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第107話 覚悟不足

 ザナックが乱入してきたので、一旦ブルックリンとステラを馬車組に合流させる。

 土下座したままのザナックをテーブルに座らせて、まずは状況を確認することにした。


 ザナックの説明をまとめるとこうだ

 ・ギルドにアカネが貴族にさらわれたとメンバーより連絡あり。

 ・連絡を耳にしたザナックの奥さん(副ギルドマスター)が現地で状況確認。

 ・複数人からの聞き取りでアカネが貴族に魔法を撃とうとして未遂で終わったことが発覚

 ・そのうちの1人が馬車にタッキナルディ商会の家紋があったと発言

 (ここで奥さんは思考停止。ギルドへの一旦帰還を選択)

 ・奥さんから説明を聞いたザナックが己の進退をかけて詫びに突撃


 ということらしい。


 ザナックは説明を終えると僕の方を向き、黙った。

 希望を述べないということはまずは僕の意向を聞きたいということだろう。

「アカネは何もしなかったということにできないだろうか?」

「できませんね。」

 ザナックの説明を聞いたあと、一番無難な選択と思われる提案を口にしたがザナックは拒絶した。

「なぜ?」

「目撃者が多すぎます。」

 それは誤解で言い張れそうな気がする。

「ユニコーンの件から日もたっていないタイミングだってのに、さらに新たに貴族に任じられた方への襲撃です。あとギルドマスターの俺が貴族様に面会にいってるんで何もなかったって言っても信じてもらえないと思います。」

 それはお前のせいじゃないか!!!

「ギルドマスターってなんというか、腕っぷしだけじゃなくて、物事を穏便に収める手腕ももとめられるんじゃないのか?」

「そうは言っても旦那、ここはテムステイ山に一番近い冒険者ギルドなんで、それなりに腕っぷしも必要なんですよ。」

 偉そうに言うな。そのせいで僕は困ってる。

 たしかにここだとテムステイ山近くを通る商隊の護衛だったり、魔獣駆除だったりしようってやつらが多いんだからそりゃ腕もいるだろうけど!

「それにですよ。」

 とザナックは続ける。

「仮に何か無難に収められる手があったとしても、後からギルドマスターは何もしなかったとかいうやつが絶対いるんですよ。だから裏で手を回すだけじゃなくて何かしらのパフォーマンスは必要だったんです。」

 ザナックの立場も分かったので追及はやめる。

「何もなかったことにできないと、アカネはどうなる?」

「このままだと貴族に危害を加えようとしたという罪で死罪になります。貴族様の性格にも寄りますが、今の時点で首と胴が分かれてて、ギルドにも通達があって終わりということもなくはありません。」

 まあ僕も誰かがケガしてたら怒るかもしれないが、早合点して暴走しただけ・・・、言葉にするといつ命を失ってもしょうがないような性格である。

 前世のように戦争から一世紀弱、平和な時代が続いているならまだしも今は普通に魔獣や獣相手に判断間違えて命を落とすこともざらにある世界である。

 とはいえこのまま見捨てるとブルックリンとステラが悲しむだろうしなぁ・・・

「何か助けられる方法はないのか?」

 ザナックは少し首をひねると

「一つだけ方法を知ってます。ただ一旦それをしちまうとなかなか戻せないってのが難ですが。」

「死ぬよりましだろ。やるやらないは別にしてどんな方法があるんだよ。」

「犯罪奴隷にするんです。死罪相当のやつなんで、基本主人の言いなりになっちまいますが・・・」

 ブルックリンやステラのように自身を借金のかたにして奴隷落ちするのが借金奴隷。

 これは自身にかかっている借金額分の働きをすれるか誰かが相当額を肩代わりすれば解放されるし、財産として売却も可能だ。

 ただ当然当人が奴隷から解放された後に影響が及ぶようなことはできない。

 例えば防具もなく魔獣に立ち向かわせたりとか、薬の治験に使ったりとかだ。

 まあ、ばれなければいくらでも抜け道はあるようだけど、一応ダメということになっている。

 一方、犯罪奴隷はここらの制約がない。

 何をしてもいいのだ。逆に言うとそんな扱いをされてもしょうがないほどの悪行を働いたということで、皇帝陛下にテムスティ山の犯罪奴隷だけはそのまま僕の領民にはできないと言われたのもそういう理由があってのことだ。

「奴隷落ちさせた場合は主人は当然僕だよな。」

「まあ、そうですね。」

 一旦、犯罪奴隷にしてほとぼり冷めたころに解除するか。なんか抜け道あるだろ。

 後でジルかローラさんに相談しよう。


 あとは・・・

 と無言のまま左右に控えるトリィとエヴァを見る。

 ザナックとの打ち合わせなのでテーブルに座らせたものの、一言も発しないまま僕とザナックのやりとりを聞いている。

「2人はだまってるけど意見はある?」

 とおずおずと聞くと、トリィはお先にどうぞとばかりにエヴァに向けて手のひらを向けた。

 それを見たエヴァが口を開く。

「今回はご主人を狙ったものであったが、これがテムステイ山を狙ったものであった場合、ご主人はどう動くのであろうか?」

 ん?どういうことだ?

 怪訝な顔を浮かべたのを見たエヴァが言葉を続ける。

「たとえ話だが、仮にテムステイ山の者に危害が加えられたとしよう。加害者がご主人の知り合いで誤解が原因だったとわかった場合、ご主人はどのように裁かれる?」

「誤解だったとしても、だれかを傷つけたのなら加害者を裁く。ということになる・・・と思う。」 

「例え話に仮定が多かったが、そうなる可能性もあるという話。今回被害も無かったので命は取らないという結論を出されたのであれば、今回の沙汰に異は無いです。」

 とエヴァは言い、さらに言葉をつづけた。

「なんらかの交流があった相手。この場合はブルックリンやステラの2人がなるべく悲しまないようにしたいと思われるご主人の姿勢は大変好ましい。現にテムステイ山組のわれらもご主人のその性格に付け込む形で庇護を頼んでおる。ですがどこかで取捨選択をしていただくことがあるやもしれぬということだけは覚えておいてほしい。」


 ・・・覚悟が足りなかった。

 今回のアカネの件でそこが顕在化したということだろう。

 助けたいという気持ちだけではどうにもならないことがこれから起こるかもしれない。

 起こった時どう動くかは、早めに方針決めしておかないといけないな・・・


 そんなことを考えていた僕の手をトリィがつかむ。

「タックは思うように動けばいいのよ。」

「トリィ?」

「魔道具作りも人助けもタックがやりたかったらやればいいのよ。」

「判断間違えるかもしれないよ。」

「あたしが一緒に謝ってあげるわ。」

 屈託なくはっきりと言い切る僕の許嫁に少し救われた気がした。

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