1-12 人狩八十八鬼衆
武が襲われた日から五日後。
埼玉県で、再び容疑者不明の殺害事件が起きていた。
現場の状況は、これまで続いてきた事件と同じく、人間業とは思えないものだった。
遺体には強烈な打撃を受けた痕跡が残されており、何者かに殴打されたことは明らかだったが、それは常識では考えられないほどの衝撃だった。
だが、不幸なことに、警察の中には鬼の存在を知る者は一人もいなかった。
島の出現によって引き起こされた地殻変動は、首都圏のインフラを一時的に麻痺させたものの、復旧は順調に進み、建設業者はかえって多忙を極めていた。
そして、その首都圏の片隅に、鬼たちは潜んでいた。
人目の届かぬ場所に複数の拠点を持ち、計画に応じて構成員の配置を変えている。
都内某所。
暗闇の中、鉄製の何かに腰を下ろした鬼が、小さな灯りに顔を照らされていた。
肩幅は異様に広く、全身が巨大であることを予感させる体躯だ。
「待たせたな、猪幡」
暗がりの奥から、もう一体の鬼が姿を現した。
「おう。
久しぶりだな、魔鬼。
……あんな感じでよかったか?」
「ああ。
上出来だ。
その自慢の拳で、ぶん殴ってやりゃあいい」
「なあ……
篭鬼がやられちまったってのは本当か?」
「ああ。
いきなり、おっ死んじまった。
くそが」
二体の鬼は、武を捕らえようとした集団のリーダー。
篭鬼の名を口にした。
「篭鬼をやったのはガキなんだろ?
そのガキの居場所は、もう掴んだのか?」
「いや、まだだ。
おそらく、もうヤマト機関に匿われている」
「しかも、物部のガキだって話じゃねえか」
「ああ。
ちょくちょく出てきやがる。
気に入らねえ名前だ」
「……それにしても、篭鬼がやられるとはな」
「そのガキ、ただの腰抜けじゃねえ。
最初は怯えて逃げたかと思えば、二鬼を地面に叩きつけた。
捕まって油断させてから、全員まとめて殺しやがった」
篭鬼は武を捕らえた際、部下の一鬼を伝令として魔鬼のもとへ向かわせていた。
だが、その伝令は白狼の救援を知らない。
「まあいい。
お前がこの計画に加わってくれたのは、ありがてえ」
「俺の仲間も、この話には興味を示してる。
そいつらも連れてきたい」
灯りに照らされ、魔鬼の顔がはっきりと浮かび上がる。
赤い肌。
横に長い顔。
大きな頭。
魔鬼は嬉しそうに猪幡の手を取り、がっしりと握った。
篭鬼や魔鬼が率いていた鬼たちは、同じく横に長い顔と大きな頭部を持っていた。
一方、猪幡は青い肌をしているものの、顔立ちは小さく、人間との差異は眉間の深い皺と、頭に生えた角くらいのものだった。
人狩八十八鬼衆。
五年前、葦原の国に潜入し、人間を狩る目的で組織された鬼の集団で、この二鬼が属していた。
当初の構成員が八十八体だったことから、その名で呼ばれるようになった。
篭鬼と魔鬼は初期からの構成員。
猪幡は、魔鬼に呼ばれて参加した新参だった。
「篭鬼を殺した物部武を、必ず殺す。
頼むぜ、猪幡」
「ああ。
篭鬼を弔ってやろうじゃねえか」
武の帰還を待ち望んでいるのは、人間だけではなかった。




