そして最後の対象達とのイベントが開幕するのです。
「わっわわわ、わたっ私共は、失礼させて頂きますわ‼︎」
その言葉を合図にして、蜘蛛の子を散らした様にご令嬢方は各々室内から逃げ出していった。
素晴らしいわね、最初から最後まで徹頭徹尾テンプレートに準じた行動基準。
その姿勢は私も見習うべきかしら。
「セドリック様、お願いですから私を置いて一人で行ってしまわれないで下さい‼︎」
ご令嬢方と入れ替わる様に教室に入ってきたのは少々息切れ気味のマルクス様だった。
額には薄っすら汗が滲み始めているところを見ると結構な距離を走ってきたみたい。
もしかしてセドリック様も走ってここまで来てくださったのかしら。
それは何というか……ご苦労様でした。
「ああ……マルクス、すまないね。可愛いご令嬢のピンチとあらば駆けつけねばならないだろう?」
「ですから、そう言った場合はわたしに一言申し付けてから行動して下さいと何度もお願いしてるではないですか……」
マルクス様にウインクで返事を返すセドリック様。
やっぱりイケメンのウインクの破壊力は凄いわね、ここにさっきのご令嬢方が残っていたら何人かは卒倒するレベルの色気を垂れ流しているわ、この方。
まぁそれを受け止めた当のマルクス様はケロッとしていらっしゃる、と言うかドッと疲れに襲われたご様子。
何だか苦労されているみたいね。
ご愁傷様です。
「そんな事より大丈夫だったかい、君……あれ?」
「……? えぇ、お陰様で無事助かりました。全てはセドリック様がいらっしゃって下さったからですわ。心から感謝申し上げます」
何故か私の顔を見て驚いた様な表情になったセドリック様に、私は膝を折って恭しく淑女の礼を取る。
それにしても、私の顔にそんなに驚く様な事なんてあったかしら。
もしかして何か汚れでも付いているのかも、等と考えて頰に手を当てた。
「ああ、そんなに畏まらないで欲しいな。私は当然の事をしたまでさ」
「そうは参りませんわ。第二王子殿下であらせられるセドリック様の御手を煩わせてしまったのですから。貴族として、曳いてはこの国に生きる一国民として感謝申し上げない訳には行きません」
「そこまで言われてしまっては私の方が折れざるを得ないな」
本来この場にいるのがヒロインだったのなら簡単にありがとうの一言で済ましてしまうこの場面。
実は彼女セドリック様の事を、この国の王子様だと知らないと言う何とも驚きの設定なのだ。
けれども、侯爵家の令嬢として王家主催のガーデンパーティー出席経験があったり、入学式の際の登壇でのご挨拶を拝聴していたり、その他諸々セドリック様のご尊顔を拝する数々の場面に出くわしてしまっている私がヒロインと同じ様な事をすれば不敬も良いところな訳でして。
大体、幾ら何でも自分の国の王子様のお顔を知らないって設定はちょっと強引過ぎよね。
実際この世界に生まれてからという物、王家の方々の姿絵を拝見する機会の多い事多い事、いくらヒロインが田舎出身の設定だからってそんな事ってあり得るのかしらって疑問に思ってしまう。
まぁ、大好きなゲームの事を非難したい訳では無いのだし、今はその話は一旦置いておきましょうか。
兎に角、第二王子であるセドリック様の事を知らない女生徒、という彼にとって最大のインパクトになり得るアドバンテージを利用出来ない分、如何にして彼に私の事を印象付けるか、これがこのイベントでの一つ目の鍵になるのよね。
しかもお二人との最初の出会いイベントでも、ヒロインは落としたハンカチを拾ってくれたセドリック様にやはり普通にお礼を言って立ち去るという(何ともベタな)イベント進行で。
その時のセドリック様は自分の周りに寄ってくる女性達がみせる様な反応とは全く異なった反応をみせたヒロインに興味を持って、今回のイベントが起こるまで彼女の事をしっかり覚えているのだけど、反対にヒロインの方は早々にそんな事忘れてしまって、今回のイベントでセドリック様に助けられてもまだその事は忘れたままなのよ。
確かにただでさえ顔がよく人目を惹きつける上に、王子なんていう魅力的な肩書きから普段黄色い声を上げて群がってくる女性に囲まれている彼が、塩対応……とまではいかないけれど、その顔や王子にお近付きになれるキッカケに対して無反応な女性に出会ったら興味を惹かれるのも無理はないと思うわ。
因みにマルクス様はそんなヒロインの様子を見て、随分と失礼な態度の女性だとヒロインに対して反感を抱いているのだけど。
セドリック様とは正反対の感想とはいえ、やはりマルクス様の印象に強く残っている事には変わりはないのよね。
それにマイナスからのスタートだと、逆にプラスに転じるのも結構容易かったりするもの。
知らないは使えない。
出会いイベントの下準備もない。
今更だけど結構詰んでるのよね、このお二人のルートは。
実は前々から頭を悩ませていた所で。
勿論ローランド様はこのお二人とも繋がりがあるのだけど、イリア様の時の様な奥の手は使えない。
些か特殊と言うか、出来れば触れたくないのよ、ローランド様の為にも。
まぁ、それにあの時は完璧に無駄足だったのだから。
けれど、そうこう自分に言い訳なんかをして打開策が思いつく前にモタモタしていたらイベントが発生の時を迎えてしまった訳でして。
覆水盆に返らずって本当よね。
「おや? セドリック様、こちらのご令嬢は……」
漸く息が整ったらしいマルクス様は、やはりセドリック様同様私の顔を目に止めると些か驚いた様な顔をしてそう告げた。
マルクス様の言葉にニヤリと笑ったセドリック様は至極楽しげに仰る。
「あぁ、どうやら彼女みたいだね。こんな偶然に出会うなんてやはり人助けとは良いものだなぁ」
セドリック様とマルクス様、こちらを意味ありげな視線で見つめるお二人の顔を交互に見比べて、私は目を丸め小首を傾けた。
あらあら、もしかすると打開策の方が自ら歩いてきてくれたかもしれないわ。
お二人に何かした記憶なんてものは一切無いのだけど、何故だか私の事を知っているようないない様な……?




