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第123話 魔人

 砕かれたのはメイスだけではないようで、吹き飛ばされた兵士たちは兜の隙間から血を流している。

 鎧もへこんでいるので内臓を痛めて吐血したのだろう。

 起き上がってこようとしているが、その動きはあまりにも遅い。

 そんな状態でも諦めないのか、メイスの柄を杖にしながら立ち上がろうとする兵士達に向かって武装集団の数名が襲い掛かる。


 武装集団は素手のように見えたがよく見るとナックルのようなものを手にしている。

 義手、義足に仕込むにしてもそれほど大きなものは無理だったのだろう。

 でもナックルでメイスを砕けるものなのか?


 追い打ちをかけられると圧倒的に不利に思えた兵士たちだったが、あとから来た司教領の兵士たちが負傷兵と武装集団の間に入ることができ、膠着状態に入る。

 1対1であれば武装集団が圧倒できるようだが、司教領の兵士は最初の戦闘を参考にしたのか、1対多数の数的優位を保ちながら武装集団に立ち向かっていた。

 一撃で仕留めきるような踏み込みではなく、反撃も想定した戦闘スタイルと言ったところだろうか。

 そのスタイルだと戦闘が長期化してしまうのだが、負けるよりはましなのだろう。

 時間をかせいでいる間に兵士たちの後ろに控えていた牧師?シスター?らしき人たちが最初に倒れた兵士の治療を行っている。


 式場の周辺は膠着状態になったが、内側の僕たちはどう動くべきかな。

 ちらりと、ジルやローラさんを見るがテーブルに座ったまま動こうとはしていない。

 ローラさんは僕と目が合ったが、首を横に振った。

 王家の人間はここでは客だ。動くなと言うことだろう。

 逆にトリィやヒビキが僕を見てくるが、僕も首を横に振って動かないように制した。

 ただ、服の中にもぐりこんでいたアギレラには、周辺で待機していたミア達にこちらに向かうよう伝えておく。ひょっとしたら人手がいるかもしれない。

 ベラは相変わらず食事をむさぼっている。

 ハンバーグはさすがに少なくなったが、近くにあったパンを二つに割り、その間に詰め込んでハンバーガーもどきを作っている。


 「申し訳ありません。まずは私たちが動きますから。」

 と横に控えているライラさんが言う。

 さっきは司教領兵が抑えると言いきったが、今は違う。

 最善は司教領の人間だけでけりをつけることだが、場合によっては王国、帝国の手を借りるかもしれない。

 表現を変えただけだが、武装集団が想定よりも強かったのだろう。

 まあ、これぐらいの強さがなければ、聖女様の結婚式の最中に騒ぎを起こそうなんて思わないだろう。


 そんなやりとりをしていると、周囲の戦闘をよそに武装集団の1人が僕たちを向き、話始めた。


 「さてと・・・ 君たちがすぐには救助されないということは理解いただけただろうか。」


 と式場内にいる人間に宣言する。

 式場内には戦闘()できる人間はいる。

 だが、聖女の結婚式に参加するような人間だ。

 箔をつけるために金を払って参加するような人間は自分たちに害が及ばない限り動きはしないし、立場のある人間は、それが足かせになって周囲の人間を無視して鎮圧に動くわけにもいかない。

 

 「我々は君たちに用があるわけではない。用があるのは聖女様だけだ。そのままおとなしくしてくれるのであれば、我々も手を出さない。」


 「聖女様を連れ帰り、魔人国の戦力回復を図ろうというところかな。」


 とそれまで黙っていたジルが代表の男性に声をかける。


 「ふん、さすがに帝国の人間は気が付くか。だが、帝国諸君の相手は既存戦力だけで十分だよ。」

 「言うじゃないか。」

 「おっと、ここで君たちとやりあおうとは思わんよ。ここはおとなしくしておいてもらえると助かる。介入するには頭数も少なかろう?」

 そう言われるとジルは不快そうな表情でだまった。 


 「魔人って?」と近くにいるライラさんに聞く。

 「帝国北東部に魔獣の生息域があるのはご存じですか?」

 「海を挟んでるところ?まあ、それなりには。」

 帝国でユニコーンにちょっかいだしてきた貴族子弟が数人、そこの前線送りになったし。

 「その生息域をはさんで逆側にある国が魔人国です。魔獣の生息域といっても人が入ってないわけではなく、そこで帝国と魔人国はたびたび小競り合いを起こしてます。」

 魔人と言うのは魔力が通常の人間よりも多いが、その分身体の色が紫で角や尻尾などが生えているものもいるそうだ。


 「あの人たちはそうは見えないけど。」

 「おそらく変化の魔法か魔道具を使っているのではないかと。」

 「なるほどね。」

 どんな魔法陣してるんだろう。見せてくれないかな。


 帝国相手は既存戦力だけで十分。あの男はそう言った。

 十分と言いながらも、回復魔法、それも広範囲を一度にカバーでき欠損からの回復も可能な聖女が必要ですと・・・

 「魔人国は帝国以外の他国と面しているのかな?」

 「いえ、帝国から見ると周辺は海に囲まれているようですが、魔人国の奥地の情報まではさすがに・・・」

 さすがにローラさんも知らなそうだ。


 「魔人が相手だとさすがに分が悪いです。」

 相手の目的に気を取られている僕にローラさんがそう告げる。

 「聖女様を連れていかれてしまう?」

 「式場内の戦える人数からすると難しいと言わざるを得ません。聖女様を確保した後の移動手段はわかりませんが。」

 と悔しそうに言う。

 状況が把握した結果、その結論に達したようだ。


 武装集団のうち、数人が台の中央で休んでいた聖女様のもとに向かう。

 だが次の瞬間、その数名は元いたところに殴り飛ばされる。


 「人の女房に、何をしようというのかね。君たちは・・・」

 聖女の横にはにこやかに笑顔を浮かべている我が兄がいた。こめかみに青筋を浮かべながら。

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