研磨本陰謀論
O子は研磨本が大嫌いだった。この世で一番嫌いなものと問われたら、研磨本と即答するだろう。
研磨本は書籍の小口を研磨してクリーニングされたもの。一見は普通の本と変わりないが、触り心地が全く違う。研磨本は小口がボソボソとし、紙と紙がくっついて捲りずらいのだ。小口の見た目もフラットになってしまい、どうも見栄えも悪い。
古本屋にしか研磨本が流通していないと思われるだろう。全くそんな事はない。書店でも研磨本はよくある。むしろ古本屋の方が研磨本は少ないかもしれない。
書店の本は返品する事ができる。返品された本は、取次を通し、出版社に戻り、クリーニングされてまた書店に流通される。クリーニングではカバーや帯が新品になるが、小口はこの段階で研磨されるという。
O子は本が好きだった。本の手触りなど、電子書籍で無い楽しみも含めて好きだ。それなのに何故研磨本があるのだ。たまにサイン本もも研磨されているものがあり、暗澹たる思いだ。
研磨本は手が荒れている時も、ボソボソと引っかかり最悪なのだ。研磨本が大好きというマニアは見た事ない。O子のようなアンチのほうが圧倒的に多い。小口の見た目もフラットになってしまい、どちらかといえば、むしろ見た目は劣化している。
そもそも返品された本は、そんなに小口が汚れるか? 仕分けて汚れが酷いものだけを研磨すればいいじゃないか。古本屋だって一律に全部研磨をかけている事は稀だろう。市井の本屋に流通する研磨本の量を見るからに、これは仕分けもせず、一律に全部研磨本にしている可能性も考えられる。O子は本屋でそんな研磨本を見つけると、悲しくて、悔しくて、涙がこぼれそう。
そこでO子は考えた。研磨本の仕事は、利権の可能性がある。おそらく闇の人物の天下り先だ。こんな無駄な仕事を作っているのは、無能な人間の雇用先をわざわざ作っている可能性も考えられる。障害者雇用だったら仕方ないが、今の日本はそんな弱者に優しいとも思えない。どう考えても利権だ。そうとしか思えない。研磨業者はきっと闇の組織だ。
こんな陰謀論を妄想してしまうほど、O子は研磨本が嫌いだった。これ以上無駄な仕事は思いつかない。一生懸命研磨本の仕事をしている人がいたら、申し訳ないが、O子が出版社の社長だったら、返品本のクリーニングコストは下げると思う。むしろ、研磨本の仕事を利権目的で作っているのだとしたら、返品本の仕分け作業という有意義な仕事を増やす。一冊でも研磨が必要のない返品本は仕分けて救いたい。返品本が全部研磨が必要なほど汚れているとは、どうしても思えない。
今日も書店で研磨本を見つけた。泣きたくなってくるが、O子は負けない。書籍の発売一ヶ月以内に買えば、研磨本を掴まされる可能性はだいぶ低い事も知った。書店で返品される前に購入して、確保してしまえばいいのだ。
漫画やライトノベルは発売日から一ヶ月ぐらいの売り上げで打ち切りが判断される。こうして早く買う事は、出版社や著者にとっても良いことだ。同じような読者がたくさん居れば、闇の組織である研磨業者も潰せる可能性だってある。
「負けない。研磨本には負けない!」
O子はそう決意し、新刊コーナーから何冊も本を選び、レジに向かっていた。そに顔は勇者のように光輝いていた。




