第17話 最強
『ぱぱぁああああああああああああああああああああ!!!』
【悪魔】は巨大化していた。
ノノーラ湖に出現した時とは比べ物にならない大きさだった。
『おいしぞおおおだよおおおおおお、ぱぱあああああああああああああああああああああ!!!』
【悪魔】の人間だった頃の名前はララ・ギボウ。
金さえ積まれれば誰でも殺してきた、名うての殺し屋だった。
彼女はある日、さる人物からハルビ公爵の暗殺を依頼された。
けれど標的が王都にいる時は警備も厳重で、とても近付けたものではない。
だから彼女は標的の警備が薄くなる時を狙って、ノノーラ湖までやって来たのだ。
すんなりと現地には入れたので、後は暗殺の瞬間を狙うだけのはず――だった。
「でさー、パパがマジでウザくってさー」
現地の学生と思しき少女達が、楽し気に喋りながら彼女の隣を過ぎていった。
「わかる! お小遣いはくれないのに、説教ばっかりだよね」
「ずるいよね、大人ってだけで威張っちゃってさ!」
普段のララなら『本当に生意気な子供だな』くらいで見過ごしてやれた発言だった。
だが、その時の彼女にはどうしてか気に障った。
ララは父親に暴力を振るわれて育った。
14になったばかりの時、その父親に襲われた。
咄嗟に父親を殺して以来、ずっと殺し屋として生きてきた。
ずるい。
私だってあのくらい自由に生意気が言えるような、そんな父親が欲しかったのに。
ララがそう思った瞬間、急に体が熱くなった。
熱い。
熱い。
焼けるようだ。
水が、ありったけの水が欲しい!
彼女は無我夢中で水を求めて走っていたが、気付けば、目の前一面が湖であった。
彼女は後先も何も無く、ノノーラ湖に身を投げた。
それからのことはララは覚えていない。
どうしようもなくひもじくて、常に渇いて飢えていて、『パパ』でお腹を一杯にしたい――。
今の彼女は、それだけである。
◆
『どうして!? どうして【魔災警報】が外れたの!?』
マリは焦っていた。
『ここに来なきゃいけないって、間違いないって、あたしも思ったのに……!』
彼女に比べて、まだシルバーは冷静だった。
『……詳細は、不明。 でも、たまにあること、ではある』
そこに【聖騎士】クラウスから通信が入った。
『シルバー様、マリ様、ここは王都の防衛を優先しましょう。 居残った連中は何もしようとしない無能ばかりだ。 あの連中に王都が守れるはずもない!』
『分かった!』
一行が急ぎ王都へ引き返していた、その瞬間だった。
『魔法レーダーに【機鋼魔兵】の反応を感知。 現在【悪魔】と交戦している模様』
マリの乗る機体『トワイライト』の【聖霊】『ナイチンゲール』がそう告げたのは。
誰だ!?
一行が遠距離対応のカメラへとモニターを切り替えた瞬間だった。
彼らの耳にも【悪魔】の絶叫が届いた。
モニターの中ではマジックワイヤーランスを自在に操る【機鋼魔兵】の一撃を受けた【悪魔】の巨体が、渡河中のエルディーベ河から追い出されるかのように岸辺に吹っ飛ばされていた。
通常の兵器は【悪魔】には通用しないが、【聖女】が力を与えた【機鋼魔兵】であればその力を削ぐことは出来るのだ。
『――あぁああああああああああああああああああああああああ!!!!』
【悪魔】の凄まじい悲鳴。
その悲鳴をかき消すように、容赦ない魔砲による追撃が【悪魔】の体を打ち砕いていく。
勿論、【悪魔】もただやられている訳ではない。
激しい魔砲の弾雨の中でも体を自在に変化させて、【機鋼魔兵】の機体を破壊しようと襲い掛かった。
しかし見事な操縦と高出力のブースター稼働により、【機鋼魔兵】の巨躯からは予想できないほどの鮮やかな動きで躱される。
躱しながらも、【機鋼魔兵】は攻撃の手を緩めない。
マジックワイヤーランスを突撃形態に変えながら繰り出す。
再び【悪魔】を王都から離すように吹き飛ばすことに成功。
『あれは……』
クラウスが息を呑んだ時、マリが明るい声を出した。
『パパだ!』




