昆虫食女優、パフェを食べる
「はーあ。つまんない」
事務所の近くにある隠れ家カフェに来ていた。一見は普通の古民家にしか見えず、恐る恐る入店したが、中は普通のカフェだった。
午前中の中途半端な時間に行ったので、モーニングやランチも食べ損ね、私はパフェを注文していた。
地層のようなパフェ。上に行くにつれてフルーツやクリームなど軽い食材になっていた。見た目も可愛い地層だが、何だか最近の私はパッとしない。
私は中澤綾香。二十歳の若手女優。演技もスタイルもパッとしないので、事務所の人に命令されて「昆虫食好き」というキャラ設定で行くことになった。
最初はネットで面白がられた。私も厨二病キャラを楽しんで演じていたが、昆虫食は不味すぎた。
テレビの前でニコニコ昆虫食を食べるのは、まさに苦行。おかげで演技力はついてしまったのは良いが、最近は昆虫食ブームも去ったっぽい。作為的なブームだったし、元から人気があったとも思えない。しかも自然派ママや陰謀論者からは「悪魔崇拝女優」だと叩かれるし、勘弁してもらいたいものだ。彼らはユダヤ教の戒律まで持ち出して昆虫食を叩いていたが、敬虔な信者ごっこをしているようにも見えて不気味だ。土曜日の安息日も守っているというが、親子丼やチーズバーガーも一切食べなないのだろうか。ルールを印籠にし、「こころ」が無い感じ。
あの動物園の餌にような味も思い出す。胃の中が毒素でぐるぐるしてくる。
「あ、でも」
今食べているパフェは美味しい。美味しい地層だ。これを少しずつ探索していくと、楽しくなってきた。
「美味しいかも?」
少なくとも昆虫食なんかよりよっぽど美味しい。
「頑張って。応援してますよ」
店内にいた客も私に気づいて、優しい言葉をもらってしまった。
「ありがとう」
女優としての道はまだまだ厳しそうだけど、今は少しは頑張れそうな気がしていた。




