97:電話のはなし
――携帯を片手にぼんやりと思うのは、もし電話がかけられるとしてどこにかけるかってことだよね……
……うん、やっぱり萩兄かな。
桜姉でもいいけど姉ちゃんはほとんど電話には気付かないんだよねぇ……
携帯の中にある電話帳から萩兄の番号を見つけて、いつも使うように発信をして。
「……あ、萩兄?」
一瞬の沈黙。
次に聞こえてきたのは戸惑いが混じった声で……
『杏ちゃん……なんで……』
「よかった。案外通じるものなんだぁ」
萩兄にとりあえず今までのことを話せば何故か納得された。
なんでも、私が召喚されたときちょうどお父さん達が見てたらしい……
それじゃあ納得するしかないか。
それからしばらく家族に代わって貰ったりして話をして。
お父さんに代わって貰ったとき、私はお父さんの言葉に少しだけドキリとした。
『杏子、おまえのことだからすでに答えは決まっているんじゃないのか?』
「……うんまぁ……よくわかんないっていうのもあるにはあるけどね……」
お父さんは少しだけ苦笑いが含んだ声でこう言った
『杏子がどういう選択を選んでも怒ることはないからな。』
「うん、ありがとーお父さん。」
『あぁ……じゃあ萩にかわる……』
お父さんって実は口下手なんだよね。
ある意味遺伝らしいけど。
その後萩兄と2,3言交わして電話を切ったけど……
にしてもまさか電話が通じるとは……
ちなみにじゃないけどメールは送れないし、ネットなんて通じもしなかったよ。
とりあえずメールのとこはメモ帳代わりに使うかな。
……携帯を作ったもとい呼び寄せたらしい私の携帯はあの日からまったく電池が減ってる様子がなかった。
まぁ、減らないなら充電する必要ないからいいって言えばいいんだけどさ。
たまに佐藤のとこのおばさんにかけて話するけど……何故か佐藤は電話に出たがらなかった。
おじさんならいいのかな?
でもうちのお父さんとか萩兄とは何度か話してたよ。
ただ、塩に電話使うか聞いてみても塩はあっさりと首を横に振っていた。
やっぱり塩は元の世界に帰りたいっていう意思がなさそうだよなぁ……
まぁ、塩の家のことはよく知らないんだけどさ。
「……でんわ……ってなんじゃ?」
「アル王、ホントいつの時代にいたの……」
アル王は電話自体を知らなかったらしい。
そもそも電話がいつの時代にあるのかは知らないけどさ。
携帯はとりあえず出さないでおこうと自分に誓ったよ。さすがに壊されたらショックでかいし。
「遠くの者と話をすることができるツール……そんなものが……」
「……そんなに見ても貸さないよ!?」
ついでにリデルさんも興味深々だった……
やばい、この目は絶対分解して調べるタイプだ……っ
「……これ、リデル。さすがにやめてやるんじゃ」
「……仕方ないですね……」
「代わりにこれあげるから!!」
私はリデルさんに糸電話を即席で作ってあげた。
ていうかアレ自体即席ものか……
……まぁ、しばらくそれの説明をさせられたのは言うまでもなく……
リデルだって智のリデルって呼ばれてるくらい知識欲が強いです。
糸電話いいよね。
あとオモチの父は察する男(ただし名付けは……)




