすませたいです。どうしたらいいですか。」
「特に何もないですけど・・・。エヴァさんとガブリエラさん、でしたっけ。髪とか角とか耳とか見えないようにフードかぶっておいてください。最初は隠しておきましょう。あとタックさんの護衛のウィンさん、ミクラさん、アギレラさんも目立たないようにお願いしますわ。」
生体金属は僕の腕輪になりすまし、リビングソードは僕の腰に刀として収まっている。
妖精はなんと僕の髪の毛の中だ。同じ黒髪だし、褐色の肌も黒髪の中だと目立たないだろうということでここを定位置にするそうだ。まあメンバーに連絡取るためには近くにいてくれた方がいいけど、これはさすがに近すぎると思う。
でもテムステイさん制圧の証明のためには魔獣たちは姿を出した方がいいと思ったのだけど・・・
「目立たないように入るってことですか?」
「いえ、ユニコーンがいるので目立たないのは無理です。ユニコーンが注目されているうちに、帝国に話を通す方向で行こうと思います。」
そういうとローラさんはにこにこと笑って見せた。
「あと、宿についたら私もエヴァさんとガブリエラさんに紹介してくださいね。」
「はい、わかりました。」
「その方たちの考えも聞いておかないと。」
「えっ、エヴァもガブリエラもテムステイ山から出て普通に暮らしたいって言ってるだけですよ。」
「そっちの考え方じゃありません。タックさんは気にされなくても大丈夫ですよ。」
そんな言い方をされると気になるのだが。
だが、僕が不審そうな顔を向けてもローラさんはにこにこと笑ったまま答えてくれなかった。




