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どたばた校外学習①

暖かい日差しが差し込む心地よい朝、教室の自分の席に座るアルナはぼんやり物思いにふけって窓の外を眺めていた。


(フェアリーフラワーが無事に咲いて安心したけど、花が咲いてから、はなちゃん何だか元気がないのよね。理由を聞いても教えてくれないし、心配だな…)


「おはよう!アルナー?聞こえてる?」


アルナの目の前で手がひらひら動き、アルナははっとしてシェリーを見た。


「おっ…おはよう、シェリー!気づくの遅くてごめんね」

「最近なんだか気もそぞろね。何かあったの?話聞いて欲しかったから、聞くわよ」

「何もないから大丈夫!少し寝不足なだけだから」


無理に笑って答えるアルナをシェリーは心配そうに見つめると、何かを思いついたのか、にっこり笑った。


「そういえば、アルナ覚えてる?今度、1年生全員参加の泊まりの校外学習があるって先生が言ってたでしょ?」

「校外学習?そういえば先生言ってたような…」

「話あんまり聞いてなかったのね。その校外学習の場所が決まったみたいよ。場所は『ルーチェの森』なんだって!」


アルナはピクっと反応して嬉しそうに笑うと椅子から立ち上がった。


「あの王国が管理してる、『ルーチェの森』?私、そこに一度行ってみたかったの!珍しい魔物や植物を保全してるんだよね。すごく楽しみになってきた!」


アルナがキラキラとした目でシェリーを見ると、シェリーは微笑んだ。


「私もみんなでお泊まり学習なんで初めてだから楽しみよ。それにしてもアルナが元気でたようで安心したわ」

「あ…シェリー気遣ってくれたの?」

「アルナが元気ないと私も元気がでないもの。まあ、心配してるのは私以外にもいるみたいだけど」


シェリーはちらりと教室の窓側を見た。

アルナもつられてそちらを見ると、ロナウドとエドガー、リオの3人がいて、アルナはエドガーと目があったが、目を逸らされてしまった。


「…変なの。何でこっち見てたのよ。」

「うふふ、正直じゃないんだから」


不思議そうな顔をするアルナの隣でシェリーはくすくす笑った。

その日のホームルームでは担任の男性教師トンプソン先生が教壇に立ち、説明を始めた。


「今度の校外学習だが、『ルーチェの森』で行うことが決まったぞ。それに伴い、各自男女混合の6人グループを作って、明日先生にメンバー表を提出してくれ。そのグループで校外学習中は基本活動するからな」


トンプソン先生の説明が終わっていなくなると、生徒達は内々に相談を始めた。


「6人グループか。私とシェリーとリナで3人だからあと3人ね。男女混合だから男子を1人は誘わないといけないね」


アルナ達が周囲を見渡していると、クラスメイトの男子生徒の3人組が声を掛けてきた。


「あのさ、俺達と組まない?ちょうど俺らも3人なんだよ」

「ほんとだ。ちょうど6人になるしいいかも!シェリーとリナはどう?」

「私は別に問題ないよ。シェリー様は?」

「そうねえ。私は別にいいのだけど、彼がなんて言うかしらね…」


シェリーの歯切れの悪い返事にアルナが首を傾げていると、男子3人組はぐいぐいと詰め寄ってきた。


「じゃあ組むってことでいいかな?俺達、前からハーストン嬢達と交流したかったんだよね。よろしく…ひい!」


アルナ達の背後を見た男子生徒が悲鳴をあげると同時にアルナの背筋に寒気がはしった。

アルナが振り返ると、そこにはロナウドとエドガー、リオの3人組がいた。


「ごめんね。僕達が先約なんだ。他の子をあたってくれる?」

「ロナウド様!ははは…他の子探してきます!」


ロナウドの圧に声をかけてきた男子生徒3人組は萎縮して走り去っていった。


「ロナウド様ったら怖がらせたら駄目ですわ。来てくださるかなとは思っていましたけど」

「だって、あいつらあからさまにシェリー達狙ってたからね。ああいう虫は早めに追い払っておかないと」

「怖っ!ロナウド殿下、虫って一応クラスメイトだぞ?」


「リオ、ロナウド殿下はシェリー様にそれだけ一途ってことよ。こうなると、他の男子生徒は組もうなんて言ってこないだろうから、このメンバーで決定かな。人数はリオ達3人を加えて6人ぴったりだしね」

