2-6 異世界転移動画の注意喚起
午前中の時限を終えた生徒たちは、食堂へ群れになって流れ込んでいる。
武、錠、赤松たちもその流れの中で、選択式のメニューを選んでいた。
「僕は鶏肉にしようかな! どうする?」
メニューを楽しそうに選ぶ錠が二人に聞いた。
「俺は牛肉だな」
赤松に続いて答えることなく、武の視線は斜め上を向いていた。
「武?」
「え? あ、牛肉かな」
「ふーん、人生には選択がつきものだね〜、武君」
「な、何が言いたいんだよ」
「両手に花で羨ましいなーって」
愉快そうな顔をする錠の横で、赤松が振り返った。
「武、どっちかに並ばないと」
「え? あ……」
メニューの選択で列が枝分かれする場所で、武は真ん中に立っていた。
急いで並んでいる赤松の後ろに立つと、隣の列の錠が横に並んだ。
「いやー、我が姉様と瑛美ちゃんを天秤にかけるとは、さすがですな」
「そんな意味じゃないって」
「とは言ってもデートはデートでしょ?」
「だったらジョーも一緒に来てくれよ」
「僕は二人のご希望のお邪魔をすることはできませんしー!」
錠はそのまま自分の配膳の列に流れていった。
「錠に面白がられているな」
「全く。俺だってびっくりしてるのに」
武と赤松が牛肉の配膳を手に取り、テーブルに向かう。錠と合流して席についた。
三人は食堂内に設置されているテレビの近くの席に座った。
テレビには世間の地上波ではなく、ヤマト機関内向けに放送されている番組が映し出されていた。
番組のキャスターは、スサの国と葦原の国の社会交流を円滑にするために設置が発表された空間出入管理機構について報道していた。
━━これも原始超人による指示なのか。
武は、ヤマト機関と日本政府による共同組織の裏に原始超人の意図があるのではないかと考えながら見ていた。
やがてニュースが切り替わると、ヤマト機関の報道局としては珍しく、おのごろ島の外のニュースが報じられ始めた。
「ええっ!!!」
画面に映し出された見出しテロップに、錠が驚いて声を上げた。
━━「異世界へ転移する動画」が動画サイト上で公開される。
「本当に転移できる動画ができちゃったの……?」
武は、胸の奥がざわつくのを感じた。
武も赤松も含めて、ニュースを目にする者たちは驚いた様子で画面を見つめていた。
「このニュース、外では報道されていないよね?」
「そうだな。
おそらくこれはヤマト機関外では情報統制されているな」
武の問いに赤松は冷静に答えた。
「その動画を再生しちゃったら、どこへ行っちゃうんだろう」
報道の中で転移先は示されておらず、わかっているのは、その動画を再生した人間が葦原の国から転移してしまうということだけだった。
「これはまた大事になりそうだな」
「最近まで再生数狙いで適当な嘘を言う動画が出回っていたけど、興味本位で見てみたら本当に転移してしまう動画を見てしまう可能性があるってことだよね……」
━━三上と伊藤に伝えたいけど……。
武は三上と伊藤のことを思い浮かべた。
もし自分のスマホから連絡をした場合、何らかの検閲に引っかかる可能性も考えられる。
━━直接会って話すしかない。
固唾を飲んで報道を見る武の顔色を、錠は心配そうにうかがっていた。
三人は食堂を後にし、教室へ戻る廊下を歩いていた。
「物部!」
松岡の声がして武が振り返った。
「先ほどの外部の人間と面会したい件だが、許可申請を出せることになった」
「本当ですか?
ありがとうございます!」
「その面会希望者の情報で許可申請を提出してもらう。
申請様式を物部の端末に送るので、それを私に提出するように」
「わかりました。
いただき次第提出します」
武が松岡に礼をすると、松岡はそれに応えて足早に去っていった。
「松岡教官がヤマト機関に通してくれたみたいだな」
「良かったね! これでお友達に会えるし……」
錠は言葉の途中で武に顔を近づけた。
「あの件を注意してあげられるね」
声量を落として武に言った。
「ありがとう……!」
「まあ、上手くやるんだぞ。
焦らずな」
赤松の優しい言い方に、武は安心した顔をした。
松岡が去った後でも、廊下にはにじむような暑さが残っていた。
武がおのごろ島に来てから、夏が訪れようとしていた。




