異世界食改革〜もし質素な食生活をしている異世界で美食を広めたら〜
D子はファストフード、コンビニ食、牛丼、袋入りのパン、ポテトチップスなどが大好きだった。いかにもジャンキーなものが好きそうな体型だ。体型だけでなく、肌もニキビだらけ。血糖値も高めだった。
外見と中見が大きく離れている事は稀だ。多くの人は外見通りの性格、生活をしている。D子は自分に甘く、一発逆転狙いで宝くじを購入し、楽して痩せるダイエット本や一週間で話せる英語テキスト、誰でも成功できる自己啓発書などを読み漁っていた。現在は大学生だが、Fランにギリギリ合格した知能レベルだった。もちろん宝くじも当たった事はない。縁起の良い一粒万倍日に律儀に買ってはいたが。
そんなD子は、いつものように部屋でコーラをがぶ飲みし、ポテトチップスを貪っていたら、突然意識を失った。
気づいたら、どこかのベッドの上。藁や土の匂いがする農家の一室だった。
窓の外を見たら、空の色が濃い。ここは日本ではない?
実際、D子を世話してくれた農民は、濃い顔立ちだった。西洋人というよりは、インドや東南アジアっぽい顔立ち。服も粗末で、何だか田舎っぽい。
インドか東南アジアの国にワープでもしたのかと思ったが、実際は異世界転移してしまったらしい。
ここは剣と魔法の異世界・フェアロック。この村は南部にあり、さほど女神の加護も受けられず、農業と漁業で細々と生活しているという。
言葉は通じなかったが、生きる為にコミュニケーションをとる必要がある。数週間で村の言語もだいたい分かるようになってきた。日本では一週間で話せる英会話の本を何冊買っても何も習得できなかったが。
それにD子は痩せてきた。農家で世話になっていたD子だったが、村の食事が美味しくない。粗末な野菜スープと硬いパン。あるいは玄米ご飯。しかも一日一食で刑務所より酷い。
「この村の料理はどうして不味いのー!」
D子は夜中、一人叫ぶ。ポテトチップスやハンバーガーの味が恋しくて仕方ない。
「D子ちゃん、呼んだ?」
そこに女神が現れた。女神としか言いようがない神々しい雰囲気の女だった。カトリック教会で見たことがあるマリア像にも似ていた。
「あなた女神?」
「もちろん。D子ちゃんには特別に魔法を一つあげましょう」
「日本に帰りたい」
「それはいくら女神の私でも無理ね」
「だったら日本の食事を無限に食べたいよ」
「それぐらいだったらいいわ」
「へ?」
D子が口をポカンと開けている間に、女神は呪文を唱えると、日本のポテトチップスやハンバーガー、コンビニのチキンが出現していた。まるで手品だ。いや、これが魔法か?
「すごい、ポテトチップス!」
ポテトチップスは日本でよく見るメーカーのものだ。他も日本でよく見た懐かしいものばかり。
「この魔法を教えてください!」
D子は女神に日本からの食の召喚魔法を習得したいと訴えた。
「よろしいでしょう。呪文を授けます。ま、たまにはこんな気まぐれも良いよね」
こうしてD子は魔法を習得し、ジャンキーな日本食を食べ続け、あっという間デブに逆戻りした。
質素な食生活をしている村人も可哀想になる。こんな不味い食事をしている村人が、惨めで貧乏臭い。
「このポテトチップス食べる?」
試しに村人にポテトチップスを与えたら、好評だった。
「D子、チョコレート、クダサイ! クダサイ、チョコレート!」
中でもチョコレートが好評で、日本語でせがむ者もいて、D子は鼻が高い。戦後すぐのアメリカ兵にでもなった気分だ。
日本のお菓子やジャンキー食べ物はあっという間に浸透し、D子は日本食のカフェを運営するようにもなった。何しろ全部魔法で食べ物を召喚するだけなので、簡単に商売ができた。チートというものだ。売り上げも良い。日本すごい。日本食すごい。毎日D子の自尊心は満たされていった。今の日本は没落国であるが、こうしていると現実逃避できて楽しい。D子のメンタリティはネット右翼と大差ない。これも戦後、日本人の自尊心が消えた事への弊害かもしれない。
そのうちD子の店はフランチャイズ化され、王都にも支店を構えた。王宮の役人にも「ニッポン、すごい!」と褒められ、学校給食に白パンと牛乳とマーガリンも導入されるようになった。
国中は日本食でいっぱいになっていく。めでたし、めでたし。
普通の異世界ライトノベルでは、ここで話が終わるだろう。この物語は、そんなライトノベルではなく、陰謀論ノベルだ。ここで話は終わらない。
D子がジャンキーな日本食を広めたので、病人が増えた。医者は過労死するものが続出するぐらいで、糖尿病、ガン、脳卒中だけでなく、うつや発達障害も増えているらしい。
元々、質素な食事で健康的の暮らしていたのだ。そこにポテトチップスやチョコレート、ハンバーガー、牛乳がやってきたらどうなるか? 結果は明らかだろう。
D子がバカにしていたこの国の食事も、健康面では理にかなっていたのだ。D子がした事は、戦後のアメリカがやった事と似通っているが、そんな事を言うのは、根拠のない陰謀論? 飽食が健康に悪い事は間違いないだろう。他にも食品ロスで環境問題も起きているという。
結局、この事でD子は国賊扱いされ捕まった。
「何でこうなったの?」
牢屋でD子は泣き叫ぶが。ここでの食事は一日一食。しかも雑穀とくず野菜のスープと硬いパンだけ。ここで暮らし始めてからは、デブだったD子もダイエットが成功し、健康診断でも異常が無いという。




