1-14 両親
車が学校の敷地に到着し、武と竹中は車を降りて施設へと入った。
竹中に案内されて面談室に通された武は、しばらくして戻ってきた竹中の後ろに、両親の姿を見つけた。
「父さん!
母さん!」
思わず声が出た。
「武。
すまなかった」
父━━物部 由紀夫が言った。
「俺たちのことを話さずにいた。
それに、お前が超人であることに気づかず、ヤマト機関に報告できなかった」
「でも、これはしょうがないよ。
それに、俺は大丈夫だし」
両親の表情には、息子に対する強い後悔が浮かんでいた。
武が襲われたことを、自分たちの責任だと思っているのだろう。
それでも武は、二人を責めることはしなかった。
短い沈黙のあと、竹中が口を開いた。
「急なことになりましたが、今回は武さんと、ご両親の身の安全を最優先とさせていただきました」
武が鬼に襲撃された際、直接救出にあたったのは白狼だった。
だが同時に、ヤマト機関は両親の確保にも動いていたのだ。
「今後は、武さんをヤマト機関が保護します。
そのため、夢の島内に設置された教育機関━━金鵄夢の島学院へ入学し、学生隊の寮に入ってもらいます」
説明を受け、由紀夫が続けて言った。
「武。
こうなった以上、ヤマト機関の施設にいるほうが安全だ。
今の俺たちは……お前はおろか、自分の身を守る力すらない」
由紀夫たちはすでに、以前住んでいた家を引き払い、夢の島内へ移り住んでいた。
武は、もう元の生活には戻れないのだと、改めて実感する。
由紀夫が家族だけで話す時間を求め、竹中は部屋を後にした。
武は、鬼に襲われてからの出来事を語った。
白狼に救われ、高天原へ行ったこと。
康彦から、鬼と戦うための術を学んだこと。
そして一郎が、鬼に囚われたこと。
一郎が原始超人であることには触れなかった。
一郎の名が出ると、両親ははっとした表情を見せた。
その沈黙を破ったのは、由紀夫だった。
「……お前の友達の一郎君のこともな。
黙っていたことを、謝らなくてはいけない……。
本当に、すまなかった」
由紀夫は、視線を落としたまま続けた。
「そして一郎君については、
どうしても話しておかなければならないことがある。
一郎君のお父さんは、俺が十五の頃からの友人で、ヤマト機関で一緒だった」
由紀夫は続ける。
「それに……もっと驚くかもしれないが、
一郎君の母親は、鬼の女性なんだ」
「……一郎のお母さんが?」
思わず声が出た。
鬼と人間の間に生まれる存在――人魂の話は、すでに康彦から聞いている。
「それじゃあ……一郎は人魂だったの?」
「ああ。
私も知っている。
確かに一郎君は人魂だ」
武は言葉を失った。
「一郎君の家族は、幼稚園までは東京で暮らしていた。
だが母親が体調を崩し、根の堅洲国へ移り住んだ」
「その後、母親は亡くなり……
十一歳の時に、父親の鬼塚宣之が病に倒れた」
母が静かに付け足す。
「根の堅洲国と芦原の国の行き来には制限があるの。
子供一人で来ることはできないわ」
「鬼には多くの一族と国がある。
一郎君の母親は、その中でも王家の血を引く出自だったそうだ」
由紀夫は言葉を選びながら続けた。
「宣之が病に倒れてからは、その国に引き取られたと聞いていたが……
まさか、誘拐されるとはな」
両親の口から、「原始超人」という言葉は出なかった。
━━ご先祖様の言いつけは、親に対しても例外ではない。
武は、一郎の正体については語らなかった。
だが、胸にある決意だけは伝えた。
「……俺は、一郎を助け出す」
家族の面談が終わり、親子で部屋を出ると、待機していた竹中が姿を現した。
「気をつけてね、武。
必要なものがあれば、すぐに寮へ送るわ」
「何かあったら、すぐ連絡するんだぞ」
「うん。
わかった」
武は落ち着いていた。
だが心の奥では、拭えない違和感が渦巻いていた。
親を含めたヤマト機関の人間と、原始超人の存在が、どうにも噛み合わない。
竹中に引率され、武は歩き出す。
振り返り、両親に手を振った。
二人は、武の姿が見えなくなるまで、その背中を見送っていた。
涙を浮かべながら、ただ祈ることしかできなかった。




