偶像崇拝の代償
気づいたら五十歳を過ぎていた。一応正社員だが、警備員で給料も低い上に、やっている事は実質サービス業に近い。
「俺、何やってたんだ?」
実家の子供部屋ニ相変わらず住んでいたが、最近、推しの声優が結婚を発表した。
俺はモテない。イコール年齢。いわゆる弱者男性というものかもしれないが、趣味は充実しているつもりだった。アニメ、ゲーム、電車、ラノベ、フィギア、漫画、ギター、声優などなど一通りヲタクをしていたが、気づいたら五十過ぎ。子供はもちろん、妻すらいない。家族は年老いた母だけ。
趣味を楽しんでいたが、今は何だか楽しくない。思えば商業ベースで搾取される偶像ばかりだった気がする。生身の女よりコスパが良いと思っていたが、その代償はあったらしい。本来なら周囲の人間に与えるはずの愛情や時間を偶像で消費させられ、今は残っているものが何もない。せいぜいギターの演奏がちょっとできるぐらい。その動画作りもしていたが、オリジナル曲は全く受けず、既存の人気アニソンのコピーばっかりやっていた。
それに偶像はいつか無くなる。最近は推しも結婚してしまったし、漫画家もアニメーターも亡くなる人が多い。「神」と崇めていたが、いつかは死にゆく存在だったようだ。「聖地」だって単なる観光地だ。集客目的でそう言われているだけ。
何だか目が覚める。浦島太郎が玉手箱を開けた時のような気分だった。乙姫が玉手箱を彼に与えた理由は分からなかったが、今は何なく理解はできる。きっと目を覚まして現実を生きて欲しかったのではないだろうか。
「まあ、ギターぐらいはやってもいいかな。オリジナル曲を作るんだったら、少しはマシか……」
目が覚めてしまい、部屋の中にある偶像も色褪せて見えてきたが、今は何だかギターを触りたい気分。
子供部屋には拙いギターの音が響く。虚しい音。決して綺麗ではない響きを聴きながら、偶像崇拝の代償を実感していた。