「え?リナ、ちょっと待って!それはちょっと…」


アルナが声をあげようとした時、誰かが背後に立ちアルナの肩に手を置いた。

アルナは寒気が止まらず、ゆっくり振り返ると、そこには背後から瘴気を出した、不機嫌そうなエドガーがいた。


「お前、『いいかも!』じゃねえだろ?俺が前言ったこと忘れたか?他の男に隙見せんなって言ったよな?」

「ただクラスメイトと親睦深めようとしただけでしょ?もう!校外学習もエドガーと一緒なの?また振り回されるじゃない!」

「それはこっちの台詞だ。校外学習中はちょこまか動き回らずに大人しくしとけよ」


アルナとエドガーが騒ぐ中、他のメンバーで先生に提出するメンバー表を埋めていった。


「うふふ、このメンバーで校外学習なんて本当に楽しみね」


シェリーはにこにこ笑った。



*********



校外学習に行く前日の夜、アルナは明日の準備をしていた。


「校外学習の荷物はこれでよしっと!あとはこれもやっと完成したから持っていってエドガーに渡そうかな。」


アルナの手には、エドガーから依頼されて作った、キラキラ青く光る『結界石』があった。


「魔物との戦闘訓練の課題もあるって聞いたし、役に立つかもしれないしね。」


『結界石』も荷物に詰めていると、はなちゃんが寂しそうにじっとアルナを見つめていた。


(あ、そっか!はなちゃんと2日間離れちゃうことになるのか。最近のはなちゃん様子がおかしいから、置いていくのは心配だな…。あ!そうだ!)


「はなちゃん?2日間ぐらいならフェアリーフラワーから離れても問題なかったりする?」


【ふつかかん? よくわからない けど いまのはなのようすなら よる5かいぐらい はなれられる】


「夜5回ってことは5日間だから大丈夫だね。それなら一緒に校外学習行こっか!みんなから見えなくなる魔法をはなちゃんが使えば、問題ないはずだしね!」


はなちゃんは嬉しそうに羽をパタパタさせてこくりと頷いた。


次の日、ルーチェの森に到着したランドル魔法学園の1年生達は初めての校外学習に気持ちが高まっていた。

アルナもその1人であり、アルナの制服のポケットには、はなちゃんが入って顔だけ外に出していた。ルーチェの森の入口で集まった1年生達はグループごとに整列して、引率の先生の話を聞いていた。


「校外学習では『ルーチェの森』の見学後、植物採集の課題と魔物との戦闘訓練を予定している。引率の先生の言うことはよく聞くように。引率の先生の紹介をしていくぞ」


引率の先生の紹介が生徒達の前に並ぶと、女子生徒が騒ついた。


「あら?あんなかっこいい先生いたかしら?初めて見たわね?」

「本当だ!あの赤髪の先生、誰?かなり若そうだけど...。」


(シェリーとリナ、誰のこと言ってるんだろ?赤髪の先生ってどの人?え…?何でここにいるの?)


アルナが驚いて赤髪の青年を見ていると、先生の自己紹介が始まり、赤髪の先生は話し出した。


「ノエル・ラミレスです。普段はハーストン大病院で魔法医として働いていますが、今日は臨時で保険医として、引率します。怪我をした時などは俺のところに来てください。」


女子生徒達がキャキャと騒いでいる中で、ノエルはアルナと目があうと、手をヒラヒラ振ってきた。

アルナは手を振り返すと、寒気を感じて体を震わせた。


(この寒気の感じは瘴気によるもの!ということは…)


アルナは後ろを振り返ると、眉をひそめたエドガーがいた。

アルナは小声でエドガーに話しかけた。


「ねえ?瘴気(それ)でてるんだけど、なんとかならない?寒気がひどいんだけど…」

「止められたら苦労しねえよ。それよりもノエルって聞き覚えがあるんだか…。さっきお前あいつに手を振ってたようだし、もしかして、あいつが前言ってたお前の幼馴染か?」

「う、うん。そうだよ。それがどうしたのよ?」

「へーあいつがキスマークの奴ね…。こんなところで会えるとはね」


エドガーはそう言うと、じろりと前に立っているノエルを見た。


(ひぃ!瘴気がすごい勢いででてる!苛ついてる理由は分からないけど、この様子だと、ノエルとエドガーを会わせちゃ駄目な気がする!なるべく2人が出くわさないようにしないと…)


