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とある第二王子殿下の後悔、

 




 お許し下さい。

 私の最大の禁忌は、貴方を愛してしまった事です、義姉上。



 気がついた時には大抵の事は何でも出来た。

 むしろ周りのみんなが同じ事が出来ないのがどうしようもなく不思議で、おかしいのは周りの方なんだと思っていた。

 しかし次第に気がつく、おかしいのは周りじゃ無くて、私の方だったのだと。


 そんな私の唯一憧れだったのが兄上。

 確かに兄上は私が簡単に熟せてしまう事が上手く出来ない人間の内の1人だった。

 だけど、それ以上に私が出来ない事を何でも熟してしまう人でもあるのだ。

 私が出来る事は、時間を掛けさえすれば必ず兄上だって出来るようになった。

 けれども、私が幾ら時間を掛けたとしても兄上と同じ事が出来るかと問われれば、それは出来ないと答える事しか出来ない。

 きっと兄上と私では人間としての格が違うのだと、私はそう思っている。


 私は確信している。

 父上の、国王陛下の跡を継ぐのは兄上しかいない、と。

 それなのに有象無象はわかりやすい上澄みの部分だけを掬い取って、兄上よりも私の方が優秀だ何だと囃し立てる。

 だけど、私なんかよりも遥かに兄上の方が優秀で、何よりも人の上に立つべき人で。

 でも、奴らは愚かだからそんな事すら理解する事が出来ないのだ。

 だから、分かりやすくしてやろうと思った。

 馬鹿でも分かるように私が道化を演じてやれば、奴らだって嫌でも分かる筈だろう?

 兄上が誰よりも次期国王陛下に相応しいと。

 幸いな事に私達は2人兄弟で、私以外の王位継承者と言えば、あとは遠縁の親戚筋の子息ぐらいの物。

 そんなのはただの形式上の順番に数字が当てたれただけの存在でしか無く、とどのつまり私達2人が両方死なない限りはその者達に王位が渡る事なんてあり得ないのだから。




「貴方は本当に馬鹿な子ね。あの人の為に1人で戦う苦労なんか追う必要はなかったのに」


 物事を必要以上に深読みするのが私の悪い癖で。

 いつしかマルクスにしか心を許せないと苦しむ様になり、常に周囲は敵だらけに感じて、人知れず葛藤する私の心境を、出会い頭にいとも簡単に見抜いてしまったのは貴方だけでしたよ、義姉上。

 他の誰も、道化の仮面を被った私の本心に気がつく事なんて無かったのに、何故貴方には気がつかれてしまったのでしょうか。

 もしかしたら、貴方も私と同じ様に苦しい心を押し殺して笑っていたのかも知れませんね。

 だから、あんなに簡単に気がつかれてしまったのではないですか?



「嫌だわ、義姉上だなんて。ヴィローサと名前で呼んで欲しいのだけど。まだ婚約者であっても結婚はしていないのだから」

「それは承服しかねますね。貴方は何れ兄上の伴侶となる方だ。大体何を恥ずかしがっているんですか? 貴方は兄上を愛しているのでしょう?」

「あっ、愛してって……」

「はぁ、何を赤面しているんですか。バレバレですよ。貴方兄上の前だと表情が違うんですから」


 貴方の前だと何も取り繕わずに済んだ。

 ご令嬢方に向ける為の甘い笑顔も、大人達に向ける悪戯少年の様な表情も、友人擬き達の前で取り繕う物分かりのいい一面も、何もかもかなぐり捨てて、ただのセドリックとしていられた。

 貴方も私と同じならば、どれ程良かったか。

 私にとっての貴方は、貴方にとっては私ではない。

 貴方が誰よりも心安らかに、取り繕わずにいられる存在は兄上なのでしょう?


 分かっているさ。

 私は兄上にはなれない。

 兄上には勝てない。

 兄上を尊敬している。

 兄上なら貴方を幸せに出来る。

 兄上の婚約者が貴方で良かった。

 貴方の婚約者が兄上で良かった。


 でも、私のこの気持ちは?

