命の値段
AIの発達により、命に値段がつけられるようになった。金持ちは高額。逆に生産性のない弱者は負債額が見積もられるようになった。何しろ現在は司法や政治もAI頼み。AIに命の値段がつけられても納得する者が多い。2030年のことである。
その結果、障害者施設へのテロ行為、無差別殺傷事件を起こす無敵の人が相次ぎ、安楽死も合法になるようになったが、焼石に水。日本の治安も悪化し、街には自暴自棄になり犯罪に走る弱者が溢れていた。
所詮、この世の中は弱肉強食のピラミッド世界。生産性の無い弱者を排除したが、次に少し生産性に欠ける弱者が排除されるだけだ。どんどんと「弱者」や「普通」の基準が爆上がりしているが、強者の基準は特に変わらない。安楽死も実に強者に都合の良いシステムだった。
Kはいわゆる強者だった。IT企業の取締役で、年収も高い。妻や子供、孫もいる。それでも今の世の中は怖い。
いつ病気や障害を負うか分からない。そもそも働けない老人になるのも怖い。家の防犯はバッチリだが、いつ無敵の人に襲われるかわからない。防犯は金をかけているが、SPがついている首相や芸能人も無敵の人に襲われていると聞く。防犯を頑張っても全く不安はとれない。安楽死を推奨する政治家を支持していたが、この不安はなんなのだろう。邪魔で生産性の低い弱者を排除したのに、何故こんな世の中になっているのだろう? ユートピアどころか、地獄になっていないか?
そんな事を考えていた日曜日の午後。テレビ中継画面が暗転した。首都やリゾート地に原爆が落ちされているという。速報が流れていた。
原爆は他国が落としたものでは無かった。まして自暴自棄になった無敵の人の犯行ではない。信じられないが、地球外生命体が地球をのっとる為に落としたものだという。
この混乱の中、あっという間に地球外生命体に支配されてしまった。エンタメでよく見るような宇宙人のようなルックスではなく、見かけは金髪美女なのでたちが悪い。それでも地球上の人類には持ち合わせていない技術を持ち合わせ、原爆でボロボロになった地球も数分で復興させてしまった。
地球外生命体にとっては、地球上の人類の命の値段は低いらしい。生き残った人類は全員奴隷となり、地球外生命体の下で働かされる。虐げられ、過労死するまで長時間労働だ。ある意味、人類はみな平等になってしまったがKは小さく呟く。
「ああ、俺も無敵の人になりたい……」