アルナはハラハラとエドガーとノエルを見つめていた。

だが、アルナの懸念していたことは早々に起きてしまった。


「Aクラスの引率の先生は担任の俺と保険医のラミレス先生だ。これから森で保全している魔物と植物の見学をするぞ。お前ら、ラミレス先生の言うこともちゃんと聞くんだぞ!」


トンプソン先生の声掛けに生徒たちは返事をした。

心なしか、女子生徒ははしゃいでいるようだった。


「やった!イケメン先生の引率なんてラッキーだわ!あれ?アルナ、なんか寒そうだけど大丈夫?」


リナは心配そうに腕をさするアルナを見た。


(ノエルが引率になってから、エドガーの瘴気の発生が止まらない!おかげで寒気もおさまらないよ…。もうちょっと厚着してくるんだった)


「少し寒気がするだけだから、大丈夫!」

「寒気?こんな暖かいのに?熱でもあるんじゃない?そうだ!ラミレス先生に診てもらおう。ラミレス先生、来てくださーい!」

「あ、リナ!呼ばないでいい…」

「どうしたんですか?って、アルナお嬢様じゃん?何?体調悪いの?」

「少し寒気がするだけよ。というか、ノエル、今先生なんだから口調気をつけないと!」

「ハーストン大病院から派遣されてるのは、生徒に周知されてるから、別に俺がハーストン一族のお嬢様とフランクに接してても問題ないでしょ?それより熱測るからこっち来なよ」

「だから、寒気の原因は熱とかのせいじゃなくて…。とりあえず大丈夫だから放っておいて」

「お嬢様、無理する癖あるからな…。念の為、確認するよ」


そう言うとノエルはアルナに近づき、アルナの額に手をあてた。


「熱はないみたいだね。分析魔法をかけても…特に異常なしと。確かに風邪とかではないね。とりあえず寒いんだったら、今は俺の白衣羽織っとけば?ほら?」


ノエルが白衣を脱いでアルナに差し出した。

アルナが白衣を受け取るか悩んでいると、背後から誰かが近づき、肩にブレザーをかけられた。


「寒いならそれ着とけ。」

「これエドガーの制服…。いいよ、エドガー寒いでしょ?」


アルナが慌てて、ブレザーを返そうすると、エドガーが小声で話しかけてきた。


「どうせその寒気は俺の瘴気(これ)のせいなんだろ?大人しくそれ羽織っとけ」

「なんか悪いし、ノエルの白衣借りるから…」

「あいつの白衣なんか着たら、またキスマークつけんぞ」

「え?なんで!」


アルナがエドガーを見るとエドガーから有無を言わせない圧を感じ固まった。


「……じゃあ有難く着ときます。エドガー、ありがとう。ノエルもありがとうね。白衣はなしでも大丈夫だから」


アルナはエドガーのブレザーに腕を通した。

ノエルは黙って白衣を羽織り直すと、エドガーをちらりと見て、アルナの方に向き直った。


「お嬢様、優しい友達がいて良かったね。本当に体調が悪い時は俺のところ来なよ。お隣のお優しい友達じゃあ対処できないだろうからね」


ノエルは一瞬エドガーに冷たい目線を向けると、アルナの方に向きなおり、アルナの頭を撫でると離れていった。


「あいつ、敵意隠す気なしかよ…」

「ねえ、エドガー?」

「あ?なんだよ?」

「エドガーって身体大きいのね。ブレザーがブカブカだわ。おかげで暖かいから助かるんだけどね」


アルナは長すぎて余った服の袖をひらひらさせながら、嬉しそうに笑った。

エドガーは急に真顔になり、アルナを見つめた。


「……」

「何?こっちじっと見て」

「かわ…いや、お前が小さすぎんだろ...」


顔を背けたエドガーの耳は赤くなっていた。


(ん?寒くない?瘴気が出るの止まった!なんで?)


アルナはエドガーを不思議そうに見つめるのだった。

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