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聖女のパパも楽じゃない  作者: 2626


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第38話 エピローグ

 元大聖女ルリアナが収監されている監獄施設から出てきたキールとマリは、外で待っていたシルバーやクラウスが心配になるほど、暗い顔をしていた。


 「その……マリ。 大丈夫?」

 「シルバー!」


 真っ先にシルバーに駆け寄って抱きしめながら、マリは言う。

悲しいのか辛いのかは分からないが、今になってようやく涙が出てきた。


 「心配してくれて、ありがとう。 でも、大丈夫じゃない……かも。 ちょっと……うん。 どうしてあたしが生まれたのかとか、あの人の言葉とか、正直全部キツかった……」




 愛してやるからここから出してくれ。

 痛い思いをして産んでやったんだ。

 母親の私に逆らう気か?

 私の娘の癖に。

 この事実からお前は何があっても逃れられないのに。




 「あんなのの血があたしの体に流れているって思ったら、何か、もう……マジで止めてよ!ってなって……」

そのままマリは泣きじゃくった。


 その時になってクラウスは、まるで硬いモノを拳で殴ったかのようにキールの手が傷ついていることに気付いた。

このおっさんが、頑なにルリアナの――彼女が産んだ娘マリへの面会要求を拒んでいたことも思い出した。


 マリが『あたしを産んでくれた人にどうしても会いたい、お願いします』と土下座して言わなければ、キールは絶対に会わせなかっただろう。


 仕切りの透明板か。

 もしくは壁か……。

 良く耐えたものだ。


 僕だったら間違いなく殺していただろう、とクラウスは拳を握りしめた。




 泣きじゃくるマリに戸惑っていたが、シルバーはちょっと考える。

それから、

「それは、違う。 わたしは、知っている」

はっきりと否定した。

「今のマリの血肉を形成したのは、パパであるキールの作った食事と、教育。 これが、事実では無いと?」


 しゃくり上げながら、マリは頷いた。

「……ううん、事実だ。 そっちこそが事実だ! ありがとう、シルバー……!」


 それっきり。

彼女は涙を拭ってから監獄施設を背中に回し、二度と振り返ろうとはしなかった。



 キールは隣を歩く娘の横顔を見下ろしながら、ふと気付いた。


 この子は『まだ』15才だと思っていたけれど、『もう』15才なのかも知れないな。

 願わくば、健やかに、これ以上傷つけられることなく幸せに――。


 この子の幸せのためなら己はどうなっても良い。

 だから。

 どうか女神様、この子を守って下さい。



 やがて、マリはキールの手をぐいぐいと引いた。

「ねえ、パパ! お肉食べたい! うんと良いお肉! 泣いたらお腹空いた! みんなで焼肉パーティしたい!」

シルバーが即座に頷いた。

「焼肉は、賛成。 栄養摂取は、大事」

よし来た!

キールは二つ返事で快諾する。

「ああ、美味しいお肉を山ほど食べよう! うるさいから、飲んべえのケレミアちゃんのためにビールも冷やしておかないとな。 ――そうだ、クラウス君も食べていかないか? おじさんはこれでも料理は得意なんだ」

冷静にクラウスは呟いた。

「焼肉パーティの何処が料理なんだよ……」

「まあまあ、そう言わずにさー」

キールはここで『おっさん』っぷりを発揮した。


 「あ、分かった。 クラウス君は料理をあまりしないんだな? だからって若い子が軍用携帯保存食ばっかり食べちゃ駄目だぞ!」


 おっさんとは常に一言多くて鬱陶しい生き物である。


 「あー……」

完全にしらけた冷たい目をして、マリが言う。

「パパってば、マジで本当にウザいんだから……。 だからおっさんって存在するだけで嫌われるんだよ。 ねえシルバー、クラウス、パパは後に置いていこう!

どうせ放っておいても後から追いついてくるでしょ」


 そのまま3人は和気あいあいと行ってしまった。


 若い子は時として残酷なのである。




 「あ……」

 置き去りにされたキールは、独りぼっちで言葉を失って震えていた。

 ――ややあって、天を仰いで彼は呟く。


 「【聖女】のパパも楽じゃないなあ……」




                                              END

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