第34話 ドラグーン・ノヴァ
【合体奥義】――
その名を初めて耳にしたのは、グランを仲間にした直後、魔王城でアストラル君と話していた時のことだ。
「【合体奥義】? なんなんだ、そのやたらとカッコいい響きは?」
アストラル君の口から語られたその言葉は、アルクロをプレイしてきた中でも初めて聞く名称だった。
だが、その響きだけで、俺の興味を引くには十分すぎた。
『はい、こちらは魔王様のみが使用可能な【八神獣】との合体スキルでございます』
返ってきた答えは、まさに期待通りだった。
魔王である俺と、アルクロにおけるモンスターの中で頂点の存在である【八神獣】、その両者が力を合わせて放つ、合体スキルなんてロマンがあるどころか――ロマンの塊、そのものだ。
その一言だけで、俺のテンションは一気に天井知らずまで跳ね上がっていた。
「ってことは、俺とグランが合体して技を撃てるってことか?」
『ええ、その通りでございます。【合体奥義】は、【繋絆の儀】によって配下に加えた【八神獣】が存在する場合にのみ、発動可能となります』
【天空竜王・グランディエル】との合体スキルか……一体どんなスキルになるんだろうか?
魔王とドラゴンだから、ブレスか?それともあのジェノサイドモードの角から発した全方位攻撃か?
何にせよ強力なスキルには変わりないだろう。
うーむ、今から使用するのが楽しみすぎるな……
そんなことを妄想している時に、一つの考えが頭に浮かぶ。
「ん?……ってことは、もしかして【八神獣】それぞれに対応した【合体奥義】があったりするのか?」
『ご明察でございます。【合体奥義】は全八種。それぞれの【八神獣】の特性を活かした、強力なスキルを発動することが可能でございます』
おお、ということは【八神獣】を配下に加えれば加えるほどに、【合体奥義】は増えていくのか。
その数は最大で八つ。
最終的には、俺は八種類の超必殺技ともいえるスキルを入手できるということか……
【合体奥義】を使う機会はいつになるだろうか?
よっぽどの強敵と遭遇しないと使うことはそうないだろうが……
まあ、その時を楽しみにしておこうか――
◆
うん、意外と早かったな。
たった今、その機会が訪れたってわけだ。
目の前では、アビスハウルの最後の悪あがきとも言える、影による一斉攻撃が猛威を振るっていた。
最前線では虎徹が大盾を掲げ、迫り来る影を真正面から受け止めている。
さらに戦斧を振るい、押し寄せる影を次々と叩き落としていた。
だが、それでも全てを防ぎ切ることはできない。
防ぎきれなかった影は後方へと流れ込み、それをギガ林と獅音が即座に迎撃する。
連携は崩れていないが、押し込まれているのは明らかだ。
そのさらに後方では、ショコラは相変わらずの精密射撃で、飛来する影を次々と撃ち抜いている。
無駄のない動きで確実に数を減らしているが、物量の差は歴然だった。
そしてヴァイオレットもまた、モーニングスターを振るい、迫る影を叩き潰している。
回復だけでなく攻撃にも転じた今、その一撃一撃が確実に戦線を支えていた。
だが、それでもなお、押し寄せる影は止まらない。
俺とグランがそこに加わったとしても、この無尽に湧く影の攻撃にいつか押し切られてしまうだろう。
「おい! 何かやるなら、早くしてくれ!」
「このままじゃ、全員やられちゃうニャー!」
仲間たちが必死で抵抗するが、それも時間の問題なのは間違いない。
ということは、やはりさっさとやるしかないな。
「グラン……すぐに【合体奥義】を使うぞ」
『ああ、心得た』
俺は、グランとの【合体奥義】を使用する決意を固め、アビスハウルへと視線を向けた。
現在、アビスハウルの姿は見えない。
その代わりに存在するのは――天を衝くように立ち上る、巨大な影の柱。
螺旋を描きながら渦巻く闇の奔流が、周囲の空間すら歪めている。
姿こそ見えないが、間違いなくあの中心に、アビスハウルはいる。
そして、その影の柱からは、無尽蔵とも言える勢いで攻撃が吐き出され続けていた。
「やるぞ、グラン! 【合体奥義】!」
『おおう!』
俺の呼びかけに応えるように、グランの身体が変化を始める。
頭頂部から、巨大な角がせり上がる。
それは、かつて俺たちが戦った際に見せた、あの最終形態の証――全方位に破壊を撒き散らした、あの厄介極まりない姿だ。
――だが、今回は違う。
俺は一気に跳躍し、グランの頭部へと飛び乗ると、そのまま、伸び上がった角へと剣を当てた。
グランが翼を大きく広げ、角に魔力を集中し始めると、膨大な魔力が、俺の剣へと流れ込み凝縮されると、漆黒の光が、剣から溢れ出した。
グランが持つ圧倒的な量の魔力が一気に俺に流れ込んでくるのがわかる。
そうか……これが、俺とグランの【合体奥義】か――
俺は、一瞬の集中の後、全力で力を解放する。
「いっくぞぉおおお! 【ドラグーン・ノヴァ】!!」
臨界に達した剣の切っ先から放たれたのは、黒雷を纏った一筋の閃光――
漆黒のレーザーとでも呼ぶべき、極限まで凝縮された魔力の奔流だった。
一直線に、すべてを貫く軌跡でアビスハウルへと突き進む。
「うぉおおおおおおおおおおお!!!!」
凄まじい反動と出力が俺を襲う。
気を抜けば、そのまま後方へ弾き飛ばされかねない。
全身に力を込め、歯を食いしばりながら、俺はその一撃を制御する。
そして、放たれた閃光は、そのままアビスハウルを包み込む影の柱の根元へと直撃した。
轟音と共に、黒雷の奔流は一切の抵抗を許さず、影の柱を真正面から貫通する。
「――まだだぁッ!!」
俺はその勢いのまま、剣を天へと跳ね上げた。
それに呼応するように、切っ先から放たれ続けている漆黒の閃光が、軌道を変えながら上へ向かい、縦一閃に影の柱を切り裂いていく。
天を衝いていた巨大な影の柱は、その一撃によって完全に真っ二つに断ち割られた。
『ガァアアアアアアアアアアアッ!!!!』
次の瞬間――断末魔にも似た、凄まじい狼の咆哮が周囲に響き渡る。
その先に立っていたのは、肩口から先を無残に断ち切られたアビスハウルだった。
その肉体はほとんど半壊し、もはや満身創痍と呼ぶほかない有様だ。
「やったか……?」
並のモンスターであれば、この時点で勝負は決しているだろう。
だが、相手はモンスターの頂点に君臨する存在――伝説級の【八神獣】。
最後の最後まで、油断はできない。
警戒を解かぬまま、ゆっくりと距離を詰めていく。
『……ここまでやるとはな』
先ほどまでの激昂が嘘のように、アビスハウルは無表情のまま低く呟いた。
その姿からは、もはや戦意は感じられない。
全ての力を使い果たし、これ以上戦う余力が残っていないことは明白だった。
『俺の……負けだ……』
静かに、しかし確かに、敗北を認める言葉が紡がれる。
【八神獣】が一柱【魔影黒狼・アビスハウル】との戦闘に終止符が打たれた瞬間だった。
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