104:家を出るシオと自分の気持ちを考えるオモチ
――例の本は表紙だけ見て、中は読まなかったよ!
……ていうか佐藤に読ませたら全拒否されたけど。
「どんだけ濃かったの……」
「だからおまえは興味を持つんじゃねぇって。」
こんな感じの拒否ね。
やっぱりこの世界に来てから過保護だよなぁ……
ある意味平和に時間が過ぎていた頃だった。
晩ごはんの時間に塩が突然告げたこと、それは……
「は?ここを出る?」
「ていうかフォルさんと一緒に暮らすって?」
「うん、そのつもりなんだ。」
なんでも、いつの間にか塩はフォルさんと正式に交際を始めたらしく
いろいろ話し合った結果、フォルさんが元々暮らしてた家で一緒に暮らすことにしたらしい。
「一応アル王に話したの?」
「うん、それは場所も把握できるから好きなようにって言われたんだ。」
まぁ、もともと最近外泊多かったしなぁ……
佐藤も同じことを考えてる気がするし。
「つーか、それなら別にいいんじゃねぇの?どうせ俺らはただの居候だし」
「うん。アル王もそう言ったなら別に」
「そうですね。」
そんな感じで塩の独り立ちがあっさりと決まった。
どうせフォルさんのとこでいちゃこくんでしょこのやろう。
宿代もタダじゃないしね。うん。
塩の荷物はそもそも召喚された時に持ってたものだけらしいし、どうせ職場の関係でまったく会わないということもないからお別れ会的なのはやらなかったよ。
でも、いつか私達もここから出ていかなきゃいけないのかなぁ?
「ビネガーさん、やっぱり私達もそのうちここから出てった方がいいのかな?」
「それはお二方にお任せしますよ?ワタシとしてもまた1人になると広すぎてしまうので居てもらえると嬉しいんですけど」
それにブラウニーの仕事が減ってしまいますしね、と追加で言われたけど……
そうか、カルーアさんはただお泊りしてるだけだし、基本はビネガーさんぼっちなんだっけ。
「どのみち私は1人暮らし向かないんだよなぁ……」
「1人暮らしなんかさせれるかよ。」
佐藤の言葉にどういう意味なのか聞けば……ノーコメントだったよこのやろう。
まぁ、そもそも私が持ってるお金ってこの前貰ったバイト代くらいだし。
1人暮らしなんてできそうにないし。
なにより、お風呂がついてるとこは少し高いらしいし!!そんなのは無理だ。
「そういえば佐藤は給料とか貰ってるの?」
「ん?まぁ、見習いだから正規より安いけどな。」
やっぱり私はニートか。自宅警備員か!!
それはやだなぁ……さすがに。
とは言っても私が働けるとこってないけどさ……
「モチヅキさんも気にしないでください。ワタシが部屋を提供している代わりに雑用をしていると思っていただければいいと思いますよ?」
「うん?……そっか、考え方次第ってやつかぁ!」
「…………」
ん?今佐藤なんか言おうとしてた?
まぁ、言わずに目線を逸らしたからもう言うつもりなさそうだけど。
――佐藤が密かに言おうとしてたこと、それは私が今まで一度も気づかなかったことだったけど……
ただ、佐藤自身あの日の約束を忘れたことがなかったということを改めて教えられた感じにのちになったのは言うまでもなく……――
そういえば、私って今、佐藤のことをどう思ってるんだろ……
隣に居る方がやっぱりしっくりくるんだけどさ……
もともとしっくりいってなかったことが気付けば当たり前でしっくりいくようになったことについて深く考えていなかったオモチもそろそろ考えるタイミングじゃないのかな!って。
だが、萩達の教育により進展は亀の速度だろう。




