第38話 エピローグ
元大聖女ルリアナが収監されている監獄施設から出てきたキールとマリは、外で待っていたシルバーやクラウスが心配になるほど、暗い顔をしていた。
「その……マリ。 大丈夫?」
「シルバー!」
真っ先にシルバーに駆け寄って抱きしめながら、マリは言う。
悲しいのか辛いのかは分からないが、今になってようやく涙が出てきた。
「心配してくれて、ありがとう。 でも、大丈夫じゃない……かも。 ちょっと……うん。 どうしてあたしが生まれたのかとか、あの人の言葉とか、正直全部キツかった……」
愛してやるからここから出してくれ。
痛い思いをして産んでやったんだ。
母親の私に逆らう気か?
私の娘の癖に。
この事実からお前は何があっても逃れられないのに。
「あんなのの血があたしの体に流れているって思ったら、何か、もう……マジで止めてよ!ってなって……」
そのままマリは泣きじゃくった。
その時になってクラウスは、まるで硬いモノを拳で殴ったかのようにキールの手が傷ついていることに気付いた。
このおっさんが、頑なにルリアナの――彼女が産んだ娘マリへの面会要求を拒んでいたことも思い出した。
マリが『あたしを産んでくれた人にどうしても会いたい、お願いします』と土下座して言わなければ、キールは絶対に会わせなかっただろう。
仕切りの透明板か。
もしくは壁か……。
良く耐えたものだ。
僕だったら間違いなく殺していただろう、とクラウスは拳を握りしめた。
泣きじゃくるマリに戸惑っていたが、シルバーはちょっと考える。
それから、
「それは、違う。 わたしは、知っている」
はっきりと否定した。
「今のマリの血肉を形成したのは、パパであるキールの作った食事と、教育。 これが、事実では無いと?」
しゃくり上げながら、マリは頷いた。
「……ううん、事実だ。 そっちこそが事実だ! ありがとう、シルバー……!」
それっきり。
彼女は涙を拭ってから監獄施設を背中に回し、二度と振り返ろうとはしなかった。
◆
キールは隣を歩く娘の横顔を見下ろしながら、ふと気付いた。
この子は『まだ』15才だと思っていたけれど、『もう』15才なのかも知れないな。
願わくば、健やかに、これ以上傷つけられることなく幸せに――。
この子の幸せのためなら己はどうなっても良い。
だから。
どうか女神様、この子を守って下さい。
◆
やがて、マリはキールの手をぐいぐいと引いた。
「ねえ、パパ! お肉食べたい! うんと良いお肉! 泣いたらお腹空いた! みんなで焼肉パーティしたい!」
シルバーが即座に頷いた。
「焼肉は、賛成。 栄養摂取は、大事」
よし来た!
キールは二つ返事で快諾する。
「ああ、美味しいお肉を山ほど食べよう! うるさいから、飲んべえのケレミアちゃんのためにビールも冷やしておかないとな。 ――そうだ、クラウス君も食べていかないか? おじさんはこれでも料理は得意なんだ」
冷静にクラウスは呟いた。
「焼肉パーティの何処が料理なんだよ……」
「まあまあ、そう言わずにさー」
キールはここで『おっさん』っぷりを発揮した。
「あ、分かった。 クラウス君は料理をあまりしないんだな? だからって若い子が軍用携帯保存食ばっかり食べちゃ駄目だぞ!」
おっさんとは常に一言多くて鬱陶しい生き物である。
「あー……」
完全にしらけた冷たい目をして、マリが言う。
「パパってば、マジで本当にウザいんだから……。 だからおっさんって存在するだけで嫌われるんだよ。 ねえシルバー、クラウス、パパは後に置いていこう!
どうせ放っておいても後から追いついてくるでしょ」
そのまま3人は和気あいあいと行ってしまった。
若い子は時として残酷なのである。
「あ……」
置き去りにされたキールは、独りぼっちで言葉を失って震えていた。
――ややあって、天を仰いで彼は呟く。
「【聖女】のパパも楽じゃないなあ……」
END




