1-24 確認
武たち三人と鬼との戦闘は、超人の学生たちの活躍として世間でニュースになった。
メディアは超人の学生隊による鬼退治として報道しインタビューこそは果たせなかったもののその三人の姿を映像として捉えていた。
魔鬼による襲撃が武を狙ったものであったが、ヤマト機関は警備任務の危険性を踏まえて学生隊に五人一組で車両による警備を行わせることにした。
そして襲撃に遭遇した三人には二日の休養が与えられた。
武は軽傷を負っていたがククリの力による治療によりその日のうちに身体的なダメージは回復していた。
襲撃から二日目の朝。
武たち三人は食堂で朝食を済ませた後、部屋のリビングでテレビに流れるニュースを見ていた。
「あー。……写っちゃってるね」
「これは仕方ないな」
三人の姿はカメラにはっきりと映っていた。
「ネットでも盛り上がってるみたいだ。
記事も掲示板もすごい数だよ」
武がスマホを操作しながら言う。
「これ根の堅洲国のクウォーターである僕が写ってるのややこしくならないかな」
「確かに……。
もう一度富樫局長に会見してもらう必要があるかもな」
神妙に眉をひそめる赤松に武が乗っかった。
「イケメン来栖錠特集! とか?」
「冗談言ってる場合じゃないよ」
錠は苦笑しながら二人を制した。
「なあ、ジョー。
根の堅洲国ってどうやって行き来してるんだ?」
武が尋ねる。
「ヤマト機関が管理をしている根の堅洲国に通じる黄泉比良坂がある。
そこを通れば向こうにも行けるしこっちにも来れる。
この島にはスサの国と行き来する駅があるよ」
「駅?」
「黄泉比良坂はただ歩いて行くわけじゃないんだ。
用意された空間に待機すると異世界に到着する。
まあ交通手段みたいなものだね」
「ちなみにその装置はジョーの実家の会社が関わってるんだよな」
赤松が補足する。
錠の家は人間社会では財閥の一つとして知られていたが、歴史の裏ではヤマト機関と深く協力していた。
来栖家の企業集団はスサの国にも複数の企業を保有していた。
その出自もあってか錠と瑛理子にはまだ十代ながらどこか品のある雰囲気があった。
「じゃあ、ジョーや瑛理子さんの家がこの島の設備にも関わってるってことか」
「うん、そうなるね。
もしククリの力の公表が僕が大人になってからだったら今頃大変だったと思うよ」
錠は家の様子を思い出したのか肩をすくめた。
「落ち着いたらさ今度、武にこの島の街を案内するよ」
「いいな。
武、こないだの土日は身体検査ばっかりで外に出られなかったもんな」
「ありがとう。
その時は頼むよ」
三人にとって束の間の余暇を過ごる休息日となっていた。
首都圏で行われていた掃討作戦の影響で学院の課業は中止されていたので他の生徒と教室で顔を合わせることはなかったが、寮の部屋には鬼との戦闘について話を聞きに来る生徒が後を絶えず、食堂でも声をかけられることが多かった。
日が暮れて夕食を終えたあと三人は男子寮の大浴場へ向かった。
「なんかさ……修学旅行みたいだな」
武がぽつりと呟く。
「慣れるまではそんなもんだな」
赤松が応じる。
錠や武も超人としての力を裏付ける筋肉を備えているが、赤松は体格が良く筋肉量で大浴場でも目立っていた。
寮の浴場は広く壁一面に並ぶシャワー、三つの大きな湯船、さらにサウナと水風呂が完備されていた。
強度の高い訓練を想定し身体ケアを重視した設備が整っていた。
三人は身体を洗い湯船に浸かる。
武は湯に肩まで浸かりながら自分の左腕を持ち上げじっと見つめていた。
「どうしたんだい?」
錠が声をかける。
「鬼と戦ってさ……。
この力を手に入れたのが、つい最近だってことがまだ信じられなくて」
「実感がない、ってこと?」
「多分……」
「僕は物心ついた時からこんな感じだったからなあ」
超人の覚醒はククリの力を認識することをきっかけに起こる場合がある。
錠の育った環境はまさにそれだった。
「赤松は?」
「俺は覚醒した時に病気になった」
超人としてククリの力を取り込む際、高熱を発する例がある。
現代医学では原因不明の難病とされていたが、ヤマト機関はこの症状を超人覚醒の一例として把握していた。
「その時はどうにかしたい一心だったからな。
参考にならなくてすまん」
「いや! そんなことないよ!」
「自分の覚醒が気になってるんだね?」
「うん……」
武は再び自分の腕を見つめた。
錠がその武の様子をじっと見てから言った。
「よし。
そろそろサウナ行こう」
「早くないか?」
「今誰もいないしさ!」
三人はサウナと水風呂を交互に利用し浴場を後にした。
部屋に戻りリビングでくつろいでいると武のスマホが震えた。
前の学校の友人━━三上からのメッセージだった。
「ちょっと屋上通路に行ってくる」
そう言って武は連絡棟へ向かう。
屋上に出てからスマホを見たが武は返信に迷った。
昨日、松岡から言われた言葉が頭をよぎる。
━━写真が報道された以上、知人との接触、連絡のやりとりには十分注意しろ。
武は海の方角を見つめ一息ついてから短いメッセージを送った。
━━今度、会って話そう。
そして、胸に残る違和感を意識する。
超人としての覚醒。
確かに鬼に襲われたあの日に変化はあった。
だが、その前にも何かがあった気がする。
五年前の地殻変動。
なぜ自分だけが生き残ったのか。
武は康彦から託された勾玉を取り出して雷のような模様を見つめた。
「武君?」
振り返ると瑛美が立っていた。
風呂上がりの髪が月明かりを受けて輝いている。
「瑛美さんどうしてここに?」
「お風呂に行ってきたんだけど涼もうと思って。
武君は?」
「本当は電話をしにきたつもりだったんだけどやっぱりダメだと思って……」
「前の学校の人?」
「だけど今はやっぱり電話はできないな。
話すことも多いし聞かれることも多いだろうし」
「……そうだよね」
「うん」
「もしかして他に何か気になる事がある……?」
「え?」
「武君考え込んでいそうだったから……」
武は正直に話そうと思った。
「自分が超人になった時がよくわからなくて」
「超人になった自覚のこと?」
「うん、確かに最初に鬼に襲われた時なんだけどなんかその前からのような気もして……。
もっとご先祖様と話しておけばよかったよ」
武は勾玉を見ながら言った。
「その勾玉は?」
「あ、これ」
武は瑛美に勾玉を見せた。
「綺麗……」
「あら、武君?」
そこへ瑛理子が合流する。
瑛理子の目にも勾玉が入った。
「私も見ていい?」
武に近づいて瑛理子は言った。
風呂上がりの瑛理子は服のボタンを留めきっておらず鎖骨のあたりの肌がわずかに覗いていた。
武はとっさに目を逸らした。
「これはどこで……?」
「高天原でご先祖様から頂いたんだ」
「……大切なものなのね。
武君。
きっとご先祖様は今も見守ってくれているわ」
「ありがとう」
武は丁寧に勾玉をしまった。
「そろそろ錠と赤松が待っているから帰るね」
「ええ。じゃあね武君」
「またね、武君」
武と言葉を交わした瑛美と瑛理子は武の背中が見えなくなるまで黙って見送っていた。
「……あの勾玉、何か感じなかった……?」
瑛美が確かめるように瑛理子に言った。
「ええ。
武君のご先祖様は何かを託したのよ。
そしてそれに応えるかを決めるのは武君よ」
瑛美は祈るように胸の前で手を重ね合わせた。




