未来のディストピア飯
2031年、飽食の日本にも食糧危機がきてしまった。原因不明の気候変動や疫病が多発し、野菜、肉、魚がほとんど食べられない条件だった。スーパーマーケットは戦場と化し、戦時下のような配給制が採用された。その中身は昆虫食や金持ちの残飯ばかりで、フリマアプリでは小麦粉一袋でも10万円もする状況になっていた。
餓死するものも相次ぎ、葬儀も追いつかない。路上に死体が腐敗している事も特に珍しくはばい。
Eもそんな世の中で、死ぬ思いだった。身体もガリガリで、飲み水すらまともに入手できない。
そんな中、とある家に缶詰、塩、パスタなどが大量に備蓄されているという噂を聞いた。陰謀論好きなクリスチャン一家のようで、何とか分けて貰えないかと考えた。乞食みたいだが、背に腹は変えられない。
「帰ってよ。あんたにあげる食糧はないよ」
門前払いをくらった。家の女主人らしいが、このご時世でも色艶がよく、太っていた。
「私は陰謀論を信じて五年前からアリのようにコツコツ備蓄していたんだよ。キリギリスみたいなお前らに誰が恵んでやるか」
「あなたはクリスチャンじゃないのですか? 聖書にそう書いてあるの?」
「知るか。自分と自分の家族が助かれば、私はそれでいい。せっかくノアの箱舟に乗れたようなもんなのに、誰がお前達を助けるか」
女主人は戸を閉め、ガチャガチャと鍵もかけてしまった。
こうしてEの願いは打ち砕かれ、その場で崩れ落ちた。
気づくとEの周りにも似たような乞食がいた。女が望んでいた現実はこれか。おそらく自分と自分の家族が助かれば、それでいいんだろう。自己愛の強さしか感じないが、あんな女にはなりたくない。
ここで死にそうだが、自分さえ助かればそれで良いなんて思わない。
「あなた、こんなものしかないけど……」
隣にいた乞食にコオロギパウダー入りの煎餅を分けてもらった。おそらく配給で出たもので、味は最悪だろうが。
「あ、ありがとう……」
「二人で分けて食べましょう」
「いえ、まだ後に三人います」
「だったら五人で……」
五等分した煎餅はごく僅か。味も最悪だったが、食べられないよりマシだ。こんなディストピア飯だったが、今はこれ以外に食べたいものは一つも頭に浮かばなかった。




