第100話 皇女殿下
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ローラさんを側室に入れることになり、バタバタした翌日、父さんたちがオラゾーラ侯爵領に到着した。
ブルックリンとステラが先導をしているのは想定通りだが、なぜか人垣がうちの馬車に群がることなく潮を引くようにすっと門の周辺から遠ざかる。
謎はすぐに解けた。
ブルックリンとステラの馬、タッキナルディ商会の馬車3台の間に、ミゼラ帝国の家紋が入った馬車が1台挟まっていたのだ。
さすがに格上どころか皇帝関係者が乗っている馬車の進行を止めてまで士官や商売の伝手を求める勇者はいなかったらしい。
両親を迎えに出ていた僕をよそに後から来たオラゾーラ侯爵がミゼラ帝国の馬車が近づく。
うちの馬車より先に、ミゼラ帝国の馬車の扉が開き、メイドが先に出た後、ドレスを着た女性がゆっくりと出てきた。
オラゾーラ侯爵が頭を下げ、挨拶をし、何かしらの話をしているようだが、タッキナルディ商会の馬車の近くにいる僕のところまでは聞こえてこない。
そちらに気を取られているとタッキナルディ商会の馬車の扉も開く。
扉に目をやると父さんと母さんが降りてきた。
「わざわざのお出迎えありがとうございます。タッキナルディ侯爵。」
と降りて早々慇懃な挨拶をしてくる父さん。
「どうしたの、父さん?」
不自然な態度に思わず聞き返す。
「いえいえ、わたくしただの1商人に戻りましたので、ご無礼を働くわけには。」
と謎の発言をする。
「1商人に戻ったって・・・。父さんは子爵でしょ?」
と改めて質問すると横にいた母さんがあきれ顔で父さんを見ながら、
「この人爵位返上したのよ。昨日。」
もともと爵位なぞいらなかったのに、むりやり持たされた。
爵位を得たことで無駄な貴族の付き合いが増えてやってられない。
息子が叙爵したんだから、俺返してもいいでしょ。
と皇帝陛下にぶっちゃけたらしい。我が親ながら自由である。僕もこうありたい。ん?
「まさか、やることあるって僕を先に行かせたのって?!」
「そうだ、息子も叙爵したことでタッキナルディ商会に二心なきことをご理解いただいた。」
「僕が先に爵位を返したかったのに!」
「そうはいかん、俺は無領地の貴族なのに士官希望の奴までうちに来たんだぞ。全部お前が相手をすべきだ。」
「ひどい・・・」
と親の暴論に愕然としているうちに、オラゾーラ侯爵との挨拶を終えた女性が僕に近づいてくる。
「ご無沙汰しております。タック・タッキナルディ侯爵。先日はどうも。」
と優雅にカーテシーをしてくるのは、リマ・ストラカン・ミゼラ皇帝陛下の長子であるジリオン・ストラカン・ミゼラ第一皇女。髪は軍務卿と同じ薄紫色だが目の色は皇帝と同じ碧色だった。
軽くウェーブのかかった長い髪を後ろに流している。
皇帝との食事会の際に僕の向かいに座っていた女性だ。
名前は帰りの馬車で母さんに教えてもらった。
食事会では一瞬だけ顔を合わせたが、すぐ背けられてしまったのでよく顔を見てなかったが、今日は僕をまじまじと見つめてくる。
「はい。ジリオン様。先日はご挨拶もきちんとできずに申し訳ありませんでした。」
先に挨拶されてしまった。慌てて手を胸のあたりにおき帝国風の礼をとる。
油断しないで教えてもらっておいてよかった。
でもどうしてここに第一皇女が?
「爵位を返上したのに、商会にお前とつないでほしいというアホが殺到してだな。」
と父さんが説明を始める。
相手をするのに辟易していたところにジリオン皇女が来られ、皇家の威光で追い払ってくれたらしい。
でもここまでついてきてくれるものなの?
と聞くと、
「では、司教領までよろしくお願いしますね。タック。」
とジリオン皇女が僕に言う。
「ん?」
と首をひねると父さんが横から補足する。
「この度、第一皇女のジリオン様がテムステイ山に関する他国との交渉役となった。お前と一緒に司教領に向かって、そのまま王国との交渉の場にも同席されるそうだ。」
「初耳なんだけど。」
「今言った。それに知らない仲でもなかろう?」
と言われる。
「ん?」
と再び首をひねると父さんはジリオン皇女に
「申し訳ありません。愚息は鈍いので皇女殿下のことを思い出せぬようです。」
というと、皇女はため息をついた。
「真正面から見ればわかると思ったのだけど・・・、気づいてなかったかぁ。」
そう言って、皇女は前髪を上げおでこを出すようにして、後ろに流していた髪をまとめる。
「これで気づくかな。」
と言って、少し上目遣いに僕を見た時点で記憶にある幼馴染の一人と印象が重なった。
「ジル?」
と思わず口をついた名前を耳にして、皇女はニヤリと笑った。
「ようやく気付いた。遅くない?ご無沙汰しております。で気づこうよ。」
「ジルって女の子だったの?」
「そこから?念のため男の子のように振舞ってたけど気づかないもんなんだね。」
とジルことジリオン皇女はうれしそうに笑った。
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