 行き場の無いこの気持ちは何処に行けば良いのだろうか。

 消さなくてはいけない、捨てなくてはいけない、忘れなくてはいけない。


 だからせめて貴方がもう私を心配しなくて良いように、私は私の仲間を増やす事に決めたのです。

 私はあの頃の様に1人で戦うだけの愚か者では無いと貴方に見せて差し上げましょう。

 そして兄上を支え、王国を支え、貴方が少しでも幸せになれるように。



 それから私は密かに優秀で、力になってくれそうな人間を探し始めた。

 剣豪の子息を、公爵家の子息を、隠密一族の子息を……

 勿論当初目的としていた人間でも調べてみれば期待外れだった者もいた。

 けれど、逆にこの者ならばもしかすると、と希望を抱かせる者も新たに現れた。

 私は彼らと仲良くなってみせよう。

 きっと、それはいつの日か私の力になるから。





「君がどう謙遜しようとも構わないけれど、そう言った経緯から私は君に興味を抱いた。何がしたいって訳では無いけれど、少しお話ししてみたくなってしまったんだよね」

「わ、私で宜しければ何なりと」

「嬉しいなぁ。じゃあ、君が私に恋愛的な興味が無いことは良く分かったから、せめて私と友達にならないかい?」

「……は、はい?」


 そんな中でも彼女と出会えたのは僥倖だったかもしれない。

 前から気にはなっていたんだ。

 勉学は多少優秀なようだけど、一見すると取り立てて目立つ事のないご令嬢。

 しかし年頃のご令嬢にしては珍しく私に興味も示さず、少しだけ道化の仮面を外して接しても驚きもしない。

 目の前に立つと何処か全てを見透かされているような気になる不思議な女の子。


 けど、本当はもっと品定めしようと考えていたんだ。

 それなのに面白くて思わず事を急いてしまった。

 しかしそれでも彼女は。


「セドリック様と私が友人になった事は周囲の方にはご内密にして頂きたいのです。理由は、申せずともセドリック様ならお分かりになられますよね?」

「何だそんな事かい。私は別に良いけれど、君は本当にそれで良いのかい?」

「ええ、私無益な争いの種になるのは御免ですので。先程も見ていらっしゃったからご存知のでしょうが、私火の粉を振り払うのが余り上手ではございませんので」


 本当に面白い。

 理解が早く、肝も座っている。

 彼女はそこら辺のへなちょこな男達よりもよっぽど頼りになりそうだと思わせてくれる。





「ねぇ、マルクス。彼女、次はどうやって私を楽しませてくれるかな」

「はい?」


 目をつけた者達の定期調査報告書に目を通していたマルクスは、突然投げかけた私の問いの意味を理解できず首を傾げた。


「こんなにワクワクするのは久しぶりだよ。そうだな、それこそ義姉上に出会った時以来かもね」

「セドリック様」


 漸く理解が追いついたのか、嗜めるような声色のマルクスに私は笑顔を返す。

 マルクスは彼女の事が余りお気に召していないらしい。

 どうにも私の事を神聖化し過ぎている節のあるマルクスは、そんな私に一見凡庸な彼女が近づくのが我慢ならないのだ。

 全く、慕われ過ぎると言うのも困ったものである。


「マルクスがどんなに嫌がっても私は彼女を逃す気はないよ。これは私だけじゃなく王国の為でもあるのだから」


 王国の為だなんて大義名分を晒したところで、根底には義姉上の存在がある事にマルクスは気がついているのだろう。

 何処か悼む様な表情になったマルクスへ、私は大丈夫だと言う言葉の代わりにもう一度笑顔を向けて答えた。






 マルクスには絶対に内緒だけど逃げ出そうものなら、ずっとワガママを言って未定にしていた婚約者に彼女を据えてもいいとすら思ってる。


 だって、久しぶりにこんなに楽しいんだ。


 どうか誰も邪魔はしないでおくれ。


 私は必ず彼女を手に入れてみせよう。









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